人との待ち合わせで不手際が続いたらしく、ブンレツさんは携帯電話を持つ決心がついた。そして僕は取扱説明書を読まされる。彼女はそういった類のものを苦手であると自負し、開き直り、覚えようとする気すらない。アドレス帳にブンレツさんの友人を登録する傍らで、彼女は携帯電話を買った時のエピソードを語る。
意気揚々と携帯ショップから出ると、中年の男性に声をかけられた。「失礼ですが」という前フリに身構えたという。「転換期の相が出ています。これから良くなりますよ」それだけ言ってその男は立ち去った。何かの勧誘ではなかったらしい。自分はよほどの顔をしていたのだと、嬉しそうな顔をして喋るので、僕は面倒な顔をしながら作業することをやめて黙々と入力した。