学生時代の知人にばったり出会って、彼はツボを極めたという。こと喉に関しては全国屈指と自負しており、声を変えられるからどうだと勧められた。それでは低く渋い声にしてくれと頼み、喉をまさぐった後に喉仏の下を押された。別れの言葉を何がしか添えて彼は去っていく。


自分で自分の声が分からない。また別の知人を見かけて駆け寄り、話しかけた。僕が喋っても彼女は聞き取れないようだった。重低音が過ぎて言葉が認識されないと言われる。僕は人と意思の疎通ができなくなった。別段それでも困りはせず、することもないので、というよりも何が目的で外出したのか忘れて、徒歩で帰ろうとした。


いつの間にやら知らない道を歩いている。家路につけず、道を聞こうと一軒家のベルを鳴らした。状況を説明しようとしたが僕の声は伝わらない。とりあえず麦茶でもどうぞと招かれた。味がしなかった。その時、全てを理解できたような気がした。次の瞬間、それは気のせいだと分かった。