外の空気を吸うことがめっきり少なくなったブンレツグランマを押して、ブンレツさんと3人でホームの周辺を歩いた。どこに行くでもなく。この辺りは閑静な住宅街で、どの時間帯でも人通りが激しくない。近隣の住民とすれ違うことも稀である。古い民家が売りに出されていて、不動産の人間と思しき若い男性がその家の前に立っていた。うだるような暑さの中、緑も多く残るここは蚊が多い。彼のYシャツは汗がまとわりついて、その先に露出する手の甲を血が出るほどに掻きむしる様子が痛々しかった。

自分以外に興味がないグランマは気に留めるでもなく他を見ている。僕が車椅子を雑に扱わないよう、段差や傾斜を見ているのかも知らん。ブンレツさんはといえば手さげをゴソゴソやって、その男性に近づいた。取り出したムヒをひねり出し、彼の甲につけるとさぞ嬉しそうに「ありがとうございます」と満面の笑みをもらって、ブンレツさんも満足げだった。僕もそれを見て満たされた。グランマは気づくと僕を見ていた。ああ、段差がある。