電車の座席は大体が埋まり、前に一人の男性が立っていた。ポケットからゴミを出し、それが僕のひざの上に落ちる。舌打ちをしてそのゴミ、レシートのようなものが丸まった紙切れを払いのけた。「すみません、すみません」と何度も頭を下げて、彼はその紙切れを拾ってポケットに入れた。別に戻さなくても。

その男が下車した後、僕はそれほどまでに不快感を露にしていたのかと少し反省した。車内にゴミを捨てたことに腹を立てたのではなく、ゴミを自分の上に乗っけたこと、大したことではない自分への実害のみに対する舌打ちだった。数駅が過ぎたところで老婆が乗り込んで、彼女に席を譲る。僕の中でチャラになった。