壁際の狭いテーブル席で向き合い、焼き鳥をほお張りながらビールを飲む。僕の真後ろに出入り口があって「いらっしゃいませ」の掛け声と共に冷たい風が入った。彼女の異変を確認した。振り返ると1組のカップルが立っている。過疎にならない
この町で、彼女の知人と遭遇する確率は低くないだろう。友人かと聞いてもうわの空だった。はあ、さては。
執拗に昔の恋人かと問いただす。「そう思ったけど似ている人だった」なんて、5秒でばれるひどい嘘をついて何になるのか。「どこに座った?」と振り返りたくない彼女に尋ねられた。そのカップルは僕らのテーブルと垂直に位置する窓際に座った。女性のほうは壁で見えないが、男性の横顔がちょうど視線の真中に入る。向こうも当然気づいていて、ちらちらこちらを見るが、その都度に凝視している僕と目が合い、気まずそうに背けている。僕はその様子がいたく面白かった。彼女と向かい合い、その後方に彼女の元恋人が控えている。この画は、そう見られるものではない。
良い別れ方をしなかったそうである。サディスティックな一面が顔を出し、いくらか挙動不審に陥って会話が滞る彼女に対して「いいから元カレ元カノの話を肴に飲もうぜ」と言うとさすがに怒られた。大きな声を出すなと。さらにはいつまで見ているのだと。
僕もひどい結末を迎えた経験がある。しかも僕は別れた女の悪口を平気で叩くが、彼女の「あいつが昔より不細工になっていたことはショックだが、ブスを連れていた点は良かった」というセリフは阿呆だと思い、その旨は伝えた。