疾走 SABU監督の作品は徹底して走る。主人公の少年と少女は一心に、殺伐とした曇天模様の下にある田園風景を走った。運命または宿命を疾走した。

シュウジの家庭は崩壊する。出来の良い兄は崩壊して放火魔となり、捕まった。それを機に父が失踪し、母も多額の借金を作って消えた。元来から歪んだ家庭だった。エリの家庭はなかった。彼女が幼少の時に両親は心中している。生前から折檻と脅迫の中で暮らしていた。里親には性的虐待を受けている。さらに偏見と差別。二人は孤独の淵にいる。

物語はまずシュウジの語りから始まる。現在の、おそらく中学生のシュウジが自らを「おまえ」と二人称で、回顧して語った。視点は後半に、支えと導きを彼に示した神父へ移行した。シュウジに「おまえ」と問いかけて物語を進める。

神父は人生を双六盤に例えた。「私を殺してください」「誰か一緒に生きてください」それぞれを書いた者が止まったマス目。しかし二人はまっとうした、もしくはまっとうしようとする懸命な努力を、否定的でなく暖かな目で見つめた。

クライマックスでシュウジとエリがパトカーに囲まれた。その車には岡山県警と記されている。エンドロールでは茨城県のロケーションが並んだ。沖と浜という干拓地の独特の言い回しは察するに、岡山県出身である原作者・重松清の原風景があると感じた。上下刊からなる小説を、あるいは詰め込みすぎとの印象も受けた。人物の相関が希薄になったきらいはあるが、それでも圧縮された中身は淀みがなく、濃い口が満足度に繋がる。