中学から高校にかけて漫画を読みあさって、土曜日は学校近くの寂れた書店にて「ジャンプ・ヤンマガ・スピリッツ」とだけ店主に言い、月曜発売の3誌をまとめ買いしていた。その中でビッグコミックスピリッツに連載されていた松本大洋の作品が好きだった。

短編をまとめた「青い春」と卓球漫画「ピンポン」は映画化され、二人の悪童を描いた「鉄コン筋クリート」は舞台になり、今もなお松本大洋の活躍はめざましい。琴線に最も触れたのは「花男」だった。ベッドに横たわってその単行本を読みながら、つまりは週刊誌で既に読んでいて、さらに何度も読み返している段階だったにもかかわらず、不意に嗚咽してしまったことがある。自分のその行動に理解できなかった。

野球狂の父に捨てられ、母と二人で暮らしていた少年は無頼で頭脳明晰だった。その母に父の元へ行けと言われ、嫌々ながら少年は父と生活することになる。独特の世界観という使い古されてさらに抽象的な表現方法で評されるが、所詮僕もその程度の言葉しか思いつかない。家族の再生を描く本作を久しぶりに読もうと思ったら、見つからない。どこに行ったのだ。

松本 大洋
花男 1 (1)