世界 世界、The Worldという直球タイトルは諸刃の剣である。インパクトは大きいが埋もれやすい。検索でヒットしにくい。名前負けする可能性も高い。中国第6世代の雄ジャ・ジャンクーはそれをもろともしない世界の世界たる作品を作った。

各地の名所を集めたアミューズメントパーク・世界公園でダンサーとして働くタオ。各国の民族衣装を着て、その狭い世界を飛び回る。恋人のタイシェンはそこで守衛をしている。二人とも同じ地方から北京に出てきた。かつての恋人であるリャンズーは北京から旅立った。タオの同僚となった出稼ぎのロシア人・アンナは、嫁いだ妹に会いたがっている。故郷ロシアから北京、そこからウランバートンへ行った。

急成長を遂げる中国で、ミニマリズムよろしく世界公園がタオを包んで離さない。井の中の蛙大海を知らず。しかし大海もまた世界という井である。変貌真っ只中の渦に巻き込まれる群像が描かれる。

これまでのジャ・ジャンクーの作品は地方都市が舞台となり、本作の北京とは様相が異なるが、殺伐とした空気は変わらない。攻撃的な長回しが捉える事象は、偶然を装いながら計算されつくしているように思えた。アンゲロプロスが静とすればジャ・ジャンクーは動。何も起こらなくても、不安を募らせる。派手なストーリー展開がないにもかかわらず、アクションやサスペンス作品以上のスリルを味わった。大きなイベントといえばタイシェンの同郷の友人、アークーニャンが事故死したこと。病床で喋ることができないアークーニャンは、看取るタイシェンにメモを書いた。アークーニャンの親代わりとして一緒に上京したサンライにタイシェンがそのメモを渡し、彼はそれを読んで泣き崩れる。書いてある内容を引っ張って、それをどう見せるのか、ここでも長回しが機能する。

1993年の僕は高校生で、東武東上線沿線に住んでいた。当時完成した東武ワールドスクエアの広告をあちこちで目にする。縮尺25分の1、世界21カ国102点の建築物が展示されている。北京郊外の世界公園もちょうど同じ頃にオープンし、こちらは10分の1スケール、40カ国109点の建築物。ワールドスクエアは悪評ばかり聞いて訪れたことはないが、そこに世界が集約されているのなら。

銀座は久しぶりだった。普段の渋谷や新宿に比べると観客の年齢層が高い。開場前、自分に与えられた整理番号が係員に読まれるのをぼんやり待っている時、同じようにぼんやりしている友人を発見した。申し合わせることなく、同じ日の同じ回。二人で鑑賞する。世界は狭い。