以前、バスでハーフの女の子姉妹と遭遇した。小学生の高学年と低学年くらいだと思われる。二人とも栗毛に青い目がかわいらしかった。やたら鼻の高い父親が横に立っている。彼の外国語の問いかけに対して、子どもたちは日本語で答えていた。「ウィ、パパ?」「分かってる」「ウィ、パパ?」「分かってるってば」妹のほうが促されて面倒くさそうに応じている。

その父娘は、同じマンションに住んでいることが分かった。何度か顔を合わせて、想像力を膨らませて、姉妹の性格が少しずつ明らかになる。快活な妹と理知的な姉。「ミツバチのささやき」になぞり、僕は妹をアナ、姉をトレントと名づけた。

姉妹とも人見知りが激しく、もしくは僕がいかがわしいのか、挨拶に応えてくれない。今日はトレントと決定的な場面に出くわす。マンションの玄関の郵便受けで二人向き合った。できる限りの柔和な笑顔で「こんにちは」と声をかける。トレントは口尻を少しだけ上げて僕に一瞥をくれ、すぐに視線を外してあごをしゃくった。それで大満足。