残りのタバコが心もとなく 、夜、それだけを買いに家を出た。玄関先で蝉がひっくり返って足をうごめかせている。腹を露にして死にゆくのも、もしかしたら本望でないかもと情けをかけて、せめてもの慈悲で体勢を戻すことにした。これなら生死が分かりにくい。
エレベーターを待つ間、その蝉を見ていた。明朝になれば、きっと管理人にほうきで掃かれてちりとりに入れられるだろう。ドアが開いて乗り込んでからきびすを返し、蝉を拾った。無機質なマンションではなく、土と木のある場所に置こうと。
植樹帯に移そうとしたが、蝉の足が僕の掌をしかと掴んでいる。そして、瀕死に見えたその蝉はギギギと鳴いた。感触を僕は、証として記憶に刻もうではないか。