コーヒー&シガレッツ ロングランで公開終了間際、レイトショーになっているのに客足が途絶えない。ジム・ジャームッシュともなればリピーターも多そうだ。日本においてはインディペンデントと呼びにくい。短編オムニバスで、セリフのリンクはあるものの、11の作品はストーリーが絡まない。となると映画館における他者との感性の共有は少なくなる。観客の笑いのつぼはそれぞれだった。あちこちで笑い声が聞こえるが、それはまばらである。各々のジャームッシュ観がある。

ロベルト・ベニーニとスティーヴン・ライト、イギー・ポップとトム・ウェイツが互いを探り合いながら繰り広げる会話はおかしい。スティーヴ・ブシェミやビル・マーレイの給仕はユーモアに富んでいる。「COUSINS」「COUSINS?」でのやり取りは心理面までうかがい知れる。元々ある程度のパブリック・イメージを持たれている著名人が、そのままの役柄で「なるほど」「らしい」と感嘆してしまう。

ラストを飾った「CHAMPAGNE」の空気だけが特殊に感じた。日常を切り取った他10本に比べ、異質で詩的な空間を醸し出している。タバコとコーヒー、その余韻に包まれて幕が閉じた。

どのシチュエーションでも「Cheers」とテーブルを真上から捉えた画を欠かさなかった。二人以上の人間が揃い、まみえたことを祝す。これが本作の一貫したテーマのように思えた。真上からカップと灰皿の画は、手が写ることがあっても人物までは広げない。テーブルやフロアにチェックの柄。コントラストを楽しむ。