2024年7月3日より新紙幣の流通が開始。1万円札の肖像に選ばれたのは渋沢栄一である。約400以上もの企業の祖であり、また約600を越える慈善事業に携わった栄一。豪農の子として生まれ、一橋家に仕え、明治政府で官僚になり、民間では実業家として活躍しするという、近代版の豊臣秀吉のような面白い人生を歩んだ。

 

そんな彼の著書が「論語と算盤」。

「孔子の説く道徳」と「利益追求のビジネス」。一見かけ離れているように思える2つの事象を掛け合わせる事で、より良い国を目指していこうという想いが込められた書籍である。

 

実は元野球日本代表監督の栗山英樹氏が、北海道日本ハムファイターズの監督だった際、新人選手にプレゼントしていたのが「論語と算盤」である。論語を商業に活用できたのだから、野球にも適用できるはずだ、というのが栗山さんの持論だ。つまり、教え子だったドジャースの大谷翔平選手も読んでいたということになる。

 
 

私は大河ドラマ「青天を衝け」の大ファンであったので、当時「論語と算盤」を購入した。だが勉強や仕事の合間に読む気になれず長年寝かせてしまっていた。だが、「日本人の奥底にある道理」に多大なる影響を与えた論語。これらは必ず我が身を助けると確信した私は、「論語と算盤」をオーストラリアに連れていくことにした。

 

日本の文学は古くより中国の古典に影響を受け、日本国民の気質に合わせるように発展していった。一千年を越える歴史がある。その流れを汲み、近代的価値観と照らし合わせた「論語と算盤」。ここから私、ひいては現代の我々にとって大切なことを学んでいきたいと思う。

 

書籍に触れるうえで大切なことは、「得た知識を自分の身にどう置き換えることができるか」である。読み放しでは勿体ない。自分なりの解釈をして腑に落とし込む。私が今筆を執っているのは解釈するためでもある。

 

 

◆論語とは

まずは論語の基本的情報を抑えていこう。論語とは己を律する教えである。「人はかくあれ、かくありたい」と消極的に人道を説いている。

 

儒教においては五常(五徳)と呼ばれる5つの道徳が重視される。

…Love 孔子曰く最高の道徳。

…Obligation すべきことをすること。

…Polite「仁」の具体的行動。礼儀。

…Knowledge 知識が豊富であること。

…Reliable 信頼されること。

五常をバランスよく高めてはじめて立派な人間に近づくと言えよう。

 

仁は人によって解釈が違うが、論語の研究者守屋淳氏は「愛すること」と解釈している。愛されることではなく愛することであり、受動的でなく能動的なものといえる。

 

「仁者は難きを先にして獲るを後にす」

論語にある「仁」に関する一節である。文字通り「難しいことを先に行い、利益を後で得る」と解釈しても、ビジネス風に「先行投資をしてリターンを後で得る」としてもいい。博愛と捉えるなら、「社員教育を先に施して、後の社員の奮闘で利益を得る」としても良い。

 

 

十有五にして学に志す

三十にして立つ

四十にして惑わず

五十にして天命を知る

六十にして耳順(みみしたご)う

七十にして心の欲する所に従えども、矩(のり)を踰(こ)えず

 

孔子曰く、15で学ぶ方向を決め、30で自立し、40で迷いを断ち切り、50で真の己の使命に気づき、60で他人の意見を取り入れる余裕ができ、70で欲望のまま生きても羽目を外さなくなったそうだ。現代でも40歳を「不惑」と称することが多い。まだ私は而立すらしていない年齢だが、40になれば迷いを断ち切れるのだろうか。

 

栄一は33歳の時に官僚を辞し、実業界で身を立てると決心して以降、意志がゆらぎかねない時もあったが踏みとどまってきた。成功するまで粘り切る。それくらいの強い決定と意志の維持が肝心ということだ。

 

守屋氏は上の文言を反対に解釈することができると述べている。孔子ですら14まで学ぶ方向が定まらず、29まで自立できず、39まで迷いを断ち切れず、49まで真の己の使命に気づけず、59まで他人の意見を取り入れず、69まで欲望を解放すると羽目を外していたのだ。孔子のすごいところは、生涯にわたって自らの弱点を把握し、克服していったところにある。

 

 

ENJOY>Like>know

之を知る者は之を好む者に如かず、

之を好む者は之を楽しむ者に如かず

 

なんとなく「知っている」だけではダメ。「好き」なだけでも足りない。「楽しむ」ということはすなわち「実行している」ということである。前向きな気持ちで実施してこそ物事は発展していくのである。

 

学びて時にこれを習うまた悦ばしからずや

学んだことを時々思い返して復習する事で定着率が増す。読み放しでも、メモを取るだけでも駄目なのだ。私は見返しやすいように、ブログというアクロバティックなメモを取ることにした。

 

 

以上が論語の基本情報と有名な語句である。次回は渋沢翁がこの論語を用いてどのような考えを持っていたのか、どのような事象を今後の我々の人生に活かせるか精査しながらいくつか取り上げたい。

 

 

参考図書