その日、友人の民泊所で催し物があったので、妻と行ってきた。

 

この民泊所は古民家を改築したもので、改築前からオーナーから相談を受けていた。

当初は天井に穴が開き、床が抜けているような建物で、正直なところ

「ここを買ってまで民泊に改修する意味はないよ」なんて言っていた。

紆余曲折があったものの、民泊は完成し営業を開始した。

 

完成前後、私はちょうど忙しい時期と重なってしまい、きれいになった建物を見ていなかったので、

今回は建物の見学におじゃました格好となった。

 

催しは夜の時間に行われ、参加者は10人程度だったと思う。

 

帰りの車中、妻が話し始めた。

 

『お前らは何をしに来た』

『私が静かに暮らしていたのに何故邪魔をしに来る』

 

ん?

なんだコイツは・・・

「誰だお前は。何か用か?」

 

『お前たちが私のところに勝手にやってきたのではないか』

『騒々しい。迷惑だ』

 

「お前人間か?」

『そう、私は人間だ』

「どこからついてきた?」

『酒蔵からだ。私の家だ』

 

酒蔵・・・?

あ~!!

そういえば古民家は元々酒蔵だった!!

 

「あんた名前は?」

『・・・・トイシ』

「トイシ?」

『そう、トイシだ』

 

「トイシは何の用でオレ達に話をしにきたの?」

『お前らが勝手に人の家に来て騒いでいるじゃないか』

「人の家?今オレ達が居たところか?」

『そうだ』

「お前はあそこに住んでいるのか?」

『そうだ。あそこはもともと私が住んでいるところだ。お前たちが勝手に入ってきた』

「あ~そうなんだ!ごめんごめん。それは騒がせてしまったね」

「てか、今車で家からどんどん遠ざかって行ってるけど大丈夫なのかな?」

『大丈夫だ』

 

言葉は聞き取りにくいものの、何度か聞きなおすと理解できる。

 

「で、なんでトイシさんは死んでもあそこに住んでいるの?」

「今はもう別の人の持ち物になっているんだよ」

『そんなことは知らない』

 

「トイシさんって何をしてる人なの?」

 

私はトイシさんの素性について聞いてみることとした。

 

分かったことは、

トイシさんはその酒蔵の場所に住んでいる人らしい

主だと言っているが、杜氏なのかもしれない

家族で住んでいたが、妻に先立たれて、子供も家を出てしまい最後にはひとりになったそう

ひとりが良いと言っているが、寂しそうに感じる

妻に会いたがっている

酒蔵だった家にずっと一人で住んでいる

酒蔵はとても栄えたところだったらしい

(確かにその建物は昔のメイン街道沿いにある)

といったところ。

 

ひとりでいることは寂しくないといっているものの、妻に会いたいと言った発言を聞くと寂しいのではないかと思う。

どうやら、繁栄していた酒蔵もトイシさんの代で閉めることになったようだ。

子供に継いで欲しかったという希望も絶たれてしまった。

トイシさんは最後まで酒蔵の家で生活していたらしい。

 

私は

今の場所が酒蔵でなくなっていること

持ち主は売買によって変わっていること

時代は変わり、建物は現在は民泊として使われていること

トイシさんに迷惑をかけようなんて思っていないこと

そのようなことを伝えた。

 

そのうえで、

これからはトイシさんもあの家に縁があってやってきた人達の幸せを願って欲しい

今の家主は古くなった酒蔵を再生し、地域のために活かそうとしている

そのようなことを伝えた。

 

また、トイシさんはもう亡くなっているから、奥さんにはいつでも会えることを伝えた。

心の中で奥さんのことを思い、呼べば会えるからと。

 

トイシさんは納得してくれた。

これからは民泊でやってきた人達のことを見守ってくれることだろう。

 

後日、私は家主に会う機会があったので、家主にトイシさんのことを伝えた。

・・・ってか、良く伝えたなぁと思う。

家主さんも理解してくれ、トイシさんにこれからお世話になると伝えられた。

 

その後トイシさんは現れていない。

たぶん宿泊者をもてなしてくれていることだろう。