原作:西尾維新

作画:岩崎優次

 

最終号「終戦

(おわり)よければすべて読了

(よみ)

 

前回の最後、荒野でバイクにもたれた人物が出てきたが、その人物が500億モルグは二年間でどうなったのか、をモノローグでざっくりと説明する場面から始まる。

・500億モルグという大金が市場に流出したが、ハイパーインフレにはなっていない

・停戦にもちこめた戦争は全部でも半分でもなく、50分の1ほど

そして「ボクらの非戦はまだ、いろはのいだよ」と締めて、バームクーヘンにかじりつく。

 

扉絵は『暗号学園メタバース終了後に桜の園でバームクーヘンパーティーをする面々』

 

いろはから早期の内に暗号皇帝を譲られたのか、初代暗号皇帝には東洲(とうしゅう)(さい)享楽(きょら)が就任している。

左右には、これまで通り夕方(ゆうがた)多夕(たゆう)(おもむろ)綿菓子(ゆかこ)がいる。

変化があるとしたら、東洲斎が髪を短くして、夕方が髪を下ろして、徐が髪を伸ばしている。

また、徐はE組への完全移籍を果たしており、かつて縊梨(くびなし)(したい)と共に東洲斎の実家である踏襲図(キックアタックプランニング)に潜入していたときのビジュアルに近づいている。

東洲斎の議事進行の下、学園の生徒の現状が明かされる。

 

学園元帥となった要塞村(ようさいむら)鹵獲(ろかく)は、暗号化された通信の傍受や解読を行っている。

また、政府機関とも連携しており、上記の情報共有も怠っていない。

更に、兄が乗っていた不沈空母本体のサルベージについては柘榴口(ざくろぐち)接吻(せっぷん)と協同している。

 

学園参謀の縊梨は、海燕(うみつばめ)寸暇(すんか)の祖国の改革のために潜入中の海燕と(おぼろ)そぼろ、両名についての報告をする。

現在連絡が取れなくなっているが、危険に陥った際には華衣(はなごろも)(びゅう)を追加で派遣する腹積もりをしている。

 

学園幕僚になっている夜鳴鶯(よなきうぐいす)アンヴァリッドからは、遂七不思議(とげななふしぎ)ピケの予知に関する内容だ。

世界情勢に関する内容だったらしく、回避できたものの後処理にB組(情報攪乱クラス)の三人組が当たっている。

 

牡丹山(ぼたやま)春霧(はるきり)は3年の学年大将とA組の学級兵長を兼任している。

現在、電脳空間の警戒領域が緊張状態となっており、NSAと合同調査中。

そこでは、洞ヶ峠(ほらがとうげ)(こごえ)が暗号学園メタバースの運営において活用していた『溺愛ちゃん』と同じ名前のアプリが活躍している。

 

学園創設一族の現当主を務めている濃姫(のうひめ)家雪(いえすの)は、学園の理事会長の立場で出席している。

いろはが神絵師と呼んでいた母倉(ははくら)乱数籤(らんすろっと)は、ウェブトゥーンでデビューすることになった。

また、羊狼川(ようろうかわ)食穂(しょくほ)からの炊き出しの要請があったが、(なます)(あきな)のやりくりによる補助を受けている。

 

オブザーバーに就任した洞ヶ峠は『応援より応戦

(メタバース)という電子漫画をハッキングにより潰している。

さらに、未だに眼鏡兵器に拘っているらしく、安全性が上がらない、とぼやくが東洲斎からは開発を中止するように釘を刺されている

 

徐からは、東洲斎が以前『500億モルグを手に入れたら回収したい』と語っていた『銃眼』についての報告が行われる。

二年間で回収率は43%まで進んでいる。

また、当時『銃眼』を与えられていた子供達の保護も同時並行で行っている。

 

「先代の念願の尻尾くらいには私の代で届きそうかしら」

前回の終盤に暗号皇帝と認定されたいろはを先代、それゆえ自身を二代目と称する東洲斎は、現在の進捗報告を締めくくる。

「そう言えば、きょ…、おーっと」

ここで、夕方が共同作戦の合流日を確認するために発言する。

どうやら合流日は今日だったらしく、暗号学園に一年先行する形で設立された塹壕学園の初代主席卒業者との共同作戦という触れ込みになっている。

 

「押忍!評議会の皆様!」

東洲斎の話を遮って、ある人物が入室してくる。

 

かつて『戦場の踊り子』と呼ばれていた人物が、勿忘草(わすれなぐさ)和音(わをん)の名を冠して暗号学園の一年生として入学していた。

勿忘草は写真部に入部していることもあり、卒業アルバムに使用する素材の監修を頼みに来ていた。

 

学外の生徒達への連絡を洞ヶ峠が買って出ると、勿忘草は救出してもらったことや名前をもらったことも含めて一同にお礼の言葉を述べる。

救出には、陸繋島(りくけいとう)とんぼや雁音(かりがね)嚇音(かくね)が重きをなしたらしい。

「あの方に感謝してもし足りません!」

その言葉を聞いた東洲斎は、夜鳴鶯とアイコンタクトを交わし「あなたを助けられてたからこそ、此度会う決心がついたのだから――」

 

冒頭のバイクの人物のもとに、馬に乗った人物が訪れる。

 

「おー。久しぶり」

と、いろはの過去編以降の登場にも関わらず、夜鳴鶯(よなきうぐいす)アンヴィシャスはあっさりした反応を示す。

先ほどの共同作戦は、いろはと夜鳴鶯の二人で紛争を停めるというものだった。

 

戦場を遠目に見ながら、どうするか作戦会議をする二人。

いろははバイクにまたがり「紙と鉛筆で戦略

(ゆめ)を描く!」と答えると、歌謡

(うた)って舞踊

(おど)って応援だ!」と馬上から夜鳴鶯が応じる。

二人は紛争を停めるために走り出す。

 

ここからはセリフがなく、これまで登場した生徒がクラスの壁を越えて暗号バトルをしていたり、日常を過ごしたりしている場面が映る。

そこでは、これまでに作中で出てきた三竦み

(トリレンマ)捕物帖

(とりものちょう)軍法麻雀

(マーシャルマージャン)兵棋演習

(マダミス)に興じていると思われる生徒もいる。

これまで名前が挙がらなかった匿名希望(とくめいきぼう)も生存して学園に在籍している描写が挟まっている。

 

最後はいろはのバイクに取り付けられている通信端末に、暗号学園メタバース終戦後に行われたバームクーヘンパーティーで撮影された写真が、洞ヶ峠から送られてくる場面で締めとなる。

 

 

その⑦に続く

 

感想

今回は前回の終わりにもあった通り、二年後の世界が描かれた。

戦争を停めたり、平和な状況を維持したりするには、500億モルグは十分ではなかったのか、50分の1ほどしか進捗していないらしい。

しかし、クラスの壁や派閥を越えた超党派での集まりを作ることができたのは、いろはのお陰、と要塞村がフォローしていたことは、いろはの二年間の活動が評価されている感じがする。

そこに至るまでに、波乱やドラマがあったのかもしれない。

 

少なくとも、『銃眼』の回収のために、過去の遺恨がある縊梨と東洲斎が和解して協力体制を敷いていることには驚かされた。

前々回、いろはが徐から託された機械を東洲斎に渡していたが、その中身は『銃眼』に関する情報だった。

しかし、この流れには疑問がある。

東洲斎派に所属する徐に対して、求めている情報にアクセスできるようにするだろうか、と。

徐がE組で情報を得ることができたのも、縊梨の手の平の上、仕組まれた展開なのかも知れない。

 

また、二年後の世界では、いろはが前回語っていた『平和のコントロール』について、どういったことをするのか、その一端を垣間見ることができた。

電脳空間の監視から、通信の傍受、果ては学外での実践活動まで幅広く活動している。

貧困や飢餓は争いの原因になり得る。

それを無くすための活動の一環として、羊狼川の炊き出しが行われていると思われる。

現実でも炊き出しは食を求めた犯罪を減らしたり、餓死者や行き倒れを防いだりすることに繋がっている。

戦争を停めるだけでなく平時の悲劇を無くしたい、という洞ヶ峠の思想が炊き出しに反映されている。

そういった活動の裏でひっそりと、いろはの父のいろは坂四十八ヶ(しとやか)が書いたと思われる漫画が潰されているのは、笑わせポイントなのだろうか。

 

さらに、二巻から続く伏線として存在していた『戦場の踊り子』がいろは達の活躍によって救出されたことが明かされた。

学級兵長決定戦の予選で使われた兵棋演習

(マダミス)において、設定上の被害者である勿忘草和音を新たな名前にしている。

勿忘草の正体に関しては、本名を知られるといけない人物なのか、物心つく前から自身を踊らせていた組織にいたせいで名前がないのか、どちらにせよ壮絶そうな過去がありそうだ。

名前を変えているとしたら、上述の組織からの証人保護の一環と見ることができる。

勿忘草曰く、陸繋島と雁音といろはの三人が救出に重きをなしたらしいが、陸繋島が場所の特定をして、雁音が動画を通して手から情報を読み取り、いろはが現場に行く、という連携があったのかもしれない。

最終回でが回収されるまで『戦場の踊り子』の伏線をすっかり忘れていたが、救出された結果だけでなく過程も是非見たかった。

 

前回の最後と今回の冒頭に出てきた人物は、終盤に判明したがいろはだった。

ゴーグルについては明かされていないが、形が要塞村のゴーグルに酷似していることから、要塞村の可能性もあるのでは、と予想していたが、作者の狙い通りかわからないものの、しっかりひっかかった形だ。

要塞村はゴーグルを付けていなかったことから、いろはが無事に帰ってこれるようにお守り代わりとして…とかの事情があったのだろう。

単行本のおまけ四コマで、要塞村のつけているゴーグルは兄の形見だと判明しており、それを託されているいろはから見れば、無茶ができないようにするストッパーの役割を果たしているのかもしれない。

 

最後に、いろはの過去編以降行方不明のような扱いになっていた、夜鳴鶯アンヴィシャスは作品内のバランスブレイカー級のフィジカル強者の雰囲気がする。

具体的な例としては、戯言シリーズの哀川潤が挙げられる。

いろはを救出しに来た際、鉄格子を素手で壊していることや、スパルタ男子校の塹壕学園の首席卒業をしている実績がその考えを補強している。

連載が長期化されていれば、アンヴィシャスの活躍シーンや塹壕学園との共闘編も多少なりとも増えたかも知れない。

さらに、アンヴィシャスの乗る馬のゼッケンには『ZANGO UNI』と書かれていることから、塹壕学園は大学もあると見ていいだろう。

そうなってくると、作中の暗号学園の三年生達の進路も暗号学園の大学に進学する可能性も考えられる。

 

 

最後に、個人的に「面白い」と思ったシーンを紹介する。

『踊る三人』を挙げる。

 

いろはとダンスバトルをした徐、いろはの親友の絣、いろはに助けられた勿忘草、といういろはに縁のある三人がチョイスされている。

いろはが学園に帰ってきたら、四人でダンスユニットとかも組んだりするのだろうか。

 

次回は、現在ジャンプ+で無料公開中のsecret mission『ALOHA』のネタバレ感想を投稿する予定だ。

番外編限定の新キャラが出るのか、既存のキャラだけで回すのか、楽しみだ。

それでは次回の更新をお待ちください。