作者:荒木飛呂彦

 

ジョジョの奇妙な冒険 第4部 

ダイヤモンドは砕けない

デジタル版 第3巻 

イタリア料理を食べに行こう 

その③とその④

 

ドラマ版の『密漁海岸』では、前半部分に『ジョジョの奇妙な冒険第4部』の中の『イタリア料理を食べに行こう』というエピソードを実写ドラマ化している。

ドラマ版の後半部分の内容も別記事で投稿しているので、そちらの方も読んでいただけるとドラマ化されたエピソードの全体が掴めるようになっている。

また、この投稿の後半部分では、漫画版の感想と併せて、実写版と漫画版の内容や演出の違いや比較も行っている。

 

【上】のあらすじ

新しくできたイタリア料理店を訪れた東方(ひがしかた)仗助(じょうすけ)虹村(にじむら)億泰(おくやす)の二人。

そのレストランを一人で運営するシェフのトニオ・トラサルディーは、自身の作った料理は人を快適な気分にさせる、と言う。

億泰は実際に寝不足と肩こりが治ったものの、仗助は何らかのカラクリがあるのでは、と疑っている。

 

本編

前回の最後に出てきたパスタに対し、『赤トウガラシ』が入っているのかを問う億泰から続いている。

トニオは肯定し、今食べている『娼婦風スパゲティー』ついて語る。

しかし「『辛い』のダメなんスよ」と億泰は申し訳なさそうに言う。

カレーは甘口、寿司はわさび抜き、それぐらい辛いもの苦手だ、と。

実際、パスタについたソースを舐めるだけでも水をグビグビあおる。

 

そんな億泰の様子を見た仗助は、トニオを横目で窺いながら、ある提案をする。

「食うの、やめろよ」

トニオの表情が一瞬不機嫌そうになるが、元の笑顔に戻る。

そして「辛いのが苦手な人でも食べられるように作ってあるんですヨ…」と残念そうな反応をする。

また、パスタの代金は支払わなくてもいい事を告げ、第二皿(メインディッシュ)を作りにキッチンへ下がっていく。

 

億泰はというと、パスタが辛くて食べられないことを惜しがっており、トウガラシ抜きで作り直してもらおうか、と考えている。

しかし、仗助の反応は異なる。

「食えなかったのはラッキーだったかもな!」

億泰がその訳を聞くと、先ほどの涙や垢の量が客観的に見て異常だったことを挙げる。

この意見に億泰は、山形にある白布温泉へ行った際、もっと垢が出た上に腰痛も治ったから、おかしくはない、と返す。

それでも仗助の中にある不安は拭えず「『スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う!』」という言葉を発する。

まだ、判断はつかないが、それぐらいの超常現象をトニオが起こしていることから、疑念を持っている。

 

「怪しい、ねェーっ」

そう言いながら、パスタソースを舐めている億泰。

辛いと言いながらもソースを舐めていることを仗助が指摘すると「思わずなめたくなっちまうんだよ……」と言い、遂にはフォークに巻いていたパスタを口に入れてしまう。

辛いは辛いのだが、癖になる辛さがする、と味の感想を述べながら、億泰はパスタを勢いよく口に運んでいく。

 

「ンまあーいっ!!味に目醒めたァーっ」

すると、億泰の上顎の歯が一本口から飛び出して、テーブルに突き刺さる。

その歯はトニオが見破った虫歯だった。

 

「!?う…うげっ!!」

突如うめき声をあげる億泰。

見ると、下顎が不自然に前にせり出してきている。

下顎の方にある虫歯も飛び出して、店の天井に突き刺さる。

さらに異常は続き、先ほど抜けた歯が生え替わってきている。

 

異常なことの連続に、我慢の限界に達した仗助は料理を調べることにする。

 

「その『スパゲティー』を!なおして材料別のところまでもどすッ!」

調理される前の状態まで戻る麺、トマト、赤トウガラシなど、その中に何かがいる。

その何かはキッチンへとすっ飛んでいく。

 

「あ…あれを食ってたのか……!!」

驚愕する億泰に対し「やはり『トニオ・トラサルディー』、スタンド使いだったかッ!」と疑いが確信へと変わっていく仗助。

 

いざ、キッチンに乗り込んでトニオを問い詰めよう、となったが、腹を押さえてうずくまる億泰。

「腹がおもいっきり痛くなってきたあ~っ!!」

そんな億泰を置いて、仗助はキッチンへと単身潜入する。

「いったい何をたくらんでやがるッ!」

近くのワゴンには完成した『メインディッシュ』が置かれている。

 

バクバク、ガツガツ、ムシャムシャ。

先ほどから奥の方で何かを食べる音が聞こえており、その音のする方へと仗助は歩を進めていく。

そこには、ケージの中にいる子犬にワゴンの上にあった『メインディッシュ』の『子羊背肉のリンゴソースかけ』を食べさせているトニオがいた。

何をしているのか様子を窺っているといきなり、子犬は吐血してしまう。

 

「なにイッ!」

驚いて声が出てしまった仗助だが、それに反応したトニオは鬼のような形相で振り向き、包丁を投げつけてくる。

 

包丁は壁に勢いよく突き刺さり、仗助の方へと近づいてくるトニオ。

仗助は「その『料理』で何をしよおってんだァーッ」と臨戦態勢に入る。

 

そんな仗助の後ろからも、バクバク、ガツガツ、ムシャムシャと何かを食べる音がする。

恐る恐る振り向くと、腹痛を訴えて動けなくなっていた億泰の姿が。

「ハラがイテーけど食わずにはいられねーっ」

その顔には、脂汗も浮かんでいる。

先ほどの子犬を見ていたこともあり、料理を食べないように仗助が注意するも、手遅れだった。

 

「幸せのくり返しだよぉぉぉぉ~っ」

そう涙を流しながら料理の感想を語る億泰だが、内臓が腹を突き破って飛び出し「な…内臓がッ!!」と驚愕し崩れ落ちる。

 

「億泰ぅ~ッ」

仗助も衝撃的過ぎて名前を呼ぶことしかできないが、その背後には四角いレンガのようなものを振り上げたトニオが迫っている。

 

「タダじゃあおきマセンッ!」

その声に振り向いた仗助に、トニオは持っている物を突き出す。

どうやら、トニオが怒っていたのは、仗助が勝手に調理場に入ってきたことが原因らしい。

だから、石けんで手を洗うように、と。

「手を洗えだと?」

仗助は予想外の展開にキョトンとした顔をする。

 

さらに「ゲリ気味だったハラが治ったァーっ」と億泰がスッキリした表情で立ち上がる。

そんな億泰の様子を見てトニオは満足げにしている。

先ほどの吐血していた子犬はというと、元気に尻尾を振っている。

トニオ曰く、億泰が食べた肉料理は難しい料理なため、子犬に味見をしてもらっていた、とのこと。

 

ここでやっと、トニオの目的には裏が無く、美味しい料理を食べてもらうためだったのか、と仗助は問う。

「ソレがワタシの生きガイでス」とトニオは返答する。

仗助はトニオに「『スタンド使い』だろ?」と聞きたかった質問をし、自分と億泰のスタンドを出して見せる。

トニオはこれまで、スタンド使いに会ったことがなかったと驚き、スタンドの力を得た過程や日本に来た経緯といった身の上話を始める。

 

それらを語り終えたトニオは、それでも仗助が無断でキッチンに入ってきたことは許されない、と言う。

そして、仗助にキッチンの床や柱、調理台などを拭くように言いつけて、掃除道具を渡し、自身は億泰の水虫を治すためにデザート作る。

デザートの内容はプリン。

 

億泰は女子供の食べ物、と鼻で笑いながらスプーンで一口。

「天使のような料理人だあ~あんたはよお~ッ」

美味しい料理を食べて健康になった億泰に対して、キッチンの掃除をする仗助で締め。

 

 

漫画版の感想

登場人物は三人と少ないながら、三人それぞれのキャラクターをわかりやすく表現できていた。

主人公の仗助は、トニオに対してスタンドを悪用している人物なのでは、と疑い始めた場面からトニオへの当たりが強くなっていく。

仗助の友人の億泰は、身体の具合が良くなっていく過程での異常事態に違和感を覚えること無く、結果だけを見てトニオを素晴らしい料理を提供する人物、と評価している。

 

トニオはというと、初見で読んだときは、謎の料理を提供する敵か味方か分からない人物、という印象を最後のネタばらしの段階まで保っている。

しかし、トニオの立場からストーリー見ると、苦労して店を持ったがヤンキーっぽい見た目の男子高校生二人が来店してきて、その内の一人が、なぜか因縁を付け続けてくる、という気の毒な立ち位置になる。

 

トニオは行動や思想が完全に善人なので、仗助の料理への警戒に対しての過剰すぎるぐらいの防衛反応にも一瞬ムッとするぐらいで、すぐに笑顔に戻っている。

この投稿を書くに当たり、一社会人の立場でこの描写を見返してみると、トニオがかなり大人な対応をしており、自分の店で杜王町に根付いて成功しようという覚悟を感じさせられた。

また、食材へのこだわりや料理に対しての誇りの高さから、スタンド能力を差し引いても料理人としての優秀さを垣間見ることができる。

 

次項では実写版との比較をしていく。

 

実写版との比較

大きな目立った変更点としては、エピソード全体のテーマが挙げられる。

漫画版では『スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う!』という概念の紹介の導入となっている。

この概念のおかげで、今後スタンド使いを多数出すことに対して、読者の中で疑問や違和感が生じてきたとしても、問題が無いように予防線を張っている。

対して実写版は、『医食同源』を主軸にしている。

なぜ、『医食同源』なのかというと、露伴の担当編集の(いずみ)京香(きょうか)の不摂生について、食に気を遣っていないから虫歯になる、という持論を露伴が展開し、その際に『医食同源』という言葉で持論を補強している。

また、トニオに対しても『医食同源のスペシャリスト』という賛辞を送っている。

 

その他にも大小さまざまな変更点はあるものの、大きく分けて三つの違いを挙げる。

①    トニオの店への来店の経緯

漫画版では通りがかった際に気になったから、となっているが、実写版では泉が露伴に『食』をテーマにした怪奇ミステリーを描いてもらうための取材、という名目になっている。

 

漫画版は派手な演出や大げさなリアクションが目立つが、実写版では来店した人物が泉と露伴という大人な二人なため、全体的に静かな印象を与えている。

実際に、料理を食べて身体に異常が生じた時、健康になったから結果オーライではなく、困惑した表情を浮かべていることが、超常現象に翻弄される露伴、という『岸辺露伴は動かない』シリーズのホラー味を色濃く表している。

また、泉に虫歯があることを知っている露伴の反応として「水がしみるのか」と問うシーンがある。

この演出は、原作よりも精神面が大人になった露伴を感じさせ、良改編だと個人的に思っている。

 

②    トニオの料理の設定

スタンドを使わずに身体を健康にするにはどうするか、この問いに『医食同源』を持ってくることで、食べると健康になる、というギミックを納得のいく形で落とし込めている。

『医食同源』とトニオの料理の組み合わせとして、毒性のある食材とそれと相性の良い食材を組み合わせることによって身体に良い結果を生じさせるのは、オリジナリティの溢れた解釈となっている。

その結果、実写版のトニオはサソリの毒を摂取した折に、手の平を見るだけで体調を見抜くことができるようになる、という『能力』を得ている。

 

また、露伴がトニオの料理に対して抱いた違和感が確信に変わる契機として、パスタに入っている巻き貝が有毒の種類だ、と見抜いたシーンがある。

このシーンは実写版において、フィールドワークを積極的に行って動植物を観察するシーンが原作よりも多く描写されている露伴だからこそ気付くことができたと思われる。

他にも、トニオの料理に『医食同源』の考えが含まれている例として、モルヒネやニトログリセリンを引き合いに出し、用法用量を守れば毒にも薬にもなる、といった解説を露伴がすることによって、トニオは『医薬同源のスペシャリスト』という結論の補強ができていた。

 

③    トニオのスタンドの設定

実写版では『スタンド』は存在せず、『奇跡』『ギフト』と呼ばれており、個人に帰属する超能力のような何か、という扱いになっている。

実写版のトニオは、手の平を見て身体の不調を見抜ける『ギフト』を持っているが、漫画版では自身が作った料理に対して、食べた人をたちどころに健康にできる効果を付与する『スタンド能力』となっている。

 

別の実写版のエピソードでは露伴の能力について、泉がどういったものなのか聞いているシーンがあるが、その際には、『催眠術のようなもの』という説明を受けている。

どうやら、周囲の人物には理解がしがたいものでなおかつ、現実的な技術の延長線上にあるもの、という風に表現していると思われる。

 

次項では実写版の感想を書いていく

 

実写版の感想

今回の実写化は初見時に、大いに驚かされた。

それというのも、表題通りに100%『密漁海岸』をやる、ということは判断できていても、仗助と億泰を露伴と泉に差し替えて原作の『イタリア料理を食べに行こう』を実写化したことにある。

登場人物を変更させることで『岸辺露伴は動かない』が成立するのであれば、1時間の尺に収まる範囲のショートストーリーならば、原作の『ジョジョの奇妙な冒険』のエピソードも一部再現可能となるからだ。

 

これまでにも『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部のエピソードの一つである、『じゃんけん小僧』を実写化していたが、メインはどちらも同様に岸辺露伴となっていたため、すんなりと受け入れることができた。

だが、今回の実写化は『密漁海岸』を実写化するにあたり、どうしてもトニオ・トラサルディーをわかりやすく紹介する必要があった。

それを踏まえると『イタリア料理を食べに行こう』を実写化した上で、漫画版と実写版で登場人物を変更したことは『岸辺露伴は動かない』というコンテンツの今後の展開において、自由度を増させる結果になっていた。

今後の『岸辺露伴は動かない』シリーズは、『ジョジョの奇妙な冒険』の4~6話分ぐらいのショートストーリーを実写化していくのでは、と予想する。

 

最後に、個人的に「面白い」と思ったシーンを紹介する。

 

これまで鬼のような形相で向かってくることから、スタンドを悪用しているキャラなのかと思わせてからの真面目で善良な料理人だと判明するシーン。

緊張から緩和への切り返しがわかりやすい形で表現されている。

 

読了ありがとうございました。