原作:西尾維新

作画:岩崎優次

7巻の表紙はいろはの親友「絣縁沙(かすりえんさ)

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第五十三号「それでも地球は(戦争で)回っている」

 

扉絵は地下250階法廷フロアの『陸繋

()島(りくけいとう)()とんぼ』と『得手仕手(えてして)クオッカ』

 

扉絵と同じ時系列かは不明だが、地下199階下水道フロアには地下175階絡繰屋敷フロアから引き続いて、いろは坂いろは、(かすり)縁沙(えんさ)膾商(なますあきな)のスリーマンセルがいる。

これまで攻略してきたフロアのパターンを、休憩も兼ねて整理する三人。

・ノーマルフロア

暗号を解かないと下の階に降りることができない。

その代わりに目立ったペナルティはない。

・デンジャラスフロア

地下1階防空壕フロアや地下44階雀荘フロアのように、何らかのペナルティがある。

そのペナルティは、爆死から暗号学園(メタバース)を出禁になるまで様々。

・ボーナスステージフロア

地下100階取調室フロアのようにショートカットができる。

ショートカット可能なフロアの法則は現時点では不明。

 

これまでの経験から、どのフロアもこの3種類に大別できるらしい。

そして、いろはは誰かを見捨てて先に進まずに、ショートカットを狙う方針を示す。

絣はというと、あるかわからない隠し通路探しに時間を取られるわけにはいかない、何か法則はないか…、と返す。

考え込むいろはだが、そこへ「平方数ですよ」と誰かが声をかける。

そこには、(おもむろ)綿菓子(ゆかこ)がいた。

「数字が平方数の階層には必ず隠し通路があります」と徐は続ける。

ただし…、と何らかのリスクが存在することも付け加える。

*平方数とは、整数を二乗した数字、例としては1の二乗の1階、2の二乗の4階、10の二乗の100階など

 

徐の足下は覚束なく、壁に手をついて歩いており、ついには壁にもたれて座り込んでしまう。

膾から、徐が先行している旨を聞いていたこともあり、ゲームオーバーに一度なってから追いついたのか、といろはは驚く。

*暗号学園Mのルールに一つに、フロアの逆走不可がある。

 

しかし、徐の情報が確信的過ぎることから、いろはは不信感を抱いて問う。

「今、何周目?」

 

その答えは、地下249階までを7周しており今は8周目、とのこと。

「『死んで覚える』はビデオゲームのいろはのい、でしょう?」

これには、いろは達三人は息を呑む。

 

場面は変わって現実世界の暗号学園の4階視聴覚室。

「さすがは東洲斎派にして元縊梨隊の徐綿菓子」と徐の周回プレイに柘榴(ざくろ)(ぐち)接吻(せっぷん)が舌を巻いている。

この意見に濃姫(のうひめ)(いえ)(すの)は、褒められた行為ではない、と異を唱える。

「わたくしもかつて、そんな風にして、この両眼を失ったのですから―――」

 

場面はいろは達に戻って、徐が周回している内に得た情報をいろは達三人に共有している。

曰く、地下44階雀荘フロアのような複数人いることが前提のフロア、ここも難易度は上がるが、ソロでのクリアも可能らしい。

絣は地下100階取調室フロアで分かれた(おぼろ)そぼろの動向を気にしており、刑務所フロアを通らなかったか徐に尋ねる。

これに徐は、刑務所フロアは未通過なこと、今いるこのフロアでは誤答すると鉄砲水に遭うことを伝えて、自身は周回プレイを切り上げて東洲(とうしゅう)(さい)享楽(きょら)と合流することを告げ、ソロで先に進もうと立ち上がる。

先を急ぐのは、攻略法の他にも伝えたい機密があるかららしい。

 

いろは達は徐を見送ろうとするが、いろははあることに気づく。

それは、徐の消耗具合であった。

いろはがずっとメタバース空間にいるのに、それ以上に疲労しているように見えること、このフロアの鉄砲水を知っていること、更に『死んで覚える』の発言から、これまでに何らかのペナルティを受けているのでは…と考える。

そして、周回プレイを終える、ということは脳の負荷が限界に近づいており、これ以上周回を続けることができない状態なのでは、と推測しゾッとするいろは。

ここで、地下44階雀荘フロアで戦った雁音(かりがね)嚇音(かくね)の発言「戦争だろうと迷宮だろうと生きておうちに帰れたら勝ちよ」が脳裏によぎる。

 

いろはは徐を制止し、学年大将の権限を行使しての暗号バトルを申し込む。

解けなかったら徐の即時退役(ログアウト)、解けたら下男でも塹壕学園への転校でもいい、と。

 

壁に石で暗号を書き込んでいくいろは。

徐は、いろはが自身の消耗を気遣っての即時退役(ログアウト)を持ちかけていることを理解している。

しかし、その行為自体には「情報を分けてあげたお返しが戦力外通告とは」と納得はいっていない。

作成された暗号はこのような物だった。

 

(純正の暗号バトルで遅れはとりませんよ)と徐は暗号に向き合う。

即座に既存の文字ではなく象形文字と見抜き、その上で(簡略化された星座図形ですね?)と推測する。

さらに、現行の星座にはない形のものが一つ紛れていること、星座の数が48個あることから、トレミーの48星座だと見抜く。

*トレミーの48星座は、現行の88星座にアルゴ座以外の47星座が使用されている。

アルゴ座はりゅうこつ座、とも座、ほ座の三つに分割されて88星座に登録されている。

 

それらの星座の略称をアルファベット順に並べ、日本語の50音表を順番に当てはめていく。そこで何かに気づいたのか、徐はいろはの方を向く。

 

「制限時間は30分。ヒントは『星の数ほどあるよ』」と1巻第四号でのやりとりをいろはは引用する。

そして、徐に対して、あなたとの暗号バトルで暗号の面白さを知れたこと、あなたが理想の暗号兵であることを述べる。

「地下(いま)だって星のように見上げてる」だからこそ「あなたの戦略(ゆめ)を引き継がせて」と、この場においての無理をしないように伝える。

 

徐はいろはの真っ直ぐな言葉を『愚直』と評しながらも、手の平サイズの機械を渡す。

その機械は徐が先ほど言っていた、東洲斎に伝えないといけない機密に関する物らしく『E組で入手した情報』が入っており、これを渡して欲しい、といろはに託す。

タイミングは任せると言っていても、いろはが負ける前提の発言をする。

これに「勝つ前でもいいのかな?」といろはが問うと、一瞬ムッとした表情を浮かべたが、笑顔で退室(ログアウト)する。

「ええ、勝てるものなら勝ったあとでも」

 

視聴覚室では、いろはと徐の暗号バトルの決着を見届けており、暗号の答えもモニターに映し出されている。

 

徐が負けを認めた事実について「初めて見たぜ」洞ヶ峠(ほらがとうげ)(こごえ)は驚く。

暗号が解けたからこそ判明したメッセージ、これを『真意を伝える』こと、と柘榴口は解釈し賞賛する。

これには濃姫も異論はないらしく、現在残っている13名「この中の誰かが暗号皇帝になりますの」とメタバース内での戦いの終焉を予感させる発言をする。

 

その②に続く

 

 

感想

今回は『いろは坂いろは対徐綿菓子』の暗号バトルの開始と決着を一話で行われた。

いろはと徐の暗号バトルは、1巻の第四号の内容のセルフオマージュ的内容だった。

暗号自体も共通点があり、50音表の文字を対応する記号に当てはめていくと文章が完成する、という形式を取っていた。

さらに、『ヒントは星の数ほどあるよ』という発言も今回は不在だが、夕方が出したものを再利用している。

ヒントのタイミングは徐が解いた後だったが、それを差し引いても上記の暗号バトルを思い起こさせる演出が散見された。

また、問題の形式が似ていることには、いろはなりの『過去問復習』という意味も本編では触れられていないが、含まれているのかもしれない。

 

暗号自体は、トレミーの48星座そのものや星座図系、その略称を知っていないと解けない、という知識が問われる内容。

壁に書かれたものの形から、既存の文字ではなく、象形文字からの星座の流れは納得しやすかった。

そもそも、星座には星を繋いで既存の物の形にする、という象形文字と似たような考えが根底にある。

それにしても、高校一年生で星座図系や略称を48星座分把握しているのが前提なため、かなり知識を要求される、というのが暗号の解き方を把握した上での所見だ。

 

決着の付け方については、解いた上で解答せずいろはに後事を託す、というお互いの格を落とさない見せ方をしていた。

また、視聴覚室の観戦組の一人である柘榴口接吻も暗号で表われたメッセージについて、『真意を伝える』という暗号兵にあるべき姿、と評していた。

パングラムという、限られた文字数で情報をやりとりする形式だと、伝えたいことのみが表現された簡潔な文章になる。

暗号というものについて、敵に悟られない形で味方と情報伝達をするための物ではなく、人が人に思いを伝える手段、と考えるのは遺言解読クラスの柘榴口らしい解釈だ。

 

次回の展開としては、いろは達は鉄砲水に追われて?いたため、それに対処するための脱落者が発生するのかもしれない。

これまで、暗号を解けなかったことに対するペナルティを受けた人物の直接描写はないため、それをいろはのチームで発生させるのかも…。

 

最後に、個人的に「面白い」と思ったシーンを紹介する。

『徐から託された機械について、東洲斎に勝つ前に渡してもいいか問ういろは』を挙げる。

 

地上に戻ってからではなく、メタバース空間内で東洲斎と合流できる前提の会話が、いろはの実力への信頼を感じられてゑもゐ。

 

最終7巻の分の感想を投稿し終えてから、1巻以降について投稿していきます。

それでは次回の更新をお待ちください。