原作:西尾維新

作画:岩崎優次

 

第二号「腹が減っては暗号ができぬ」

扉絵は、いろはと洞ヶ峠のモールス信号解読表Tシャツ

 

暗号学園の暗号は授業時間外でも発生する。

例えば食事。

無料とはいえ、モールス信号で料理が表示されており、うどんを食べたいいろはは、解くのに時間がかかり、行列を作ってしまう。

 

結局、行列のプレッシャーに負けたのか、カツ丼を食べることになったいろは。

時間としては、第一号の東洲斎との暗号バトルの翌日となっている。

洞ヶ峠に眼鏡を返そう、と思っていると、視界にアメリカドッグを食べている姿が入り、驚くいろは。

追われていることを危惧されるが、洞ヶ峠曰く、「放課後までは、わりかし安全」とのこと。

いろはの方は、前回もらった眼鏡について、どういった物なのか質問する。

それには答えず「放課後、その場所まで来てよ」と言って、いろはの左の手の平に暗号を書き込む洞ヶ峠。

 

 

結局、いろはは眼鏡を返しそびれた上、手の平に書き込まれた暗号と、それとは別に『宿題』を渡されて教室に戻ることになった。

昨日の今日とはいえ、東洲斎との和解を視野に入れるいろはだが、机の上に文房具や銃弾を並べて、「背中は私が守ってあげる」と友好的ではない雰囲気をしており、放課後に洞ヶ峠と合流することを決める。

 

授業を受けながら左手の暗号を解いていると、背中に違和感を覚えるいろは。

真後ろの席は東洲斎ということもあり、「刺された!?」勘違いするも、指で文字を書いて何かを伝えようとしていることに気づく。

その内容は『メガネヲ カケナキャ コクバン ミエナインジャ ナクテ?』だった。

昨日、眼鏡をかけたら、見違えるように暗号を解くことができた。

それをもう一度見たいのか、東洲斎からの眼鏡の使用を促すメッセージである。

東洲斎と共に洞ヶ峠を追いかけている夕方と徐も様子を窺う中、いろはは眼鏡をかける。

 

今回は、手の平の暗号が4×4の16マスに区切れるように、補助線が引かれている。

1マスだけ空白のマスがあることから、15マスを動かして絵柄を作るスライドパズルではないか、といろはは推測する。

 

そこから解くこと2時間ほど経った午後3時前、いろはの手の平には『M』の一文字が出来上がっていた。

 

 

しかし、この『M』をどういう意味を読み取るのかが重要だ。

M組を指すにしても、教室の場所がわからない。

「やっぱり、なんとしても食堂で話を聞くべきだったかな」と考えている内に、何かを閃くいろは。

 

2年B組の教室で、洞ヶ峠といろはは落ち合っている。

なぜ、この教室にいるのかというと、『M』をどう取るかが鍵だった。

食堂で暗号をもらったことは無意味ではなく、モールス信号を使用している、というヒントだといろはは解釈した。

モールス信号でMは『――(ツーツー)』と読む。

これを『TWO TWO』と読み替えて、『2-2』つまり、『2年B組』になる。

『――(ツーツー)』を『一の一』と文字の形で判断することもできるが、『1年A組』だとしたら、ここに来て欲しい、と指定する必要はない。

なぜなら、自分の所属するクラスの教室だから。

 

このいろはの解読に対して、洞ヶ峠は「とてもあざやかだぜ」と応じる。

1年生しかいない新設校だから、上級生の教室は空いている。

1年M組はここを教室として利用しているのか、といういろはの問いに、M組はメタバースにある、と答える洞ヶ峠。

そして、いろはに「宿題はやってきた?暗号じゃないほうの」と確認する。

宿題の内容とは『クラスメイト全員にこの学園に入学した理由を聞いてくる』というものだった。

 

この18人がいろはのクラスメイト。

東洲斎と夕方と徐の三人とは眼鏡問題があるため聞けていないが、と前置きして、この宿題をすることの意味を問ういろは。

洞ヶ峠は、大半の生徒にとって「暗号学園の地下深くに埋まる隠し財産500億M(モルグ)」が真の入学理由だと断言する。

 

ここで、モルグとは何か、という説明が入る。

・モルグとは暗号資産(仮想通貨)。

・その価値は変動する。

・元本保証はない。

・下限値は先進国が計上する軍事予算の中央値。

・元本はM資金と呼ばれる、かつてGHQが日本から没収した金銀財宝らしい。

・M資金は、暗号学園の建設費、運営資金、学園一の暗号解きに与えられる報奨金といった用途で使用されている。

この500億Mを発掘するためのつるはしこそが、いろはに渡した眼鏡だ、と洞ヶ峠は説明を締める。

 

東洲斎は軍需企業の跡取りということもあり、用途は不明だが『死の商人』とレッテルを貼られている。

そんな東洲斎と同じく、自分も500億Mを欲している側の人間だと語る洞ヶ峠。

その根拠として、「世界で起きてる戦争の半分は停めることができるから」と金額の大きさのイメージをいろはにさせ、そのために「M組にスカウトされてやった」と自身が学園にいる理由を示す。

 

しかし、いろはは戦争がなくなるということに懐疑的だ。

これを払拭するために、洞ヶ峠はいろはに、俺の戦友になって欲しい、そして「まずは半分、一緒に戦争なくそうぜ」と誘う。

そして、戦友として500億Mを得る手伝いをして欲しい、具体的には学級兵長になって欲しい、といろはに頼む。

 

この言葉にいろはは、なぜ自分なのか、と問う。

洞ヶ峠は眼鏡について、暗号資産発掘のためのつるはしとして作っており、暗号を解読するための補助しかできない、自分は技術屋なので眼鏡を作れても、暗号解読のセンスがない、と言う。

しかし、いろはには、食堂で作られた暗号ならばモールス信号が関係しているのではと考えたり、1年A組と2年B組の二択で2年B組を選択したり、といった読みや直感がある。

さらに、「逃げ回っている俺を理由も訊かずに匿ってくれた」ことで個人的に惚れ込んでいる、と笑顔で語る。

 

場面は変わって、東洲斎、夕方、徐の三人が廊下で会話をしている。

洞ヶ峠といろはの二人を探していたようだ。

いろはが、クラスメイトに入学理由を聞き回っていたことも知られており、いろはを女子だと思って会話していた者も相当数いたらしい。

東洲斎は「未来の暗号部隊がそれじゃあ困るわね」と嘆息する。

また、洞ヶ峠といろはが仲良くなることを危惧している。

 

この三人は現時点では、モルグを得るためではなく、洞ヶ峠の手に渡らないようにするために行動している。

なぜ洞ヶ峠が500億モルグを得るわけにはいかないかというと、モルグには戦争が起きれば起きるほど値上がりする、という戦災の暗号資産の一面もあり、それが関わっている。

東洲斎の親が経営する軍需企業『踏襲図』の元技術顧問が洞ヶ峠凍。

そんな人物に大金が渡ってしまえば、世界で起きている戦争が倍増してしまう、と東洲斎は考えており、「私が死の商人なら、凍は戦争屋よ!」と言う。

 

その頃、笑顔でいろはに右手を差し出している洞ヶ峠だが、その背後には悪魔のようなイメージがあった。

 

その③に続く

 

 

感想

今回は、前回の最後に出てきた『500億モルグ』とは何なのか、初日から追いかけっこをしていた東洲斎享楽と洞ヶ峠凍の関係、が明らかになった。

学費や学食が無料というのは、将来の暗号部隊を育成するために、国家単位での出資が奨学金のような意味で行われているのではないか、と考えていたが的外れだった。

むしろ、GHQが日本から金銀財宝を没収、というワードからすると、モルグの財源は時代背景的に『財閥解体』が想起される。

『財閥解体』で発生したお金が、作中ではM資金つまりはモルグという形になっているのでは…。

当時の政府は国家総動員法を発令しており、金属を家庭から集めていたため、政府はお金を持っていなかったと推測できる。

しかし、徳川埋蔵金が作中世界では存在していて、それがモルグというのも意外と面白い。

今後、重要になるとしたら、そもそもモルグは存在するのか、ということで、モルグの出所ではなくなりそうなので、これ以上の言及は止めておく。

 

初日から追って追われての関係が続いている東洲斎と洞ヶ峠の二人だが、過去には東洲斎の親の経営する会社で技術顧問をしていたことが判明した。

技術顧問時代に何かがあって、会社を辞めて、といった流れの中で追われるに足る因縁が発生したのではないか、と予想する。

そして、洞ヶ峠がスカウトされたことを聞きつけた東洲斎が入学した…。

 

しかし、最後のシーンが不穏だ。

悪魔のようなものが背後にいるということは、この手を取ったら取り返しのつかないことになるのでは、という暗喩なのか。

戦争を止める平和主義者なのか、戦争を増やそうとしているのか、どっちでもないのか、500億Mに近づいてきたときに表われるだろう本性が気になる。

 

次回以降の展開としては、いろはが洞ヶ峠の手を取るというよりも暗躍する洞ヶ峠と、それに乗ったり乗らなかったりするいろは、という関係が無難だろう。

また、学級兵長という単語が出てきたため、いろはがなれなくとも、学級兵長を決める過程において、東洲斎達以外の生徒との交流が増えてくるはず。

18人のクラスメイトの名前と見た目と誕生日と出席番号が判明したため、埋もれることなく、見せ場があることを期待したい。

 

最後に、本編に関係なくとも個人的に「面白い」と思ったシーンを紹介する。

今回は、『文房具で武装する東洲斎享楽』を挙げる。

 

 

同じく西尾維新作品の『物語シリーズ』の戦場ヶ原ひたぎも再序盤では、諸事情により大量の文房具を装備していた。

本作では机の上に置ききれるぐらいの量で大人しくなっているが、ある種の伝統芸のようなものを感じさせる。

個性として、髪を束ねるのにも使用している銃弾も文房具に混じっている。

 

次回の更新をお待ちください。