原作:西尾維新

作画:岩崎優次

1巻の表紙は主人公の「いろは坂いろは」

第一号「第四次世界大戦は紙と鉛筆でおこなわれる」

 

「とんでもない学校に入学してしまった…」

と主人公の「いろは坂いろは」は入学初日から、顔を青ざめさせている。

・暗号学園とは、次の戦争に備えて、機密通信に使われている暗号を解読するための新設校であること

・担任の先生が女性であることもあって、発言への返答が「YES,MA‘AM」であること

・制服も男女共通のパンツルックだと思っていたら、軍服をモチーフとしていること

といったことが起きている。

 

初日から、いきなり暗号の書かれたプリントを渡される。

その名も「自己紹介Xワード」

 

いろはがプリントを見ているうちに、周囲は悩むことなくペンを走らせている。

その中でいろはだけが、「クロスワードパズル自体やったことがない」と手を付けかねていると、「終わりました」と自身の真後ろの席に座っている生徒が挙手する。

それに対して、担任は「お前なら他に進路はあっただろうに」と入学の理由を問いかけると、「平和ボケしたこの国の■■■■ケツを蹴り上げるためです」と言い放つ。

 

これで一日が終わるはずもなく、ここから暗号学園は通常授業に入っていく。

・国語(主要八カ国語から古語・古文まで)

・数学(高等数学含む)

・理科(科学・化学・地学・物理学・解剖学・天文学・機械工学)

・社会(地理・歴史・地政学・法学・経済学)

・体育(救護術・サバイバル術含む)

・音楽(音楽隊)

といったカリキュラムが組まれている。

 

放課後の図書室でいろはは、辞書に囲まれながら「自己紹介Xワード」を作成している。そこへ「かっ…匿って!」と見知らぬ生徒が駆け込んでくる。

その生徒には、自身の席の後ろに隠れてもらうことにしたところへ、今度は「自己紹介Xワード」をクラスで一番に解いた生徒が、二人の生徒を連れて入ってくる。

その生徒は東洲斎という名前で、誰か来なかったか、との質問にいろはは、誰も来ていないと返す。

 

東洲斎は、いろはが前の席に座っている生徒ということを認識しておらず、二人の取り巻きのうちのポニーテールの方から、「お嬢様の前の席に座っている奴です」と教わっている。

それに対して、「いたっけ」と返しながら、いろはには、「どうして暗号学園に男子がいるの?」と質問する。

いろはが冷や汗を垂らして答えかねていると、取り巻きのショートカットの方が、この学校は女子校ではなく、その考えを補強するために、「各クラスに約一名ずつどうでもいい男の子が入学させられているんです」と学校の事情を説明する。

いろはが何も言い返せるにいると、東洲斎は白紙の「自己紹介Xワード」の紙を見て、「そんな課題ひとつこなせない子に頼むことはなさそうね」と言って、いろはを残して図書室を出て行く。

 

先ほど匿った生徒が、いろはの椅子の後ろから出てきて、「俺は1年M組洞ヶ峠凍」だと挨拶する。

事情も聞かずに、クラスメイトよりも初対面を優先して味方をして良かったのか、と洞ヶ峠が問うと、いろはは「誰かを助けて後悔する気なんてないよ」と返す。

この答えが気に入ったのか、洞ヶ峠は助けてもらったお礼に「自己紹介Xワード」を代わりに解答することを提案する。

 

嬉しそうな顔をするも、いろはは自分で解く、といって断る。洞ヶ峠は、せめてこれぐらいもらって頂戴と言って、ファッショングラスを渡す。眼鏡をかけて見た目を賢そうにする分には、自力で解くことに変わりはないだろう、と。それぐらいなら、といろはが眼鏡を受け取ると、洞ヶ峠は「これで貸し借りなしってことで!」と図書室から出て行こうとする。

これを引き留めるかのように、いろはは「なんでこの学校に来たの?」と問いかける。いろはの方は

・学費がなかったこと

・入学試験もなかったこと

・他にいくところがなかったこと

を挙げる。

 

これに対して洞ヶ峠は「暴力をふるわなくてもヒーローになれるから」と答える。

過去にあった戦争で使用された暗号の例を出して、「前線で武器を使うだけじゃなくて、銃後で頭を使うことも戦争だ」と、さらに「これからの戦争はますます暗号戦こそが最前線になる」と自身の読みを語り、図書室を出て行く。

早速眼鏡をかけて、「自己紹介Xワード」に向き合おうとしたいろはは、プリントが光り出して驚く。

 

時間が飛んで翌日の教室。教室の後ろに掲示されている「自己紹介Xワード」の中に、いろはの解いたプリントもあった。

そして、それを眺めるクラスメイトの中に、いろはもいた。

そこへ担任の先生がやってきて、「友達に手伝ってもらったのか?」と問う。

一番前の席でプリントをもらった直後から放課後まで頭を抱えていたり、クラス唯一の男子生徒だったりということがあって、クラス内で浮いていないか、と心配していたようだ。

流石に眼鏡をかけたら急に解けるようになった、とは言えず、「そんなところです」と返すいろはに、先生は暗号を解くことと友達作りに関して激励して去って行く。

「いろは坂いろはくんって言うのね。あなた」と声がしていろはが恐る恐る振り向くと、東洲斎がいた。

昨日の図書室でのことを謝りたいから来て欲しい所があると言う。

 

連れてこられた先は屋上と思われる開けた高所で、東洲斎とその取り巻き二人に囲まれるいろは。その上で東洲斎は、私達と友達にならないか、といろはを勧誘する。

また、取り巻きの内のショートカットの方が、東洲斎は兵器メーカー『踏襲図』の跡取り娘だから、友達になって損はない、敵に回すと欠損する、と圧をかける。

 

昨日の図書館では「自己紹介Xワード」が白紙だったことから東洲斎は、洞ヶ峠をいろはが匿っていて、その時に、『何か』を受け取っているのではないか、と考えている。

そして、それが何か、そもそも受け取っているのかいないのか、を友達だから、といろはから聞き出そうとする。

 

これに対していろはは、「ボクは人数や暴力で脅しをかけてくる奴とは友達にはならない!」と言い放つ。

さらに、課題は自力でやった、と洞ヶ峠の関与も否定し、手伝ってくれた友達はイマジナリーフレンドのことだ、嘘だったら何でも言うことを聞く、と言う。

 

東洲斎は「オッケー。じゃあ嘘だったら、あなた三年間私達の下男ね」といろはに対して恐ろしい約束を取り付ける。

言葉の綾だ、と取り消そうとするいろはに、言葉の綾なんて暗号学園には存在しない、この暗号が解けなければ、嘘の証明になるだろう、と言って一枚の紙を渡す。

 

この中の誰かを示している、というヒントが提示されるが、自力では解けそうもないいろはは、緊張して細かい字が見づらいことを理由に眼鏡をかける許可をもらう。

また、東洲斎の取り巻きの夕方多夕から予備のヘアゴムを借り、髪をくくってから問題用紙に向き合うと…。

昨日のように用紙が光り出した。

用紙が光るというよりも、眼鏡が判断してレンズ内で重要なところをわかりやすく表示している、という感じだ。

「自己紹介Xワード」の時は自分の名前の字数に合う、縦軸の部分が光った。

今回は、漢字のみが光っている。

いろはが眼鏡に、漢字だけをピックアップするように指示すると、何もない空間に漢字の部分のみが表示された。

 

その数は47文字。

使われている漢字から都道府県を指している、と推理するいろは。

自身の考えを補足するように、漢字が表示されている空間に指を沿わせると、矢印や○、文字を書き込んでいく。

眼鏡が表示したものはいろはにしか見えないため、東洲斎の取り巻きの徐綿菓子からは、ブツブツ呟きながら、空間を触っている姿を気の毒がられる。

ここまで解いたところで、いろはの手が止まる。

これが何かわからないのだ。

そして、当てずっぽうで三分の一の確率にかけてしまおうか、と考えてしまうも、弱気になっている自分に活を入れて、再度暗号に向き合ういろは。

 

まず、都道府県の並びに着目し、そこに何らかの意図があるはず、と考える。

人口順、面積順、それとも何か他の順番なのか?

その思考に反応して北海道、青森、岩手…沖縄という都道府県の並びが表示される。

この並びはJISコード(日本産業規格)というもので、それを何らかの法則を用いて、今回もらった暗号の順番に並べ替えている、といろはは判断する。

 

ここで、東洲斎から「…そろそろ時間切れでいいかしら?下男くん」と暗に、負けを認めたらどうだ、と声がかかる。

「いろは坂いろは…だよ」それが暗号文の答え、と返すいろは。

なぜ、その答えなのか、を問われたいろはは謎解きを始める。

・古文風の文章

・そこに使われている漢字を抜き出すと47都道府県が示される。

・上記二つの情報を元に古典平仮名47音を使用したいろは歌を導き出す(いろは歌のような、文字をあ~んまでを一度しか使わない物を『パングラム』という)。

・そこに使われている古典平仮名を47音表の順に並べ、北海道は(あ)青森は(い)沖縄は(を)という風にJISコード順の都道府県に当てはめていく。

・最初に戻って、古文風の文章に使われている漢字の順番に古典平仮名を並べ替えると、いろは歌が完成する。

・だから答えは「いろは坂いろは」になる。

 

この解説に「満点よ。とてもあざやかね、いろは坂くん」と賞賛する東洲斎。

そして、今日の所は見逃すが、明日からは追い回す、ときびすを返してその場を去ろうとする。

突然眼鏡が「待てヨ東洲斎。暗号を解かれたオマエの負けなんだかラ、オマエがボクのゲジョになるのが筋じゃないのか」としゃべり出した。

眼鏡がしゃべることは誰にも予想できず、いろはの発言と勘違いした徐が殴りかかるが、それを制して東洲斎はいろはに近づいていく。

 

慌てていろはは、これはイマジナリーフレンドが…、と自分の意思ではなく、本心でもないことを主張しようとする。

目の前には「なんなりとご命令くださいませ、ご主人様」と跪く東洲斎の姿が…。

いろはが何も言えずにいると、「…ご用がないようですので、下がらせていただきますわ、ご主人様」と夕方と徐をつれて去って行く。

「■■■■」「■■■■」「■■■■」と捨て台詞を忘れない。

 

一人残されたいろはは、ヒントを示すだけでなく、空間に表示されたり、思考が反映されたり、しゃべったりする眼鏡を見ながら、「こんなハイスペ眼鏡持って、逃げ回ってたとか…。あの子一体何者なんだ…?」と呟く。

 

眼鏡にはカメラがついていて、カメラの先には、いろはに眼鏡を渡した1年M組の洞ヶ峠凍がいた。

部屋は校内の様子が映し出されている大量のモニターなどの機械が埋め尽くされており、洞ヶ峠はアメリカンドッグを頬張っている。

あの眼鏡を戦争兵器と呼び、それを使いこなして暗号を解いたいろはに見どころを感じているようで、「いっそ、このまま参戦してもらおうかな?暗号学園に眠る500億M(モルグ)の暗号資産の発掘戦争(マイニングウォー)に」とモニター越しのいろはを見ながら語る。

 

その②に続く

 

感想

4月といえば、新生活や新学期が連想される。

そういったこともあり、既に本誌上では連載が終了しているものの、『暗号学園のいろは』を紹介することに決めた。

初回が自己紹介というのが、読者視点でも主人公のように作品の世界観に入り込みやすかった。

ああいう紙を教室の後ろに掲示していたなぁ…と過ぎ去りし日を思い出す。

今後も学校を舞台にしていることを活かして、体育大会や文化祭、部活動、校外学習といったイベントもあるのかもしれない。

 

さて、暗号という言葉を聞くと、私が大学生だったときのある授業を思い起こす。

どういった教科で暗号の話題が出たのかは覚えていないが、暗号やパズルについて解説していたことが記憶の片隅に残っている。

その授業では、「暗号とは送信者と受信者のみが持ち得ている『特定の鍵』を使用しないと解けない物」と定義していた。

 

その授業では暗号の例として、古代ローマの都市国家スパルタが使用していたとされる『スキュタレー』を解説していた。

『スキュタレー』とは、

①    紙を棒に巻き付ける

②    巻き付けた紙に文字を書く

③    持ち運ぶときは棒から紙を外して紙のみの状態にする

④    暗号の受信者は、送信者と事前に決めておいた、①の時に使った棒と同じ物を使用して暗号を解読する、というものである。

 

創作物においての暗号は、解く側の知識や読み解き方、観察力といった能力が重視されることが多い。

推理小説では、事件という暗号があって、どういった方法で事件解決ができるのか、を証拠や証言を集めながら解いていくのが主流だ。

その過程で、専門的な知識や、どうやっても足りない部分を補うための思考の飛躍が必要になる。

そういう意味では第一号で出題されている暗号2つは、『特定の鍵』として、前者の道具があれば解けるものではなく、後者の解く側の能力が要求されるもの、である。

 

次回以降の展開としては、同じA組内や洞ヶ峠の所属するM組と、協力や敵対をしながら、眼鏡や500億Mの争奪戦をしていくことが感じ取れる。

教室が見えたときに、A組には主人公含めて少なくとも19人いたため、キャラクターの掘り下げも含めて楽しみだ。

 

 

最後に、ここからは、個人的に「面白い」と思ったシーンを3つピックアップして紹介していこう。

 

①    男女の制服の描き分け

ブログを書く都合上、何回か読み返したりしたが、主人公だけ右前となっている。

スーツと同じく男は右前、女は左前。

作画担当は、かなり気を遣いそうだ。

 

②    西尾辞典

「自己紹介Xワード」を作るときに、横軸を埋めるために使用している辞書の中に紛れ込んでいる。

横に置かれている国語辞典と内容がどう違うのか、西尾維新作品をよく読むからこそ気になる一品。

 

③    とてもあざやかね

個人的に東洲斎享楽の能力の高さが出ている、と思ったセリフ。

「自己紹介Xワード」で、主人公が言われたい褒め言葉として、とてもあざやか、という言葉を挙げている。

男女の制服の違いから主人公の性別を判断したり、会話をしながら暗号文を作成したりといったシーンもある。

しかし、解けるわけがないと思っていた問題を解かれた後に、当日見た「自己紹介Xワード」の内容を使うという所が、西尾維新を感じることのできるオチで大満足。

 

第二号以降も投稿する予定なので、今後ともよろしくお願いします。