対談特集第2弾 森敦 4回予定
森 敦(もり あつし、1912年1月22日 - 1989年7月29日)
スーパー・エンタティメント
超異色対談
66歳の純文学の大作家と、歌謡界のトップスターの世代を越えた
人生対話
山口百恵v.s.森敦
森敦氏は不思議なキャラクターの人である。本領は作家なのだが、
昭和48年下期芥川賞を「月山」で受けて以来、請われてテレビによく
出る。多い時には週4本のレギュラーをこなしたこともあった。
今年66歳、旧制一高を中退の後、日本各地をさすらって育んだ
人間把握の眼力は鋭く、広汎な世代のファンを持っている。かたや
山口百恵嬢芳紀19歳、この対談では森氏の絶妙なエスコートを受け、
次第に、彼女のやわらかな感性がひらいてゆく‥‥
百恵ちゃん、あなたは、男性ホルモンが多いんだよ
森 ぼくね、ひょっと思ったんだけど、あなたが入ってきたとき、
男の子に見えましたよ。
百恵 あたし、いわれたんです。男顔してるって。去年、舞台で歌舞伎
の隈取をやって、「土蜘蛛」を踊ったんですよ。その時に歌舞伎の先生
がいらしてね、隈取した顔が‥‥要するに隈取が合うっていうんです。
あなたは男顔してるから合うんじゃないかっていうんです。小さいころ
もしょっちゅう男の子と間違えられたんですけどね。
森 ああ。やっぱり、そうでしょ。
百恵 まともに女の子に見られた数の方が少ないんです。
森 だけど、あなたは色っぽい人だといわれているけれども‥‥
困っちゃたね。男がみんな女の子の恰好をする時代だからかな。
百恵 ウフッ、いや‥‥(ちょっと考えて)そうですね。
森 ほかでも男顔してるっていわれた?
百恵 いわれまいた。
森 ということは、百恵ちゃんの魅力っていうのは、男性ホルモンの
方が多いんじゃないかって思うんです。どう?
百恵 ウフフ、どうなんでしょうね。
森 ぼくは、『スター誕生』っていったかね、あれが大好きで、見てた
んだよ。
百恵 あたしンときに?
森 ウン、見てたんだ。1等賞になったでしょう。あのときに
泣いちゃったんじゃなかったかな。
百恵 いえ、しっかりしてました。(笑)
森 しっかりしてたの。なんかたいていの人が泣くんだよね。
百恵 そうですね、おもしろいですね。エヘヘッ‥‥。
森 あのときに泣かなかったということはやっぱり男性ホルモンの
関係じゃないかね。
百恵 そうでしょうか。
森 うん、それが女性的魅力にもなってるんじゃないかね。
百恵 ‥‥。
森 そのために男が一所懸命になってるんじゃないの。
百恵 複雑ですね。
森 もう遠い話だから忘れてしまったけれど、あの時は何を歌ったの?
百恵 『回転木馬』っていう歌で、当時、牧葉ユミさんていう方が
歌ってらしたんです。
森 それをどうして選んだの?
百恵 それ‥‥しか知らなかったんです。(笑)。
森 じゃ、誕生して‥‥まあ、誕生したからといって、みんなスター
になれるわけでもないんですけれども、そうすると『回転木馬』から、
だんだん歌を覚え始めた?
百恵 そうですね。だから単に音楽が好きだったんで、どちらかと
いうと学校で習う唱歌とか、クラシックのほうとか、そういう感じばっかり
やってたんですね、学校で勉強する分の。歌謡曲っていうのはその
『回転木馬』っていう歌しか知らないで、歌番組っていうのも、
小学校の5年生になって初めてテレビで見たんです。それまでは
友達が歌番組の話をしても、全然ついてけなかったんです。
森 どうなの、ふつう学校にいたときはお茶目の方だったの、
そっけないほうだったの。
百恵 その時々によって違ったです。
森 ああ、そらそうさ、人間だからね。
百恵 でも、目立たないっていえば目立たなかったみたいですね。
森 だけど勉強も一所懸命させればできんほうじゃなかたでしょう。
百恵 中の上下をいったりきたりっていう感じ。
森 それでだんだん高校生になってくると男の子からラブレター
なんかきたりして、百恵ちゃんのことをいろんなことをいったりする
ようにならなかった?
百恵 男の子の友だちは多かったですね。
森 今はどう?
百恵 ‥‥。
森 いたってちっとも構わないしね。ところがだんだん減ってきたの?
百恵 減ってきたっていうよりも、すごく友だちを作りづらい状態に
なっています、今。
森 ところでこの頃百恵ちゃんが変わったっていうんだよね、みんなが。
その変わったっていうのは、非常に妖艶な感じになってきたと
いうわけだ。
百恵 (笑っている)
森 ところが実物を見ると、妖艶どころかふつうのかわいらしい
お嬢ちゃんであるわけで‥‥糸切り歯がでてるの?
百恵 ええそうです。右側だけです。
森 アンバランスなんだな、やっぱり。
百恵 そうですかあ。
森 だって右が出れば左も出にゃいかん。バランスとって‥‥。
百恵 でも、片方だけ八重歯の人ってけっこういますわね。
森 ええ、たくさん。女の子が多いですね。
森 それはね、ちょっとどこかがバランス崩れてないと、魅力じゃ
ないんだよ、絵に描いたもちみたいになっちゃってね。
でも全部がムチャクチャでバランスがとれなかったら、たいへんな
ことになっちゃうでしょう。おもちをつぶしたようになっちゃう。
百恵 (くったくなく、大きな口をあけて)アハハハ‥‥。
森 敦(もり あつし、1912年1月22日 - 1989年7月29日)
スーパー・エンタティメント
超異色対談
66歳の純文学の大作家と、歌謡界のトップスターの世代を越えた
人生対話
山口百恵v.s.森敦
森敦氏は不思議なキャラクターの人である。本領は作家なのだが、
昭和48年下期芥川賞を「月山」で受けて以来、請われてテレビによく
出る。多い時には週4本のレギュラーをこなしたこともあった。
今年66歳、旧制一高を中退の後、日本各地をさすらって育んだ
人間把握の眼力は鋭く、広汎な世代のファンを持っている。かたや
山口百恵嬢芳紀19歳、この対談では森氏の絶妙なエスコートを受け、
次第に、彼女のやわらかな感性がひらいてゆく‥‥
百恵ちゃん、あなたは、男性ホルモンが多いんだよ
森 ぼくね、ひょっと思ったんだけど、あなたが入ってきたとき、
男の子に見えましたよ。
百恵 あたし、いわれたんです。男顔してるって。去年、舞台で歌舞伎
の隈取をやって、「土蜘蛛」を踊ったんですよ。その時に歌舞伎の先生
がいらしてね、隈取した顔が‥‥要するに隈取が合うっていうんです。
あなたは男顔してるから合うんじゃないかっていうんです。小さいころ
もしょっちゅう男の子と間違えられたんですけどね。
森 ああ。やっぱり、そうでしょ。
百恵 まともに女の子に見られた数の方が少ないんです。
森 だけど、あなたは色っぽい人だといわれているけれども‥‥
困っちゃたね。男がみんな女の子の恰好をする時代だからかな。
百恵 ウフッ、いや‥‥(ちょっと考えて)そうですね。
森 ほかでも男顔してるっていわれた?
百恵 いわれまいた。
森 ということは、百恵ちゃんの魅力っていうのは、男性ホルモンの
方が多いんじゃないかって思うんです。どう?
百恵 ウフフ、どうなんでしょうね。
森 ぼくは、『スター誕生』っていったかね、あれが大好きで、見てた
んだよ。
百恵 あたしンときに?
森 ウン、見てたんだ。1等賞になったでしょう。あのときに
泣いちゃったんじゃなかったかな。
百恵 いえ、しっかりしてました。(笑)
森 しっかりしてたの。なんかたいていの人が泣くんだよね。
百恵 そうですね、おもしろいですね。エヘヘッ‥‥。
森 あのときに泣かなかったということはやっぱり男性ホルモンの
関係じゃないかね。
百恵 そうでしょうか。
森 うん、それが女性的魅力にもなってるんじゃないかね。
百恵 ‥‥。
森 そのために男が一所懸命になってるんじゃないの。
百恵 複雑ですね。
森 もう遠い話だから忘れてしまったけれど、あの時は何を歌ったの?
百恵 『回転木馬』っていう歌で、当時、牧葉ユミさんていう方が
歌ってらしたんです。
森 それをどうして選んだの?
百恵 それ‥‥しか知らなかったんです。(笑)。
森 じゃ、誕生して‥‥まあ、誕生したからといって、みんなスター
になれるわけでもないんですけれども、そうすると『回転木馬』から、
だんだん歌を覚え始めた?
百恵 そうですね。だから単に音楽が好きだったんで、どちらかと
いうと学校で習う唱歌とか、クラシックのほうとか、そういう感じばっかり
やってたんですね、学校で勉強する分の。歌謡曲っていうのはその
『回転木馬』っていう歌しか知らないで、歌番組っていうのも、
小学校の5年生になって初めてテレビで見たんです。それまでは
友達が歌番組の話をしても、全然ついてけなかったんです。
森 どうなの、ふつう学校にいたときはお茶目の方だったの、
そっけないほうだったの。
百恵 その時々によって違ったです。
森 ああ、そらそうさ、人間だからね。
百恵 でも、目立たないっていえば目立たなかったみたいですね。
森 だけど勉強も一所懸命させればできんほうじゃなかたでしょう。
百恵 中の上下をいったりきたりっていう感じ。
森 それでだんだん高校生になってくると男の子からラブレター
なんかきたりして、百恵ちゃんのことをいろんなことをいったりする
ようにならなかった?
百恵 男の子の友だちは多かったですね。
森 今はどう?
百恵 ‥‥。
森 いたってちっとも構わないしね。ところがだんだん減ってきたの?
百恵 減ってきたっていうよりも、すごく友だちを作りづらい状態に
なっています、今。
森 ところでこの頃百恵ちゃんが変わったっていうんだよね、みんなが。
その変わったっていうのは、非常に妖艶な感じになってきたと
いうわけだ。
百恵 (笑っている)
森 ところが実物を見ると、妖艶どころかふつうのかわいらしい
お嬢ちゃんであるわけで‥‥糸切り歯がでてるの?
百恵 ええそうです。右側だけです。
森 アンバランスなんだな、やっぱり。
百恵 そうですかあ。
森 だって右が出れば左も出にゃいかん。バランスとって‥‥。
百恵 でも、片方だけ八重歯の人ってけっこういますわね。
森 ええ、たくさん。女の子が多いですね。
森 それはね、ちょっとどこかがバランス崩れてないと、魅力じゃ
ないんだよ、絵に描いたもちみたいになっちゃってね。
でも全部がムチャクチャでバランスがとれなかったら、たいへんな
ことになっちゃうでしょう。おもちをつぶしたようになっちゃう。
百恵 (くったくなく、大きな口をあけて)アハハハ‥‥。