今日は卒業式。
3年間過ごしてきたこの校舎ともお別れ。
みんなともお別れ。
卒業したら、みんなとも会わなくなる。
不思議な事に、卒業する事に悲しみは覚えなかった。
―――――――――
教室へ行くと、いつもと違う空気が流れていた。
いつもと同じ制服なのに
違うのは、みんなが右胸に“卒業おめでとうございます”
と書かれた菊の花が付けられていたとこぐらいだ。
―――――――――
式まであまり時間がない。
なのに来ない奴が二人いる。
松本と浅野だ。
松本は今どき風の見た目の女子。
浅野はパッと見地味な今どき珍しい三つ編み女子。
松本は遅刻常習犯だが、それにしては遅いし、浅野に至ってはありえない。
浅野が遅刻してきたのを、俺は見たことがない。
廊下からバタバタと走る音と
生活指導の西先生の怒鳴り声が響いた。
「おっはよう!ごめん!遅くなっちゃった!」
松本が先に入ってきた。
「望遅い!佳保は?」
「まぁまぁ、一緒に来たよ♪佳保ー!!」
松本が呼ぶと、浅野はドアの隙間から目だけを出すという器用なことをやってのけた。
「わ、笑わないでね!!」
浅野はそういった後、ゆっくりとドアを開けた。
「「「…わぁー!!」」」
ドアの向こうには、いつもの三つ編みじゃなく、キレイなストレートヘアーの浅野がいた。
…正直驚いた。
「佳保かわいいっ!」
「すごいねー!これって、望がやったの?」
「そうだよ☆のぞ、すげぇっしょ?」
どうやら松本がやったらしい。
「これのせいで遅刻したんだー」
「正確に言えば、望が寝坊したから必然的にあたしも遅刻しちゃったんだよ、望がヘアアイロン持ってるんだもん。」
などと雑談をしている内に…
「みんな、卒業式が始まるよ。廊下に整列して。」
―――卒業式が始まった。
卒業式は大したことなかった。
特に何も感じなかった。
強いて言うなら
校長の話なげーなーとか
おいおい、まだ泣くとこじゃないだろ?とか
まぁ、そんなとこで
でもさっきから
妙に浅野が頭にちらつく。
きっと、いつもと髪型が違うからだな。
―――――――――
教室に戻ると、一際デカい声で泣く奴がいた。
…松本である。
「望…お願いだからもうちょっと静かに泣いて?」
「…ぐずっあんたは血も涙もないのか!?…ひっぐ、…あんたは……ごのグラスを゛、…ずずっ」
最早何が言いたいのかわからない。
「長谷部…」
急に横から声がした。
「…浅野か?」
「いえーす。」
「…あのさ、」
浅野が口を開いた。
「ん?」
俺は返事を返す。
「…この髪、変じゃない、かな?」
「…別に変じゃないぜ?むしろ驚いた。」
「あ、やっぱ?」
「普段いつも三つ編みじゃん。」
「…最後だし…ね…」
浅野の“最後”という言葉で、なんだかやっと現実に戻って来た気がした。
すると、さっきまで何とも感じなかった卒業式の記憶、それまでの思い出が頭の中に流れた。
じんわり悲しさが押し寄せてくる。
「……長谷部……」
浅野が小さな声で呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。
「…みんな、名残惜しいけど…さよならの時間だよ…」
3年間過ごしてきた学び舎に別れを告げ
友達とも別れを告げ
校庭に向かった。
――――――――
校庭にはあまり人がいなかった。
“校庭の桜の木の下に来て”
浅野の指示に従って、桜の木の所まで来たが、
「大体、3月に桜なんて咲くわけないだろうが…」
「咲くんだよ。」
どこからか声が聞こえた。
辺りをキョロキョロ見回す。
「こっちだよ!」
声のする方に目をやると
新芽がつき始めた木に混じって
一本だけ桜が咲いてる木があった。
「狂い咲き…みたいで…」
浅野がははっと笑う。
「…なんのよう?」
「…ぶっちゃけ、大した用じゃ、ないんだけど…」
会話を遮るように風が吹いた。
かなりの突風だ。
反射で目をつぶったが、風の中小さく目を開くと
…桜の花びらが舞う中、1人泣く浅野を見た。
…正直、絵になった。
胃の入口らへんを締め付けられた。
「卒業おめでとう」
突風の中から浅野の声が聞こえた。
突風が止み、目を開けると
そこに浅野はいなかった。
回りを見渡しても、どこにもいなくて。
一瞬、あいつは存在する人物なのかを疑った。
――――――――――
数日後、
友達からメールが来た。
『俺、松本と付き合うことになったから』
『は?』
『卒業式に告白されたんだよ!'すきです'って!あー、もう松本って実は超可愛かったんだな!』
すき
という言葉を見た時
ふと
浅野の顔が浮かんだ。
また、胃の入口らへんを締め付けられた。
(一体何なんだ…?)
(この感覚は…)
浅野のことが…
好きなのか?
…まさか。
そんなわけ……
―――――――――
日が経つに連れ、浅野への思いは段々薄れていった。
(……ほらな。)
それから、俺は浅野のことはすっかり頭から離れ、新しい生活を始めた。
ある日、俺はクラスメートに告白された。
神谷っていう奴で
見た感じはおとなしめで、男がよく守ってやりたいとかいう感じのタイプの奴。
「長谷部くん、あたしじゃダメ?」
「何がだ?」
「…長谷部くん、いつも悲しそうな目をしてる。あたし、わかるの。なんとなくだけど…。」
「長谷部くん、ずっと他の誰かを…心の目で見てる。」
「…心の目?」
「そう。長谷部くんすごく辛そうなんだもん。だから…」
“あたしで忘れて…”
神谷との距離は10cm。
後少しで、キスの距離。
「…!」
俺は神谷の肩を掴んだ。
「…俺は、神谷のことそういう風に見れない。」
「俺は、浅野が好きなんだ。」
俺の中で何かがはじけた。
「長谷部く…」
「じゃあな」
…そうだよ、
俺は浅野が好きなんだ…
なんで
なんで
今更気付くんだろうか…
連絡なんかつくわけない…
俺はこないだ中学校を卒業した。
そして今度は
この思いから卒業しなきゃいけないのかと
俺は思った。
――――――――――
今卒業シーズンなので、昔のブログから引っ張ってきました!
当時通っていた学校の帰り道にふと、思いついた代物です(‐^▽^‐)
悲恋を意識して作りました。
最初は続編書く気があったんですが、なんか途中で意欲が湧かなくなってしまったんですよねー( ̄Д ̄;;
なんか懐かしいお話です:*:・( ̄∀ ̄)・:*: