<社説>教科書検定と沖縄戦 実相踏まえた記述徹せよ

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 沖縄戦の実相から外れた教科書記述が検定を通過した。沖縄戦研究の積み重ねを踏まえた記述に徹するべきだ。

 文部科学省の教科書検定で追加合格した令和書籍の中学校歴史教科書における沖縄戦記述への疑問や批判が広がっている。旧制中学校・師範学校生の戦場動員を「志願というかたちで学徒隊に編入」と記述したことや、特攻隊員の戦死を「散華」と表現したことなどだ。
 県内21の旧制中学・師範学校の元学徒らでつくる「元全学徒の会」や「9・29県民大会決議を実現させる会」は戦争を美化するものとして問題視しているのである。
 旧制中学校生らの戦場動員は軍の強い要請に基づくものだ。軍の強制力によって沖縄の住民や物資の戦力化を図った「根こそぎ動員」の一環として考えるべきであり、「志願」は不適切な記述だ。特攻による若者の戦死を「散華」と記述することも、無謀な作戦を立案し、若者に死を強いた軍の責任を問わず、殉国美談にしてしまうものである。批判は当然であろう。
 「集団自決」(強制集団死)を「逃げ場を失って自決した民間人もいました」という記述で日本軍の「強制・関与」をあいまいにした。戦後の記述の中にも、沖縄の長期軍事占領を求めた「天皇メッセージ」に触れないまま、昭和天皇が沖縄に寄せる「心残り」や「つとめ」を記述することは沖縄の戦後史に照らして客観性に欠けている。
 沖縄から疑問を提起しなければならないのは、このような記述のみならず、それが修正されないまま教科書検定を通過した点である。
 令和書籍の歴史教科書は冒頭に歴代天皇の皇位継承図を掲げ、前書きに当たる部分では「なぜ我が国はヤマト王権成立以来の長きにわたり、一度の王朝交代や国家の入れ替わりもなく今に至るのでしょう」と問い掛けている。過去の戦争と敗戦によって否定されたはずの皇国史観に基づくような歴史教科書がなぜ合格に至ったのか厳しく問われなければならない。
 沖縄戦に関する教科書記述は過去にも問題になってきた。1982年の教科書検定で日本軍による住民虐殺の記述が削除されている。2007年には「集団自決」の記述から日本軍の強制性を検定意見によって削除し、県民の強い批判を受けた。その際に指摘されたのが検定制度の恣意(しい)的な運用と、不透明な検定過程であった。
 07年の検定問題の際、記述回復と検定意見撤回と共に沖縄から強く求めたのは、教科書検定の透明性確保や沖縄戦に詳しい専門家が検定過程に関わることなどだ。今回の検定結果を見る限り、沖縄側の要求は受け入れられたとはいえない。
 沖縄戦を含め、教科書は日本の歴史をどう記述してきたか。検定制度の側面からも検証しなければならない。