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「目には目を」を超えるイスラエルのすさまじい復讐劇…今こそ停戦の時ではないか

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ダイヤモンド・オンライン

イスラエル軍の攻撃で亡くなった親族の遺体を前に悲しむパレスチナの人々(2023年11月5日) Photo:gettyimages/Anadolu Agency

 日増しに「人道危機」の声が高まっていくイスラエル・ハマス戦争。イスラム組織ハマスに対するイスラエルの報復はすさまじいものがあるが、今こそ停戦の時ではないか。(イトモス研究所所長 小倉健一)

 ● ハマスは「テロリスト」か? 呼び方を巡って議論が紛糾 

 イスラエルを攻撃したイスラム組織ハマスの呼び方を巡って、英国で大きな論争が起きている。英国政府はハマスを「テロリスト」と呼称する中、英公共放送BBCは、「テロリスト」という表現は、公平性を損なうとして「武装勢力」と呼んでいる。

  BBCはこうした表現について、「『テロリスト』という言葉は理解の助けよりも妨げになる可能性がある」「私たちの役割は、視聴者が自ら判断できるよう、現場で何が起きているか正確に説明することだ」として、ガイドラインに基づいた判断だと説明している。

  確かに「テロリスト」という呼称は、政府側に敵対する武装勢力を、一方的に政府側が決めつけるものだ。世界中の非倫理的で、非民主的な政府の首脳が、自身を脅かすものをテロリストと呼んで弾圧するケースも少なくない。  BBCを含む多くのメディア機関は、「テロリスト」という言葉の使用に関して慎重だ。その理由は、この言葉がしばしば偏見や先入観を引き起こし、また、あるグループを非難するために政治的な文脈で利用されることがあるからだ。

 代わりにBBCは、より具体的で中立的な言葉を使用することを推奨している。例えば、「爆弾を仕掛けた人々」や「武装した集団」といった表現を使い、その行動に焦点を当てることで、偏見や先入観を避け、事実を正確に伝えることができる。これは、言葉が持つ力、イメージといったものを認識し、公平で中立的な報道を心がけるための一環である。

 ● イスラエルの反撃は支持するが 「やりすぎ」の懸念が頭をよぎる 

 それにしても、今回のイスラエル・ハマス戦争は、前のめりにイスラエルの支持をしにくい部分がある。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃は、「ハマスの一方的でかつ不法なイスラエル市民への攻撃」への反撃であることから、イスラエルの反撃を、私は基本的に支持している。

  そしてまた、自国民の生命や財産が脅かされたら、烈火のごとく反撃を試みるイスラエル政府を頼もしく感じるし、福島第1原子力発電所の処理水放出に反発して日本の水産物を全面禁輸とした中国に対し、何も対抗しようとしない岸田外交には、少しはイスラエルを見習ってほしいとさえ思う。  しかし、「やりすぎ」という懸念が頭をよぎる。10人中3人(9人でもいい)がハマスの武装勢力のメンバーだとして、残りの7人(1人)の市民を殺していいわけがない。「見分けがつかないから全員殺す」がまかり通れば、日本の市民は準戦闘員だとして、東京大空襲や広島・長崎への原子力爆弾の投下などの民間人大虐殺を敢行したことを正しいと認めることに他ならない。  どこの国も守る気はないのかもしれないが、国際法では、過剰な反撃や報復は認めておらず、当然ながら民間人への不当な扱いは禁止されている。

  中東・カタールに本拠を置く国際ニュースメディアのアルジャジーラは、「The mask is off: Gaza has exposed the hypocrisy of international law(仮面ははがれた ガザは国際法の偽善を暴いた)」(2023年10月17日)という記事で以下のように報じている。 

 《ロシアの侵略に直面したウクライナの人々を擁護し、癒し、正義を実現するために、国際法がいかに熱心に利用され、そして今も利用されているかを見てほしい。そして同じ法律や規範、原則が、現在進行中のイスラエルによるパレスチナ人への攻撃に対する西側の対応において、単なる脚注や提案に縮小されたのと比べてみてほしい。米国が率いる西側諸国は、国際法とルールに基づく世界秩序の順守を、自分たちの議題に都合のいいときだけ主張する》

 

 11月8日時点の情報では、ハマスの攻撃によってイスラエル側で少なくとも1400人が死亡したというが、ガザ側での死者は1万人を超え、死者の約4割が子どもで、女性を合わせると約7割を占めると報じられている。イスラエルにとって「報復=死者・負傷者の数」という意味では、すでに目的は果たされていると考えていいのではないだろうか。

  残る問題は、人質問題だろう。《イスラエルの公共放送「Kan」が木曜日、軍関係者の話を引用して伝えたところによると、ガザでは、30人の10代の若者と幼児、20人の60歳以上の人々を含む、推定200人のイスラエル人が監禁されているという》(アルジャジーラ、23年10月21日)。この問題が解決でき次第(どんな結末を迎えたとしても)、イスラエルは即刻、停戦をしなくてはいけない。

 ● ハマス殲滅を目的にすると 一般市民まで犠牲に… 

 ハマスは、1990年代に存在感を高めた新しいタイプの武装勢力だ。何が新しいかといえば、民間人に紛れ込む、民間人を洗脳して自爆テロを敢行する。学校や病院などの民間施設に武器を保管し、ロケット発射基地に使用するなどの戦法に、イスラエル軍は頭を悩ませてきた。

  これら一般市民を巻き込むという手法を駆使する新しい武装組織ハマスに対して、イスラエルは過去にもイスラエル軍による強力な攻撃を試みたが、大きな戦果は挙げられなかった。そういった過去の歴史を考えると、今回の大規模な地上戦でハマスが本当に殲滅(せんめつ)できるのかというと大きな疑問が残る。

  ハマスの卑怯さではあるのだが、やはり民間人とハマスの戦闘員の区別がつかないとすれば、ハマス殲滅を目的にしてしまうと、ガザ地区の住民を全員虐殺する以外に方法はない。

● 「1つの目には2つの目だ!」 「屈辱に対してはすべての歯だ!」 

 ユダヤ人たちが19世紀末に起こした政治運動「シオニズム」。シオニズムは、ユダヤ人の民族的アイデンティティーを再確立し、彼らの歴史的故郷である「約束の地」に独自の国家を建設することを目指すものだった。

  シオニズム運動の父とも称されたテオドール・ヘルツルは、ユダヤ人が自らの国家を持つことによって、欧州での反ユダヤ主義や迫害から解放されると考えた。平和主義者としても知られ、ユダヤ民族国家は武器を絶対に使わないことで、隣国のアラブの強国たちからも評価を受け、共存できると信じた。

  しかし、現実はそうはならなかった。数々の反ユダヤ主義者による暴動や攻撃に直面したことで、いつしか運動の参加者は積極的な自衛手段に出るようになった。多くのユダヤ人たちも「自衛するユダヤ人」へと考えを変えた。この姿勢は、ナチの首謀者の追跡と処罰、テロリストの処罰、他国の軍事行動には軍事行動で反撃するという行動に表れた。

  「おぉ、イスラエル!1つの目に1つの目ではない!1つの目には2つの目だ!そして、なんであれ屈辱に対してはすべての歯だ!」(フレデリック・アンセル著『地図で見るイスラエルハンドブック』) 

 この言葉を残したのは、ロシア生まれのユダヤ人作家、ヨセフ・ハイム・ブレンナー氏だ。現在のイスラエルの軍事的思考は、全ての攻撃に対して、一対一で反撃を加えることだ。古代バビロニアのハンムラビ王によって制定されたハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」という一節を思い起こさせる。この作家のフレーズも、この「目には目を…」を連想させるものであろう。 

 現在の戦争の最中、ガザ地区のアハリ・アラブ病院での「何者」かによる空爆で市民を含む500人近くの人が死亡した。イスラエルは、自国の関与を否定しており、米国の情報機関もその主張に追随しているのだが、イスラエルが空爆前に繰り返し警告を発していたことから、イスラエルが悪いと確信しているアラブ諸国の人々の怒りを買っている。 

 《土曜日の攻撃後に投稿され、「ニューヨーク・タイムズ」が検証したビデオには、病院内の被害が映っていた。その映像には、がれきの中に砲弾の残骸も映っていた。パレスチナの武装集団は通常、イスラエル国内を攻撃するために長距離砲ロケット弾に頼っており、この種の砲弾を発射する榴弾砲を使用した記録はない。しかし、イスラエルはパレスチナ地域内を攻撃するために榴弾砲を使用するのが一般的である。シェフラー大佐は、イスラエル国防軍による土曜日の攻撃の責任を否定した。シェフラー大佐は、病院は標的ではなかったと述べた》(米紙「ニューヨーク・タイムズ」、23年10月18日)

  情報戦の真っただ中だが、これ以上紛争がエスカレートしてもイスラエルにとって良いこともなかろう。イスラエルを攻撃すると倍返しされることも、今回の件ですでに世界中が、隣国が、あらためて理解できたことである。今後の抑止力としては十分だ。

  「中東で唯一の自由民主主義国家」と評されることもあるイスラエルが、軍事目的を追求する中であっても、怒りや復讐心によって道徳的義務を損なうことは許されない。 

 ハマスが無法集団であることは自明であるし、ハマスがイスラエルを抹殺する態度を崩していないのも批判されて然るべきだ。とはいえ、極東アジアには「ソウルを火の海にする」「日本に核の雨を降らす」などといってはばからない国が存在するが、その国と私たちは交戦状態にはない。イスラエルは、もう少し同盟国や友好国、国際機関の言葉に耳を傾けるべきだ。ハマスによるガザ支配の排除は、ガザを荒野にしなくても達成できるものであるはずだから。

小倉健一