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「時にパレスチナ人を殺す権利さえある占領は我々をダメにする」イスラエルで聞いた“小さい”声【報道1930】

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今、イスラエルとパレスチナ自治区ガザとの間に起こっている事…。 イスラエル政府は「テロに対する報復戦争」と述べ、空襲にさらされるガザ地区の住民は「ジェノサイドだ」と訴える。「先に手を出したのはハマス」という声の一方で、パレスチナに心を寄せる人は「長年の入植と支配に耐え兼ねてのことだ」と言う。どちらもそれぞれの立場での“正論”なのだろう。だがひとつなかなか聞こえてこない声がある。為政者や高官ではない普通のイスラエルの人々の声だ。そこで様々な立場のイスラエル人にインタビューを試みた。しかし… 

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■「“倫理的な軍事占領”などあり得ない」 

元イスラエル兵士が立ち上げたNGOが今月14日、ひとつの声明を出した。 「イスラエルとガザの両方ですべての罪のない民間人を傷つけることに反対する声を大きくはっきりと上げることがこの恐ろしい時代における私たちの義務であることに変わりはない」 

強硬姿勢を貫くイスラエルの中にもガザ地区の民間人を傷つけるべきではないと思っている人はいる。かつてパレスチナ自治区に派兵された元兵士を追ったドキュメンタリー映画『愛国の告白~沈黙を破る・Part2~』の中で、深夜パレスチナ人の家に家宅捜索に入るシーンがある。銃を持ち、親に寝ている子どもを起こさせ写真を撮る。これはどちらが支配しているかを分からせるためにやっている行為なのだという。

一人のイスラエル人元兵士が言う…。 

元兵士 「“これは非道徳な行為だ”と自分自身に言えなかったが、ただ“人がやるべき行為ではない”と感じていた。それが私たちを社会人として兵士として人間として変えてしまう…」 

元兵士 NGO代表 「パレスチナ人に残忍になるように訓練されたわけではない。“倫理的な軍事占領”などあり得ない。2019年という時代に軍が民間人を支配しているということ、それこそが残虐なのだ。だから問題は兵士個人にあるのではなく指揮官や軍の高官でもなく、占領の維持を決断した政府に責任があり、その政府を選んだイスラエル国民にある」

 

番組ではこの映画で告白していた元兵士たちが、どんな思いで今回の事態を見ているのか取材を試みたが、返事を返してくれた人はいなかった。この映画を撮った土井敏邦監督は「占領そのものが問題ということをイスラエルの中で叫ぶのだから非国民になる」と取材の難しさを話す。兵士から実際に話を聞いた土井監督はなぜ彼らが占領に反対する声を上げたのかについてこう聞いたという。 

ジャーナリスト・映画監督

 土井敏邦氏 「なぜエリートである彼らが立ち止まったのか。占領は単にパレスチナ人を苦しめることではない。イスラエル社会をダメにすると言うんです。若者が良心を失っていく。パレスチナの占領は我々をダメにしてしまう。18歳くらいの兵士が平気で自分のお父さん・おじいさん・おばあさんくらいの歳の人を自由にあっち行けこっち行けとか、時に殺す権利さえある。そういうことをしていては若い人が良心を失ってしまう、狂ってしまう。それはイスラエル社会を破壊してしまう…だから反対するんだと言うんです」 

実際、イスラエル政府の方針に疑問を持っているイスラエル人はどのくらいいるのだろうか? かつて在イスラエル日本大使館専門調査員を務め、イスラエルの政治と安全保障を研究する辻田俊哉氏に聞いた。

 大阪大学 辻田俊哉 准教授

「具体的数字を出すのは難しいですが、少数と言えば少数ですよ。今までにそういった声を出す人が増えていたのは確かですが、10月7日以降は声を上げにくくなった。国全体が怒りに満ちた状態になってまして…。なかなか冷静なコメントは出ない…。現時点においては攻撃反撃やむを得ないという…」 首相が早々に“戦争状態”と発言したイスラエルでは、もはや言論の自由は夢物語なのか。 番組が次に話を聞こうとしたのは、パレスチナ人の自爆テロによって娘を亡くした母親だった。

 ■「イスラエルは世界の前線に立って悪と戦っている」 

2002年3月、ニューズウイークの表紙に二人の少女のポートレートが並んだ。方や自爆テロを決行したパレスチナ人、アヤト。方やその自爆テロで死亡したイスラエル人、ラヘル。奇しくも同じ年に生まれ、同じ日に死んだ二人。当番組のキャスター松原耕二は5年前2人の少女の母親を取材していた。母親たちは事件の4年後、ラヘルの母の呼びかけで対話を持った。娘を失った母親同士、何か分かり合えると思ったから…。だがそれぞれの言い分は平行線を辿り、歩み寄ることはなかった。松原が2人を訪ねたのはその12年後だった。

 

アヤトの母はパレスチナ自治区の難民キャンプにいた。暮らしぶりは良くなったか聞いた…。 パレスチナ人アヤトの母 「悪くなった、何もかも…。私と息子たち、夫、娘たち、家族みんな一緒だった。今はバラバラ…(中略)私はエルサレムで祈ることも禁じられているのに何故彼女はそこで暮らしているの?(中略)占領が続く限り彼女と握手なんてできない。イスラエルが求めているのは平和じゃなく降伏よ」 不満も怒りも何も変わっていなかった。

一方、イスラエル人ラヘルの母は…

 イスラエル人ラヘルの母 「今はもう占領なんてない。何をそう言うのでしょう。例えばベツレヘムは全域が閉鎖されパレスチナの領地になっている。これ以上何が欲しいのかしら。(中略)パレスチナ人はイスラエル人が嫌いなのです…」 

二人の母の溝は埋まるどころか時を隔て深まっているようだった。この時からさらに5年が経った現在、それぞれの思いに変化はあったのか、再び取材を試みたのだが…。 

アヤトの母は2年前に死去していた。そして、ラヘルの母からはメールが返ってきた。 

イスラエル人ラヘルの母(10月23日のメールより) 「私たちが嫌われているのは土地を奪ったからでも占領しているからでもなくユダヤ人であるからと確信した。イスラエルはパレスチナ人を優遇し仕事を供給し友好を育んできたがお人好し過ぎた。ヨーロッパを含め世界中がパレスチナ支持だが状況を正確に把握しないと次は自分の番だ。イスラエルは世界の前線に立って悪と戦っているのだ」 イスラエルとユダヤ人は常に被害者であって、一人で悪と戦っているという意識はラヘルの母だけの特別な感覚ではないと前出のドキュメンタリー映画の土井監督は言う。 

ジャーナリスト・映画監督

 土井敏邦氏 「イスラエル人にインタビューして『ホロコーストを体験したあなたたちがどうしてパレスチナ人にあんな酷いことができるんだ』って聞くんです。すると彼らはこう答える。『君は何もホロコーストの恐ろしさを知らない。我々はあのホロコーストを二度と繰り返さないために力をつけてるんだ』『あなたは私たちの苦しみを何もわかってない。アラブ諸国に囲まれた中で生き残るために強い軍隊を持つ。その時に多少の犠牲は仕方ない』と言ってパレスチナ問題を切って行く…」

 

イスラエル人元兵士、イスラエル人の母親それぞれの思いはある。続いての声は、さらに日ごろ耳にすることがない少数派の人々の声だ。

 ■「私たちは迫害の為に話すことを恐れている」 

ユダヤ人のために建国された国イスラエル。人口約950万人。内ユダヤ人が75%を占めるが、実は21%はアラブ系の人々だ。イスラエル国籍を持ったパレスチナ人は今、どんな思いで状況を見つめているのだろうか。取材に応じてくれたのはユダヤ系とアラブ系が共存する地域ハイファ在住のジャーナリストだ。 

アラブ系イスラエル人 ジャーナリスト マイド・カヤル氏

 「アラブ系イスラエル人が逮捕されている。SNSに戦争について直接書いたり意見を述べたりした場合だけじゃなく、戦争を止めるべきだと投降した人に“イイね”をクリックしただけでも、喪に服すために黒いプロフィール写真をアップしただけでも逮捕される」 これまでもパレスチナ人の人権を訴え何度も逮捕されてきたカヤル氏だが、今回は特別だという…。 

アラブ系イスラエル人 ジャーナリスト マイド・カヤル氏 

「イスラエル人全体が兵士や情報提供者になっている状況だ。私たちは迫害の為に話すことを恐れている。迫害は毎日、大規模に起こっている。状況を理解するのにはイスラエル警察最高司令官の言葉を借りるのが一番いいかもしれない」 その言葉がこれだ。

 イスラエル警察最高司令官 コビ・シャブタイ長官 

「戦争への抗議行動は許可しない。抗議する者たちを捕まえるように指示している。ガザに気持ちを寄せる者はとっととバスでガザに送る」 

アラブ系イスラエル人 ジャーナリスト マイド・カヤル氏

 「パレスチナ人がガザで殺されているのは辛いことだ。しかし、ここでは私たちは少し静かにしなければならない。話すことは恐ろしくてできない…」 一方で、今回のハマスの行動を機にアイデンティティを変えたというアラブ系イスラエル人もいる。ドバイに住むIT企業のCEOはSNSで自らの決意を表明した。

 

アラブ系イスラエル人 IT企業CEO ヌセイル・ヤシン氏 

「私は今まで自分をイスラエル系パレスチナ人だと思っていた。パレスチナも独立国家として存在すべきだ。私はパレスチナを愛しパレスチナに心を一部残してきた。しかし、そこは私の故郷ではない。だから今日から自分をイスラエル人だと考える。第一にイスラエル人、第二にパレスチナ人。私はパレスチナ政府のもとで暮らしたくないと確信した。つまりユダヤ人ではなくとも私の家はひとつ、イスラエルだ」 アラブ系イスラエル人のみならず、パレスチナ人は好きだがハマスは嫌いという人は少なくない。だからこそイスラエルのガザ地区攻撃がハマスを支持してはいないパレスチナの民衆をも傷つけている事が悩ましいのだ。 (BS-TBS 『報道1930』10月25日放送より)

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この番組は観た。

ふと、戦前の日本、ドイツ、現在のロシアや中国のことを想起した。

もはや引き返せないほどの社会・国家体制・・・。

そうならないように、声はあげないといけない。