Yahoo!ニュースより。

 

「パフォーマンス型だった」 広島平和研・大芝所長のサミット評価

配信

毎日新聞

G7広島サミットを振り返る広島市立大広島平和研究所の大芝亮所長=広島市安佐南区の同大で2023年6月1日午後3時3分、中村清雅撮影

 5月に広島で開かれたG7サミットは初めて被爆地に各国首脳が集い、強い印象を与えた。一方、核兵器廃絶に向けた具体策は示されず、被爆者らからは失望の声も上がっている。広島市立大広島平和研究所の大芝亮所長(69)=国際政治理論=に、成果と課題を聞いた。

【聞き手・中村清雅】

【写真まとめ】G7サミットが開かれた広島市の様子 

 ◇核廃絶、継続的取り組みが重要

  ――広島サミットをどう見るか。 

 一言で言えば、「パフォーマンス型」のサミットだった。各国首脳は平和記念公園を訪れて原爆資料館を視察し、原爆慰霊碑に献花した。ウクライナのゼレンスキー大統領の対面参加もあり、西側諸国の結束を示すことができたとして、東京では全体的な評価はかなり高いようだ。

  だが、被爆地・ヒロシマの視点で見るとどうだろうか。被爆者や市民は、世界の指導者が原爆資料館で何を見て、どう感じたのか、それを今後の政治にどう生かしていくのかを最も知りたかったのではないか。

  政府がこの点をかなり非公開にしたのは残念だ。外交的配慮が必要なのは分かるが、ある程度資料館側の自主性に任せるべきだった。

  ヒロシマの発信力の源泉は、米国が日本に核兵器を投下したという国家間の視点だけでなく、核兵器の危険性について全人類に警鐘を鳴らすという普遍性にある。この市民的目線を今回のサミットでは十分に生かし切れなかった。

  ただ、パフォーマンスが全て悪いわけではない。岸田文雄首相と、招待国として参加した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は韓国人原爆犠牲者慰霊碑をそろって参拝した。歴史的出来事で、広島サミットの大きな成果。日韓関係の更なる改善に生かせるはずだ。

  ――成果文書については。

  核軍縮に向けた「広島ビジョン」や首脳宣言を見ても目新しい内容はなく、残念ながら政治家のリーダーシップが発揮されたとは言えない。

  これはサミットをどう捉えるのかにもつながるが、通常の国際会議の延長と捉えるならば、今回のような「現実的」な文書でもいいだろう。だが、官僚の思惑を超えて世界のリーダーが英知を絞って話し合う場と捉えるならば、岸田首相は広島で開催した以上、核廃絶に向けた「問題提起」をするべきだった。 

 広島ビジョンは核兵器禁止条約に触れていない。しかし、現実に禁止条約が存在するのだから言及し、核拡散防止条約(NPT)とどう共存を図るかという、今後の課題を書くべきだった。米英仏の核保有国は嫌がるだろうが、核の先制不使用などの課題を提示することも重要だ。G7はこうした議論をしても、結束は簡単には揺るがない。

  ――ゼレンスキー大統領の対面参加について。 

 これも東京とヒロシマの視点で評価が分かれるかもしれない。  地元としては、ヒロシマでウクライナとロシアの戦争ムードをあおるようなことにならないか、不安があった。

  しかし、ロシアのウクライナ侵攻については、どちらが悪いのか比較的はっきりしている。G7としてウクライナを支持し、ロシアの核による恫喝(どうかつ)を許さないという立場を明確にしたのは当然とはいえ、良かった。ゼレンスキー大統領の振る舞いにも政治的配慮があり、広島の核兵器被害と復興に対する共感を前面に出したものだった。

  その上で、G7はウクライナ侵攻をやめるように中国からロシアに圧力をかけることを要請したが、この点でのフォローアップも期待したい。 

 ――広島サミットを今後にどう生かすか。

  パフォーマンスに実質を与えていくことが大事だ。目新しいことではないとはいえ、広島ビジョンは核兵器の削減や核兵器に関する透明性の確保などをうたっている。広島サミットを「初めの一歩」とし、中国や「グローバルサウス」(新興国・途上国)も巻き込んで、継続して取り組みを進めることが重要だ。