こちらとしては、何の仕事がしたいかで、歌う曲も異なるので
(チャペルがしたいのかラウンジがしたいのではかなり違う)
「何の仕事がしたいの?」と、つい希望を聞いてしまう。
しかし、新人は「歌えれば何の仕事でもいいんです」と答える事がある。これぞ、かみ合わない会話である。
何の仕事があるか、さっぱりイメージ出来ない新人だから、こうなって当然である。
つまり、最初の時期は新人の質問自体が答えにくい質問になってしまう。
(それも当然ではあるが)
よって、質問がかみ合うようになった頃は本人の不安も少なくなり、
話がかみ合うように話がなった頃は、本人には仕事が沢山あり活躍している、
ということになる。
入って一ヵ月目は、やる事がない、というより、やれる事がない。
こちらも忙しいので、早く何かやってほしいが、説明しても通じないのに
指導までする時間はない。
”コレなら出来るかな”と思って頼んでも、大抵違う事になるので余計迷惑となる。
掃除や洗い物くらいになるが、それも問題多発。
新人が食器を片付けるとかなりの確率で割れる。
花瓶も割れる、物が壊れる事も多い。
お茶を頼んでも何かを運んだだけで落としたりで
その辺一体が大変なことになる。
事務所には関係者がちょくちょく訪れる。仕事の打ち合わせは勿論だが、中には、どんな新人が入っているか、という事の確認が目的で「近くに来たんで」と突然来る人もいる。
事務所の研修でも、来客には自己PRをするように、と指導はしているが、新人本人は自分の知らない人なので自分は関係ない”先輩の客”、と解釈してしまう。来客といっても殆どがプロデューサーやディレクター。その人達からすれば、いつも会っていてすでに知っている顔より、初顔に興味津々なのは当然のこと。
バリバリにジャズができなくてもいい。バリバリにクラシックができなくてもいい。
ブライダルで演奏しようと思っても、ラウンジで演奏したくても、学校のように
自分の習った曲だけ弾ければいいのではない。一般的なジャズ、洋楽邦楽のヒット
曲、昔の映画音楽、ポピュラー…と、幅広く曲を知っていなければ仕事にはならない。
ところが新卒は曲自体を本当に知らない。また、歌の伴奏もリクエストに応じなければ
ならない仕事であり、伴奏でなくてもBGMでもリクエストに応じてこそプロである。
たとえ10曲が上手に弾けても、それでは仕事に対応できない。
また、二段譜でしかこれまで演奏をしていないので、コードネームの一段譜では
演奏ができない。よって、こういうことを事務所に入った後、学びながら、仕事を
目指すことになる。つまり、事務所に入るまでに覚えとかなければならにという意味
ではないが…。ま、殆どの子が知らず(中にはそういう楽譜を見た事もない子もいる)
自分が知っていることだけで、すぐ仕事になる、と思っている所がプチ問題である
「思ったより大変」という事を段々実感してくる。
しかし逆に「仕事はあるんだ」という事もわかってくる。
事務所に入った頃は、ラウンジやブライダルの仕事くらいしかイメージ
できないのが、段々イベントの仕事もわかってくる。
そして技術がそれほどなくても「仕事のやりかたを覚えればいい」や逆に
「技術があっても仕事のやり方がわからないと仕事に行けない」「技術は
現場をこなしながら少しずつつければいい」もわかってくる。
そしてヒット曲のように左右されない分、仕事は安定している、という事も
少しずつ見えてくる。
つまり、全国には、かなりの市町村があり、それらの全てにビッグアーティストが
行くわけではないからである。どの町にもコンサート会場があり、イベントがあり
祭りがある。全国どこにも子供はいる、だからといってどの町にもNHKの歌の
おねえさんが行くわけにはいかない。よって、歌のおねえさんの仕事も全国域で
ある、ということになる。

同期で一番先にデビューする子。こちらも期待してしまう。親心でどうしても
「早く収入を取らせたい」と思うものである。
しかし、コレもまた難しい。自分が活躍できるもの、と安易に思ってしまうのか何なのか。

デビューは早かったがその後プッツリと仕事が入らなかったり。
逆に同期の中で存在感もなく何の役にも立たない子。皆がデビューしていく中、
まるで落ちこぼれのように影が薄い。しかし、半年後にやっと一本目の仕事に
行き始めたかと思いきや、その後どんどん仕事が入り、いつのまにかスケジュール
は詰まっていたりする。
長年、こういうケースを沢山見てきた。その度に思う。入ってすぐさっさと器用に
何でもこなし進んで行く子もいれば、1、2年中々進まず「いつになったら役立つやら」
と思っていた子が3年後に急成長したり、と思えば、またクレームがきたり、しかし
7年後には「彼女がきてくれるなら安心」と信頼されていたり。ようは、右上がりの
ラインは人それぞれということ。1年目進んだわりに3年目で横ばいの子もいれば
4年目でやっとそこそこ仕事をするものもいる。
どんなスタイルの成長でも、指導している側にとっては嬉しいものである。
成功は「進度を人と比べず、とにかく続けること」がポイント。
続けたものは皆、活躍している。ただ『何年目で活躍するか』が人により異なり
初めにそれはわからない。我々にも誰にもわからない。
しかし、だから、未来は楽しい。可能性は誰にもある、を教えてくれる。

同じ曜日の同じ時間に同じ場所である仕事を、レギュラーという。
また、場所や時間は決まっていないが、その仕事(スポンサーなど、各メ―カー)があれば自分が行く、というのもレギュラーの仕事という。
「レギュラー何持っているの?」というように会話は行われる。
レギュラーを持ったり、レギュラーメンバーになるにはオーディションが大抵ある。
内容はさまざま。
あるオーディションに落ちると、次のオーディションで(以前より成長していても)
「あ、前のあの子かー、もういいや」となれば書類で落ちてしまうケースもある。
また、受けたいからといって誰でも受けれるものでもない。
事務所サイドが4人受けさせたくても、先方に
「2名に絞ってきてください」と言われる事もあるからである。
あるオーディションに事務所から5名出し5名落ち、
またあるオーディションに3名出し3名とも落ちていては
「あの事務所にいい子いないよ」となり、次のオーディションの声がかからなくなる事もある。
よって、オーディションは受けたからには、絶対受かって下さい。、ということで
こちらも取り組む。
色々、作戦もたてるので、合格する事も多いが、それはそれで問題がない訳でもない。

レギュラーのオーディションに合格すると仕事も一つ安定するのでやれやれはやれやれなのだが、あまり早い時期に合格すると新たな問題も起きる。
「自分がよかったから合格した」となったりするのである。(それもそうかもしれないが)
新人の合格の場合、決して自分だけの力ではない。ところがソコに勘違いが起きると、その後のレギュラーに受からなかったりする。
逆に、一度目のオーディションに落ち、二度目も落ち、三度目に受かった場合など、その大切さやスタッフへの感謝の気持ちなどが強いため、その後も次のオーディションに受かったり、又、仕事も急激に増えたりする。
あまりすぐ受かった場合などは、せっかく受かった仕事も、2ヵ月後に「下りてもらえませんか」などと話が来てしまうケースさえある。そうしてはじめて、「習っていた通りだ」と実感する。



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