お隣のお兄さんの(お兄さんとはいっても自分より年上だろうから
50歳超えてるのかな。40代ではない気がする)声が、台所にいると聞こえてくる。
お兄さんとその母親の会話しているのだ。
お兄さんの声は大きくて響くから聞こえるけど母親の声はいつも聞こえない。
でも会話が弾んでいるのはお兄さんの笑い声を聞いただけで分かる。
家庭事情は知らぬが、まだそのお兄さんの父親が生きていたころ、
父親との喧嘩の声が、これもまた台所でよく聞いたのだった。
お兄さんの声も大きかったがお父さんの声も大きかったので双方の言い合いが
台所にいるとよく聞こえたのだ。
僕の母親は、生前、お隣のお兄さんと父親の喧嘩を聞くにつけ
「(お兄さんが)可哀そうやなぁ、可哀そうやなぁ・・」と言っていた。
将来のことなのか、仕事のことなのか、別のことなのかそれは分からないけれども、
隣の親子喧嘩は親の小言からはじまるらしかった。
彼の父親が亡くなって、僕の母親も亡くなって
台所にいる僕の耳には時々、そのお隣さんの母子の会話が聞こえてくる。
笑ったりしている。冗談を言ったりしている。
お兄さんの母親も体の自由がままならず毎日ヘルパーさんが来ている。
体はなかなか言うことを聞いてくれないけど
昼は介護を受けて、夜は同居するお兄さんと会話している。時々笑い声を交えながら。
僕は聞いてて時々涙が出てくる。
自分の母親には僕はああいうカタチで向き合えなかった。