〜第1章 声が出ない〜
僕は、洗濯物を干しているお母さんに、九九ちゃんと言えるようになったよ!引っかからないで言えるよ!!お母さんは、僕の顔を見て笑顔を見せてくれた。
授業参観の日が、近づいていた。
『算数の授業をします。九九を1人ずつ答えてもらうから頑張りましょう。』
その日が、やってきた。
先生が、教室の前の席に座っている人から順番に九九の問題を出しては、答えていく。
僕の番が近づいてきた。
ドキドキして、汗が出てきていた。
はい、次は・・・。
7×6=?
僕の番だ。
席から立ち上がった。
『42』と答えればいいと頭では、分かっている。
でも、僕の心の答えは、『42』を準備していなかった。
僕は、九九の答えなんかよりも、みんなに聞いて欲しい大事なことがあった。
『聞いてくれ! このクラスには、嫌なことをする人がいる!!!』心の声は、叫んでいる。
自分の心臓の音が耳に入ってくる。先生の声が遠くで聞こえる・・・。何かを言っている。
後ろに集まっている親達が何かを話し出した・・・。
僕の次の人に僕に出した問題の答えを言ってもらおうと先生が動いている・・・。
心臓が、壊れそうな速さでドキドキを続けている。
僕は、立ち上がったまま動けない。
隣の席の人が、『42』と答えた瞬間に、僕の力が抜けてしまった・・・。イスに座る様に先生が言っているのが、分かった。
僕は、『いじめ』と言う言葉をまだ知らなかった。