【お話】清吉さんの話 | つっきんのネガったりカナったり

つっきんのネガったりカナったり

それでも、地球は回ってる。

清吉さんは、お百姓さんです。
お日様が昇ると同時に田んぼへ出かけ
お日様が沈むまで、せっせと働く働き者。


清吉さんは、いつもこう言います。

「わしは、まだまだじゃ。」

清吉さんの作る米は、いつだっておいしいと評判なのに
きまって

「わしは、まだまだじゃ。」とにこりともしません。


「だって、どうがんばっても、完璧にまっすぐに植えられんのじゃ。
となりの安吉さんの田んぼを見ぃ。いつも青々と光っとるじゃないか。
収穫の頃はキラキラ黄金に輝いとるじゃないか。
わしの田んぼは、いくらがんばってもあんなに輝かんのじゃ。
わしは、まだまだじゃ。」


清吉さんは、へんくつじゃ。
村人たちは、すっかり肩をすくめました。


ある夏の日のこと。

隣の安吉さんが、清吉さんを訪ねてきました。
「おーぅい、清吉つぁん。一緒に飯でもどうだい?」

「おぉ、もうすぐ昼飯時か。わしゃひとりで充分じゃ。
わしは、まだまだじゃけぇ、放っておいてくれんか。」

「まぁ、そう言わんと。お前さんと見たいもんがあるんじゃ。」

「わしは、別に見とうない。」

「まぁ、まぁ、今日だけ付きおうてくれたらそれでええから。
いくら働くいうても、飯ぐらい食うじゃろうが。」

あんまり安吉さんがしつこいので、
とうとう、清吉さんも折れました。

「で、どこへ行くんじゃ。」


こっちこっち。

安吉さんはぐいぐい清吉さんの手を引っ張って
山の中へ中へと入っていきます。


どこじゃ。


こっちこっち。


どこへいくんじゃ。わしは、こんなところ来たことないぞ。


えーから、えーから。


あたりは、木々がおいしげって暗い暗いトンネルのよう。
清吉さんは、もうどうにでもなれと思って
帰り道もわからないし、安吉さんのあとをしっかりついて行きました。


やがて

突然に目の前が開けたかと思うと
そこは、これまでの険しい道とは大違い。
明るい、小さな草花がチラホラ咲いている気持ちのよい場所へたどり着いたのでした。


「ここじゃ、ここじゃ。」
「ここは、どこじゃ?」


清吉さんはもう息も切れ切れです。

「小米山(こごめやま)の頂上じゃ。」
「ふぅん。それで、見せたいもんってなんじゃ。」
「まぁまぁ。あそこにちょうどええ石がふたつある。まずはあすこへ座ろうや。」

清吉さんが渋々腰かけると
「ほれ。食おう。」
と、安吉さんが大きなにぎりめしを渡してくれました。

「どうも。」

と受け取った清吉さんの目がふと止まりました。


下に広がるは、青々としたきれいな田んぼの数々とのどかな村。

天気もよいし、なんとも気持ちのよい景色。

そのとき、その中に中でもひときわ輝く田んぼを見つけたのです。


「ありゃぁ、きれいじゃのう。あんな田んぼはどうやったら出来るんじゃろう・・・」

「どの田んぼじゃ?」
と安吉さんが聞いたので

「あれじゃ。あすこの田んぼじゃ。」

「ほう。ほんまじゃなぁ。」
と、安吉さんはにやにやしながら、さらに言いました。


「ありゃ、清吉つぁんの田んぼじゃ。」

「は?わしの?あれがわしの田んぼ?」

「よぅ見てみぃ。あの脇のちっぽけな家は清吉つぁんの家じゃろうが。」

清吉さんは、まじまじと目をこらして見ました。
そう
それは、まぎれもなく自分の家でした。

「わしの、家じゃ・・・。
わしの田んぼは、あんなに輝いとったんか。わしは全然知らんかった。」

「そうじゃ、清吉っぁん。お前さんの田んぼは最高じゃろうが。
ちゃんと、苗がキラキラ輝いとるじゃろうが。
ちなみに、隣がわしの田んぼじゃ。わしのも輝いとるじゃろう?」

「輝いとるのぅ。輝いとるけど、安吉つぁん、もうちっと丁寧に植えたらどうじゃ?
苗の並びがちぃっとガタガタじゃの。」

「ははは。清吉つぁんはおもろいのぅ。
あのガタガタをずーーーっと褒めちぎっとったんは、どこのどいつじゃ。」


そうか・・・。
わしは、人の田んぼばっかり気にしとった。
わしの田んぼの苗たちは、みぃんなわしに応えてくれとったというのに。
そうか、そうか。
わしの田んぼは、
わしの田んぼは、
どこよりも素晴らしい田んぼじゃ。

清吉さんは、おんおん泣きながらにぎりめしを食べました。
隣で安吉さんが
「そんなに泣いたら、にぎりめしが台無しじゃ。」
と、笑いながらうなづいていました。


それから・・・


清吉さんは相変わらず
お日様が昇ると同時に田んぼへ出かけ
お日様が沈むまで、せっせと働く働き者。

清吉さんは、いつも、やっぱりこう言います。


「わしは、まだまだじゃ。」


「わしは、まだまだ輝く田んぼ、光る米を作り続けるんじゃ。」

そういって、空に向かってわははと笑うのでした。


*おしまい*


(C)つっきん2010.2.20


゜*.★・*.゜☆


久しぶりのお話です。


私の中では、清吉さんも、安吉さんも好き。
みんなそれぞれに、その時々で精一杯生きているのだと思います。


では、よい週末を☆