【書評)スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ | Do More with Less

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メインタイトルは尊敬するCG創設者の故小林彰太郎さんの書から引用しました

グンマーの私が、そしてPetrol head の私がこの本をこれまで未読だったのは恥ずべきだったと今になっては思う。しばらく前に何度か経済誌プレジデントの記事に引用されていたので気になっていた本が例によってKindleでセールだったので入手。

 

まず題名がいいじゃないか。「スバル」はカタカナ、「ヒコーキ」もあえてカタカナ、そしてもちろん「クルマ」もカタカナ。

ブログを始めた頃はあえてオレはと書いていたが、そのオレがクルマとカタカナ表記した理由はこの本に書かれている事の精神と似たりよったりなのである。

 

話は戦中から戦後の中島飛行機の歴史から始まる。もちろんその戦争の話自体が不勉強ながら始めて知った事が多かった。あのゼロ戦は三菱製だというのは知っていたが実際には中島飛行機がライセンス生産した個体の方が多かったとか。地元で急速に興った企業、それも軍用飛行機産業なんてのがこれだけ短期間に大きな成功を収めていたとは。そしてそこにはあの当時の日本人の技術への探究心が詰まっていたとは。

 

しかし日本は戦争に負けた。そして奇跡の復興を遂げる訳ですが中島飛行機を軸にしたその歴史の中では私が幼少の頃にまだ辛うじて現役だったラビットスクーターやスバル360といった名車を送り出した過程が何とも興味をそそる形で展開します。

 

それにしてもあの時代、つまり敗戦直後はスクーターのブームが一時的に起こりそれが女性の開放の象徴ともなっていたというのに、その後は軽自動車から普通車への流れの中で女性がスカート姿でも乗れる二輪車の存在が少なくとも20年は空白になってしまったというのは何とも不思議に思いました。これはもしかしたら真面目に研究すると日本における女性解放とかの歴史と関連付けられるかもしれません。

 

まあ話を逸らすのはこのくらいにして、そのスバル360の成功から普通自動車のメーカーになるまでの間には企業としても苦難の歴史が有りました。それはやはりどうしても資金的な話、自動車会社としてのマスが要求される部分などが影響したのでしょう。

 

しかしその中で興味深いのはこの会社が今の繁栄に至るに当たってのキーパーソンである2人の人物です。1人はメインバンク興銀出身の田島敏弘氏、もう1人は興銀により日産ディーゼルから送られた川合勇氏です。いずれも当時の社長だった訳ですが前者はカーガイとして今に続く重要な案件の開発にゴーサインを出し、後者は技術の事しか頭に無かった会社に営業の概念を浸透させた。これが無かったらスバルは富士重工時代に無くなっていた可能性が高いです。

 

もっとも河合氏以降のこの会社については、ヒコーキ屋と言えるのか微妙な部分も有ります。確かに中島飛行機の技術者を尊敬してはいた様ですが、これ以降の歴史はどちらかと言うと技術的な側面より経済的な側面がクロースアップされる案件となって行きます。

 

いずれにせよ総括するならば、スバルは確かに生粋の技術集団であるヒコーキ屋が作った会社である。しかしその成功には良き経営者と営業努力が必要だったという事だろう。つまり製造業が成功するためには基礎的な技術が必要なのは絶対としても、それを商売に乗せるための経営と営業が必要不可欠、いやむしろそれらが合わさらない限り成功はあり得ないと言えるのではないだろうか。

 

もっともこの書は経済系の出版社から発行されたモノ、それは逆に言うと技術的な部分に明らかな勘違い表現が有ったり、経済誌らしい嫌らしさも備えている事も同時に記すべきでしょう。例えばボアアップに関する記述が間違っていたりとか、あるいはこの会社の独自の技術であるアイサイトに対する表現にも明らかなこじつけも見られます。

 

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と本編を読んでここまで書いたのですがその後の「長いあとがき」を読むと、、、

何と著者の父親はまさにその富士重工でラビットの開発に関わったが早くに病で亡くなっていた、そしてその後母親が富士重工に入社してその福利厚生を利用して本を読み成長した。となると見る目が変わってしまいます。

 

当時の富士重工には図書室が有ったそうです。そして著者の母はそこから本を借りて来ては息子に読ませた、いや息子は興味を持って読み浸った。その結果がこの本につながるのですね。あらためてそういう福利厚生って重要なんだなと思いました。

 

今の日本の企業は悪い意味で効率重視で、社員の子供どころか社員にさえ勉強する時間を与えません。それは必ず将来負債として返って来るでしょう。

 

もっともだからと言ってその著者の「長いあとがき」がそんなに的を射ているとも思えないのです。やはり先に記した様に技術的な理解が低いとその内容も見劣りすると言わざるを得ません。