この事件には、単に病院職員の患者虐待に留まらない、根深い問題が内在している。薬物治療に極度に依存した日本の精神医療では、
こうした悲劇は氷山の一角にすぎない。
しかし閉鎖的な精神科病院では、薬漬け医療や患者虐待が表に出ることはほとんどない。残念ながら、程度の差こそあれ、この事件に似たような悲劇が日常的に繰り返されているのが、
日本の精神医療の実態なのだ。
被害者の名は、ユウキさん(仮名)としておこう。ユウキさんが隔離された部屋に設置されていた監視カメラは、看護師の暴行行為の一部始終を撮影していた。
ビデオ映像を見ると、激しく踏んだり蹴ったりしているように見える。暴行を受けた時、ユウキさんは床にあおむけに寝かされていたが、彼の首は以前飲んでいた薬の副作用であごが鎖骨のあたりにつくほど前傾し、頭部が浮き上がっていた。そこを強く踏みつけられたらどうなるのか。ビデオ映像はYouTubeで公開されているので、確認していただきたい(映像はユウキさんの姉のブログでも見ることができる)
「賦活症候群(アクチベーション・シンドローム)の可能性が考えられます。パキシルは確かに高い抗うつ効果があってよいのですが、代わりに衝動性が高まる賦活症候群のような副作用が起こり得ます。『パキシルは効くから』と安易に処方する医師が多いのですが、他のSSRIとは違った薬物動態であることを知るべきです。
薬は通常、飲むと血液中の成分の濃度が上がっていきます。これは『線形モデル』と言って、薬の量と濃度が比例関係になります。ですが、パキシルは『非線形モデル』のため比例関係ではありません。薬を少し増やしただけでも、人によってはものすごい量の血中濃度になることがあるのです。すると場合によっては、脳のセロトニンを刺激して衝動性が増すと考えられます」
ユウキさんの暴力行為がこの副作用にあたるとは断定できないが、それまでの穏和な性格から考えると、あまりにも唐突で自滅的な行動だった。
