そう語る中村医師は京都大学医学部を卒業後、内科医として京都の民間病院に勤務。介護保険が始まった平成十二年から、京都にある社会福祉法人老人ホーム「同和園」附属診療所の常勤医となる。「同和園」に来るまでは中村医師も「がんの末期の痛みをとるためには、麻薬を使うのが当たり前」と考えていたという。
「病院に勤務している頃は、胃がん、直腸がん、肺がん、肝臓がんなど、色々ながんを診てきましたが、大なり小なりの差こそあれ、患者さんはみなはっきりと痛みを訴えていました。そして痛みを訴える人には必ず麻薬を使う。
それが常識だったのです」
その常識が「同和園」に来て大きく覆されてゆく。実際に「同和園」では、こんなことが起こっていた。「同和園」に入居していた山川悟さん(79、以下患者はすべて仮名)が吐血し、病院に入院することになった。そして精密検査の結果、手遅れの胃がんだと判明する。しかし、山川さんは中等度以上の認知症を患っており、なおかつ七十九歳という高齢。家族は積極的治療を望まず、
「同和園」で看取ってほしいと要望する。
普通なら末期のがん患者を医療体制の整っていない老人ホームに戻すことなど考えられないことだという。末期のがん患者のほとんどが激しい痛みを訴えるものと考えられているからだ。しかし、中村医師は家族が望んでいるならと、ホームで看取ることにした。だからといって成算があったわけではなかった。
◎52人全員が痛みがなかった
「このホームには麻薬をおいていなかったので、いくところまでいって、痛みが出たら病院に送ろうと考えていました」
しかしそれは杞憂に終わった。病院でなんの治療もせずにホームに戻った山川さんは、痛みを訴えるどころか、コールタールのような黒い便が普通の便に変わり、食事ももりもり食べるようになった。血液検査をしたところ、貧血も改善し、正常の域に達していった。その後も痛みが出ず、外出するなど普通の生活をすることができるまで回復したという。病院からは、余命はせいぜい二~三ヵ月と言われた山川さんは結局、一年近くも普通の生活を続け、最後まで苦しむことなく安らかに
しかしそれは杞憂に終わった。病院でなんの治療もせずにホームに戻った山川さんは、痛みを訴えるどころか、コールタールのような黒い便が普通の便に変わり、食事ももりもり食べるようになった。血液検査をしたところ、貧血も改善し、正常の域に達していった。その後も痛みが出ず、外出するなど普通の生活をすることができるまで回復したという。病院からは、余命はせいぜい二~三ヵ月と言われた山川さんは結局、一年近くも普通の生活を続け、最後まで苦しむことなく安らかに
亡くなったというのだ。
