バーンズ・コレクションの展示手法
医化学者アルバート・C・バーンズ(1872-1951)氏は、銀軟膏「ア
ルジロル」という消毒薬の開発によって巨大な富を手にした人です。
いち早くマネ以降の近代絵画を収集し、地元で展覧会を開催するも、
当時の一般には全く受け入れられず嘲笑まで浴びてしまったため、
怒り心頭に発した彼は、以後、コレクションを自らの美術館から門
外不出とし、教育目的以外での鑑賞を禁止したのでした。その方針
は、基本的に現在も受け継がれており、事前申請して許可されない
と館内には入れないようになっています。
さて、マティス、スーラ、セザンヌ、ルノアール等、そのコレクショ
ンのすばらしさは申すまでも無く、今後、ここでも時々取り上げてい
きたいと思います。
今回、お伝えしたいのは、この展示手法です。
一例ですが、この写真をご覧ください。
壁の一面の、真ん中にアフリカの彫刻を置き、左右対称に、ほぼ同
サイズの同じ画家の絵画を展示して、その間、隙間を装飾具で飾る
という展示手法。この写真を最初に見た時には感動しました。こんな
ディスプレイ手法があろうとは、考えてみた事もなかったのです。
ルーヴル美術館のように、壁いっぱいに天井まで絵画を重ねて、たっ
くさん展示してあると、だんだんと時間が経つにつれ、作品の鑑賞
というよりは、「首が痛い~!」というのが強くなるばかりです。
あれは、「ルーヴルを一度で済ませようというのが大間違い。何度
も時間をかけて来なさい」という事かもしれないですね。
絵画のサイズが大小あれ、壁の上下には1作品のみを展示し、それ
を横に観ていくというのが、一般的な美術館の展示です。最近の新
しい美術館では、自然光を取り入れて、できるだけゆったりとした
スペースで鑑賞できるように設計されていると思いますが、壁面へ
の掲載方式については、だいたい同一でしょう。
しかし、この、バーンズコレクションのディスプレイは違います。
壁一面における複数の異なった作品群をもって一作品なのです。
音楽で言えば、ジャズあり、レゲェあり、ポップスあり、クラシック
ありの1枚の完成したアルバムのような感じです。音楽はシーケン
シャルに時間を通した後に全体の感動を味わうわけですが、絵画
においては、こういう観せ方をされると、最初に全体を一瞬に把握し
て、それから細部を感じていくという特殊なことが可能になります。
そのことをバーンズ氏は教えているのではないか、と思うのです。
さて、こうした「間」の作り方を教わると、自分でもやってみたくな
りますね。日本画も交えてできたら、もっとおもしろいです。今は、
やろうと思ったら、個人的に自分の机の上で切り貼りでもするし
かありませんが、将来、技術的にも制度的にも、バーチャルな仕
組みの上で、それが実現できるようになったらすばらしいでしょう。
そんなプロデューサーが出てきても良いんじゃない? とも思った
りします。