握りしめて離さない | こころのネタ帳

握りしめて離さない

優先席に酔っ払ったおじさんがぐたって座っていた。
少し太った60前後のおじさんで顔を上にあげてグーグー寝ていた。
突如フガッてなったと思ったらゴトッて入れ歯が床に落っこちた。
ちょうど向かいの席との中間くらいまで転がった。
入れ歯はまさに入れ歯で昔見たおじいちゃんのそれと変わらなかった。
入れ歯はいつの時代も入れ歯のままなのだろうか。
おじさんはグデングデンの状態だが懸命に床へ向かって手を伸ばし入れ歯をキャッチした。
入れ歯を右手につかんだままもとの席に戻るのだが、またそのまま眠ってしまった。
入れ歯を離さずに眠るその姿は、憧れのアイドルのコンサートチケットを手に入れ、前日の夜に大事に握りしめたまま布団で眠る女子中学生と通ずるものがある。
僕はこのおじさんが目的地で降りられるか気になって仕方なかった。
最後まで見届けるべきではないかと悩みはじめた矢先、右手に入れ歯を握りしめたまま平然とおじさんは降りてしまった。
入れ歯がカタカタと音をたてた気がした。
僕にはさようならと聞こえた。


以下のリンクをクリックすると「こころのネタ帳」に点数が入ります!

にほんブログ村 お笑いブログ 自作面白ネタへ