さて、スタートホール。
スプーンを抜いた。
何組目のスタートだったか覚えていないが、そこそこ人がいたので比較的早い組だったのだろう。
なんともいえない緊張感が襲ってくる。
ティアップする手が震え、手足がこわばってくる。
早く済ませてティグランドから退散したい。もちろん、良い結果を残して。
レッスンプロに教わった手首返し。
ラウンドではどうか?
〈南無三!〉
ティグランドから放たれたボールは、掴まえきれなかったが、真っ直ぐ飛んでいき、フェアウェイに着地した。
本人もビックリする、ナイスショットであった。
見守る先輩方もビックリ‼️
手首返し!恐るべしである。
2打目以降は、老練キャディさんに教えられたフェアウェイ5鉄、ラフにあれば7鉄と決めていた。
しかし、ゴルフはそう甘いものではなかった。
林、池、滝、クリーク、バンカー、浮島グリーン、広いうえに波打つグリーン。
コースは美しく、気高き美女といったところ。筆者の手に負える美しさではない。
〈アリャー、もー大変、たすけてー。〉
プレフォーがないため、ティグランドで2発、3発打ってからようやくスタートできる始末。
〈イヤイヤイヤ。ムリムリムリっス。〉
弾道は以前に比べて、格段と鋭くなったが、おかげで右へのトラブルも多くなった。
右へ左と大騒ぎ。
〈ヒェ〜、ボール足りるかぁ〜〉
池越え。
そこそこの距離がある。
乗せる自信は全くない。
逃げ場もない。
途方に暮れた。
ウォーターハザードにつかまったときのドロップゾーンなるものもなく、超えなけれならないハザードは、自身の力で越えなければならない厳しさ。
〈ヒャァ〜、もう勘弁してぇ〜、なんでもしますカラァ〜〉
ギブアップをお願いしても、アスリートのA氏は許してくれない。完全ホールアウトを求めてくる。
「あかん。しっかりやれ!」
〈見てたらわかるでしょ〜〜。ここは、わたしには100年早いことを 、もう。〉
また、3パットならぬ4パット、5パットとなり、不貞腐れたタップインをすると
「こらぁ!一生懸命やれ!」
と、檄が飛ぶ。
8番ホール辺りから、グリーンが濡れている。雨が降った訳でもないのに?
「とうとう、業を煮やしよったか。」
とB氏がつぶやく。
〈なんのこと?〉
よくわからずに、ハーフを終える。
ハーフを上がり、グリーン脇にコース関係者が、腕組みをして待っていた。
B氏が対応し、他の3名を先に行かす。
話の内容を筆者に聞かせないように。
B氏によると、前の組みと30分も開いている。急がれたいとクレームを言っていた。昼休憩を取らずにスタートして欲しいとのことだったが、B氏はお断りしたとのこと。が、しかし30分の休憩となった。
筆者は昼からリタイアしようかと提案したが、
「慌てんでええがな。」
そう、慌てんでええがな。である。
昼からもラウンドすることが前提の言葉。
急いで欲しい気持ちを微塵にも出さず、悠々とビールを注文。
何事もなかったかのように、自身のプレイをA氏と語らってらした。
筆者は走らなきゃなんないので、アルコールは遠慮した。
グリーンが濡れていた。
「雨も降ってないのに、なんで濡れてるんですかね?」
B氏曰く
「今日はグリーンが速いから、水を撒いて遅くしてるんよ。早よ行ってくれ、いうことやな」
と、笑顔で解説。
その元凶である筆者を決して責めない。
みんなから敬遠されているB氏、評判とは異なり親切であった。
ここでB氏のゴルフを紹介したい。
正直いうと、このラウンドでは人のプレイなど一切見ていない。しかし、これがご縁で以降もコンペではちょくちょく同じ組みで廻ることになる。他の人は敬遠しているので自ずと同組になってしまう。
バナナボール。
アドレスは「嘘やろ!」とツッコミを入れたくなるほど左を向かれる。
そしてアドレス通りにボールは放たれる。
ボールは、隣のホールとの境界あたりから、クククッと右に方向を替え、フェアウェイに着地する。
スライスさせているので、距離はさほど出ないが、正確に戻してくる。
威力を発揮されるのが、セカンドショット。やはり、左からスライスで乗せてくる。スライス回転なのでビタッと止まる。
スライスを極めた感のあるショットである。
ルールやマナーにうるさいとの評判だったが、感謝することがあってもストレスを感じることはなかった。
閑話休題。
ラウンドに戻る。
バンカー。
グリーンの周りにとても美しく配置されている。何度か入ったのだろうが、さっぱり、覚えていない。
打ち方など、もちろん、知らない。
フェースを開くとか閉じるとか。この頃はまだ用語すら理解していない。
どうやって出したのだろうか?
謎のままである。
なんやかんやで、18番を終えて表彰式。
out 91
in 93
total 184
ぶっちぎりのブービーメーカーで表彰式を終える。皆さん、フォローの言葉が見つからずに、筆者との接し方に困っている様子。
名阪国道をひた走る。
ようやく、解放されて疲労と虚脱感に苛まれている筆者。
名阪国道も有料道路として開発された高速道路仕様となっている。軽快に車を飛ばし帰途につく。ハンドルを握る手の甲は、頬を伝う熱いものを拭うため、濡れていた。
後日談として、筆者をゴルフにはめたC氏。大先輩たちから随分と叱られたそうである。
あれから30年。
リベンジの機会を窺っていたが、その機会は訪れることなく、今を去ること3年前の平成27年1月4日に閉場となり、メガソーラー事業に転用されたとホームページは伝えている。
閉場間際のクチコミを読むと、筆者を苦しめた、あの美しい姿はなく、グリーンは剥げ落ち、ラフは伸びたままのメンテナンスが行き届かない、悲しい記述がみられた。
リベンジの機会を失ったことで、「何人(なんびと)たりとも妥協を許さない」あの気高き美女は、気高いままで筆者の記憶に永遠に残ることになった。
初恋のひとは、いつまでも美しいように。
完
