自民党が今国会で成立をねらう「国旗損壊罪」。日の丸を損壊したら処罰するというものです。高市早苗首相にとっては長年の悲願である国旗損壊罪の制定を、市民はどうみているのか。(小林圭子、津久井佑希、都光子)
国家の権威化の政治宣伝

(写真)「国旗損壊罪法案」に抗議して、“黒丸”を掲げる「オタクによる反戦デモact2」
に参加した人たち=5月23日、国会正門前
国会前で5月23日に開かれた「オタクによる反戦デモ」では、日の丸を“黒丸”にした旗が配られ参加者を沸かせました。
デモ開催の10日ほど前、カルビーは「中東情勢の緊迫化」を理由に、「ポテトチップス」など14商品のパッケージを白黒に変更すると発表。旗の送り主はデモ開催2日前のX(旧ツイッター)に「カルビー的なものが配られると思います」と告知していました。
デモ当日、呼びかけ人の高橋裕行さんは「焼き捨てても破り捨てても黒丸なので、損壊罪には当たりません」と笑いを誘いました。

(写真)町山智浩さん
メッセージとともに旗200本をデモ参加者に送ったのは、米・カリフォルニア州在住の映画評論家、町山智浩さんです。「日本を愛しているからみんなに日の丸を振ってもらおうと思ったけど、ナフサ不足で貴重な赤いインクを使うのは愛国的ではないので黒丸にした」と皮肉を込めます。
自民党プロジェクトチーム(PT)が出した骨子(22日)は、人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法・状態で、公然と損壊、除去または汚損する行為を罰するとしました。表現の自由については「アニメ・マンガ・ゲーム・映画などの創作活動を妨げるものではない」とする一方で、「社会通念上、相当と認められるものは、対象外」だとしています。
「私が住むアメリカでは、自分の国旗を焼却する行為は表現の自由として許されている」と町山さん。黒人解放運動家、マルコムXの生涯を描いたスパイク・リー監督の映画「マルコムX」(1992年)を例に出します。星条旗が燃え上がるシーンから物語が始まる同作。「そういう表現を日本が禁止するなら、日の丸は不自由の象徴になる」と語ります。
自身が所有する国旗の損壊も罪とする「国旗損壊罪」創設について、町山さんは「思想や表現の自由を侵害するのは違憲だ。国家の権威化を目的とするプロパガンダだ」と批判して、こう続けます。「高市政権は中国やイランと外交せずに国民の経済生活を圧迫し、国旗損壊罪やスパイ防止法、改憲など国民統制や軍事国家化ばかりを推進している。その行き着く先は北朝鮮のような貧しい全体主義国家だ」
寄せ書きも罪になるのか

(写真)武富慈海さん
日の丸はアジア・太平洋戦争時に、軍国主義の象徴として用いられました。
「日の丸に寄せ書きしたものがたくさんあります。国旗に字を書くことは当時、普通だった」と福岡県小竹町の兵士・庶民の戦争博物館館長の武富慈海(じかい)さんは言います。
「戦争に赤紙一枚で徴兵された兵士たちに、生きて帰ってこいという思いを込めて、日の丸に寄せ書きをした。当時、日の丸は身近なもので、大事なものという扱いじゃなかった。兵士たちが戦場でポケットとかに入れて身近に持っとったのは国旗だからじゃなく、仲間の思いが詰まっとるから」。当時侵略した中国大陸で日本軍兵士たちは、1日40キロ、50キロと歩かされ、「もう歩けんごとなる。寄せ書きされた言葉を励みに耐えたわけです」と武富さんは説明します。

(写真)赤い丸を切り抜いた日の丸。持ち主は
歩兵第56連隊一等兵の福成佐一さん(武富さん提供)
資料館には、赤い丸の部分がくりぬかれた日の丸があります。戦争に負け、生き残った兵士たちは日本に戻されましたが、そのさい日記や本など文字が書かれたものは処分せよと命令されたと言います。「寄せ書きされた旗をなんとか持って帰りたいと、赤い丸をくりぬいて、すっぽりかぶり、ひそかに持ち帰ろうとしたそうです。兵士たちがやったことは国旗損壊罪にあたりますか?」と訴えました。
「庶民を戦争に向かわせようとして使われたものの一つが日の丸だった。そのことを考えたら、国旗損壊罪なんていうものは、戦争への道に逆戻りするような法律だ」と批判しました。
政府の都合であぶり出し

(写真)齋藤耕弁護士
現行の刑法でも他人所有の国旗を損壊した場合、器物損壊罪などに該当します。なぜ今、新たな刑罰を制定する必要があるのか。
札幌弁護士会憲法委員会の齋藤耕副委員長は「国旗損壊罪はスパイ防止法とセットで考えるべきです。政府にとって都合の悪い人物をあぶり出すためではないか」と危機感を強めます。札幌弁護士会は1月に会長声明を発表し、問題を指摘しました。
国旗損壊罪の話が持ち上がったのは、昨年の自民党と日本維新の会の連立合意です。合意書では、「外国国章損壊罪」があるのに対し、日本国国章には損壊罪がないことを問題視し、「矛盾を是正する」としていました。
齋藤さんは、法律論に照らし全く理由になっていないと批判します。「刑法は守るべきものを守るために、一定の行為を犯罪として規定します。例えば、個人の生命・身体の安全を守るために殺人罪や傷害罪ができ、個人の財産を守るために窃盗罪などがつくられました。外国国章損壊罪であれば守るべきものは、外国との外交関係だと明確ですが、日本国国旗損壊罪の守るべきものは何なのか、ということです」
自民党の法案骨子では、立法理由を「国旗を大切に思う国民感情の保護」としています。齋藤さんは、これは政府にとって望ましい思想・価値観を国民に強制することにつながり、憲法が保障する思想・良心の自由の侵害だと指摘します。
表現の自由に関し骨子は、実物国旗を用いた芸術的表現には「社会通念上、相当と認められるもの」のみを対象外としています。
齋藤さんは「政治的多数派や警察・検察、裁判所が認める『社会通念上』となれば、少数派への弾圧につながりかねない」と危惧します。「“お子様ランチの日の丸は対象外”などばかげた議論をしないといけないほど、処罰の範囲が不明確で、広がりかねません。どの行為が処罰対象か分からなければ、日の丸に対して何もできなくなり、憲法が保障する表現の自由の制約につながります」
新シリーズ「NEWS追跡」では、話題になっているニュースや社会問題を随時追跡、深掘りしていきます。