黄金比についての 前回の記事 で次のように書きました。

本書に何度も引用される〈下にあるものは 上にあるものの如し〉の出典が『エメラルド・タブレット』で、その著者はトートだとされる。ただし、この引用句は一般には、オリジナルの『エメラルド・タブレット』のほうではなく、12世紀ヨーロッパに出現した、アラビア語からのラテン語訳の『エメラルド・タブレット』に出る言葉として知られる。

一般に知られているこの言葉〈下にあるものは 上にあるものの如し〉の出典である12世紀の『エメラルド・タブレット』について見ておきます。

 

なお、本ブログで主に扱うオリジナルの『エメラルド・タブレット』(ドーリル師訳)については、次の記事に書きました。

 

 

それでは、12世紀の『エメラルド・タブレット』についてです。なお、英語で記すときは、エメラルド・タブレット(12世紀)は単数の Emerald Tablet, オリジナルのエメラルド・タブレットは複数の Emerald Tablets で表します。

 

 

 

 エメラルド・タブレット(12世紀)

 

Bart Marshall 編 'The Emerald Tablets of Thoth the Atlantean'

 

 

Emerald Tablet(12世紀)と Emerald Tablets(オリジナル)の2つを収めた珍しい版。


編者 Bart Marshall の序文がおもしろい。

Emerald Tablet のほうは、次の言葉が大変有名。

As above, so below.

短い書だけれど、ニュートンまでこの書を翻訳したというくらい、影響力があった。

本書の Emerald Tablet の英訳は、各種の翻訳を参考にして、編者 Bart Marshall が作ったもので、読みやすい。ただ、上の言葉 'As above, so below.' (上と同じく、下でも)は、各種の翻訳でもほとんど同じだ。

著者の Hermes Trismegistus は Emerald Tablets を著した Thoth の三度目の化身という。見ようによっては、Emerald Tablet は Emerald Tablets のエッセンスと言えなくもないけれど、全然レベルが違うという人もいる。

編者によると、原著の石板(オリジナルの行方は不明)には、フェニキア語で記されていたという。

編者は、本書が教えるのは 'All is One' (すべては一なり)ということであり、直接の神的体験が、瞑想と心の実践により可能になるという。現代においては、本書はフリーメースンや神智学、黄金の夜明け教団などの基礎となったということだ。

本書の Emerald Tablets のほうのテクストは、上に挙げた BWT (Brotherhood of the White Temple) 刊の正規版でなく、「海賊版」であり、正規版とは多くの点で異なることに注意が必要だ。

まず、序文が、Emerald Tablets のそれと、釈義の書のそれとが、結合されており、原典の趣旨と異なる。

また、本文も、大幅に改変され、文章の構成要素の順序を変えたりしてある。

こちらのほう(Bart Marshall 編集版)がオリジナルより読みやすいと思う人を除けば、オリジナルの Emerald Tablets をきちんと読みたい人は、BWT 刊の正規版を読むことを強くお勧めする。
 

 

エメラルド・タブレット(12世紀)はオンラインでも読むことができます。