完璧な卓球チームなどといったものは存在しない。
完璧な卓球選手が存在しないようにね。
その言葉の意味を理解したのは、僕らが中国の超級リーグでプレーをするようになり、2年が経とうとしていた時のことだった。
佐藤が言った。
「僕らは強くなり過ぎた。」
「あるいは。」と僕は答えた。
INDEPENDENTというチームでの活動は日本のTリーグで各チームに派遣されることになってから一度も無くなった。
こうして今はオフシーズンで佐藤の実家に集まることがチームとしての活動なのかもしれない。
当の佐藤は焼酎の水割りを指先で掴んだまま、ーたしか鏡月のアセロラだったと思うーで、グラス越しにコロの遺影を眺めて居た。
コロは佐藤家の飼い犬で、特別可愛いわけではなかったが、飼い主であった佐藤からみれば可愛いく見えたんだと思う。
側から見たらふつうの柴犬のそれと変わらない犬だった。
グラスをテーブルに置いて佐藤が言った。
「INDEPENDENTは独立という意味で、さほど協調性を必要としない雰囲気だったけど、もはや完全にバラけてしまったね。」
「バラけてしまったかもしれないし、バラけていないかもしれない。でも大事なのは僕らがまだ卓球を続けていて、こうして集まれる事だ」
反射的に言ってしまったが、残念ながらここには山城さんと樽川、そして宗くんも居ない。
「やれやれ。」何かを察したかのように佐藤が呟いた。
少しの沈黙のあと、天野が口を開いた。
「僕はこれから山梨に帰る。そのまま上海に戻るからその間君達は自由にすれば良い。読みかけの本を開いても良いし、買ったばかりのレコードを聴いてもいい。田無で卓球をするのもいい選択だ。僕のラブライバーとしての活動の邪魔をする事以外はね。」
僕もみんなも天野のラブライバーとしての活動について一切知らなかったが、別段興味もなかった。
さらにいえば僕らは天野に対し、これが笑いを誘う発言なのか、単純に認知症なのか判断出来なかった。
というより、判断する必要も無かった。
僕らは皆90歳を超えて居てたからだ。
-続く-