リジェクトされた槌田論文を読んでみた | ほたるいかの書きつけ

リジェクトされた槌田論文を読んでみた

少し時間が取れるようになったので、kikulogの温暖化懐疑論のエントリ でまた話題になった槌田さんのリジェクトされた論文をざっと読んでみた。件の論文はこれ。
「大気中CO2濃度増は自然現象であった Ⅰ.その原因は気温高である」近藤邦明・槌田敦
http://env01.cool.ne.jp/global_warming/saiban/rep01.pdf

…kikulog でコメントされてる通りだ。そりゃリジェクト喰らうわな、こりゃ。kikulogのコメント欄でも色々述べられているし、たぶんあちこちのサイトでも言及されているだろうから(ここのところ忙しくてほとんどチェックできていませんが)、簡単に。いやたぶんここで書いたこともとうの昔にあちこちで言われていることなんだろうけれども。

 最後の第6図だけ見ておこう。これは横軸に「世界平均気温偏差(℃)」を取っている。これは1章に述べられているように「1971年から2000年までの30年間の世界平均気温を気温の基準とし、その基準気温からのずれ」である。つまり、単にゼロ点を1971-2000年の間の平均気温に取り直したものである。縦軸は「大気中CO2濃度変化率(ppm/年)」で、1年当たり、大気中のCO2濃度がどれくらい変化したかを示したものである。
 さて、図を見ると、横軸はだいたい -0.3から0.4℃ぐらいに分布しているのがわかる。ただし0℃を中心にランダムに分布しているのではない。すぐ上の第5図を見ると、揺らぎはあるものの少しづつ上昇する傾向がありそうに見える。
 次に縦軸を見てみる。縦軸の一番したが0で、だいたい気温偏差が0℃のときにCO2濃度変化率が1.5ppm/年ぐらいであることがわかる。おおよそ、0.5ppm/年から2.5ppm/年あたりに分布している。
 さて、この論文の直接の結論は、要するに気温偏差とCO2濃度変化率に相関がある、ということだ。最後から3番目のパラグラフを全文引用しよう。
 この第6図において、第一次近似として実曲線の部分(引用者注:上記の相関が良い期間)だけを用いて回帰直線を作ると、大気中CO2濃度変化率がゼロppm/年となるのは気温偏差がマイナス0.6℃程度のときである。このことから、1971年から30年の世界平均気温は大気と陸海の間でCO2の移動が実質的にない温度よりも0.6℃程度高温であり、この図の範囲での結論として大気中CO2濃度が毎年上昇していることが示される。
まあズレがある期間を除いている時点でツッコミを入れたくもなるが、そこはまあ措いとくとしよう。すると、このパラグラフで述べていること自体は基本的に問題はなさそうである。やや文章がわかりにくいのだが、私なりに言い換えると、「気温偏差とCO2濃度変化率には相関が見られる。気温偏差がマイナス0.6℃程度のとき、CO2濃度変化率はゼロ程度になる(気温偏差が0℃程度のとき、CO2濃度変化率は1.5ppm/年程度である)。気温偏差は1971~2000年の間は常に-0.4℃以上であり、CO2濃度は上昇し続けていることと対応する。」ぐらいになるだろうか。

 問題は次のパラグラフである。上で引用した続きをそのまま全文また引用する(と言っても一行しかないが)。
 これにより、現実の大気中CO2濃度増は主に気温高による自然現象であると結論できる。
…それはないだろう。この論文で示されたのは、本来は気温偏差と「CO2濃度変化率の偏差」とでも言うべきものの相関だ。気温の方を30年間の平均からのズレで見るなら、CO2濃度変化率も(第6図のようなものを描くなら)30年間のCO2濃度変化率の平均からのズレを見た方が良い。そうすれば、CO2濃度は年とともに増加していくが(それは第1図に明瞭に示されている)、その増加するトレンドまわりの揺らぎが気温に依存することを示唆しているということが明瞭に示せるだろう(実際に正しいかどうかは別にして)。
 つまり、この論文が示したことは、CO2濃度が長期的に増加している理由はわからないが、年によって増加の割合が微妙に揺らぐのは、気温の揺らぎに起因するものであろう、という、いわば二次の効果である。この論文にはCO2濃度がそもそもなぜ増加し続けているかの理由については全く言及がないのだ。

 そういうわけで、(この論文の解析自体についての評価はさておき)私がレフェリーだったならば、おそらく次のようなコメントを必ず入れるだろう。「論文タイトルが論文の内容と対応していない。そのため、このままでは受理できない」と。タイトルにある「CO2濃度増は自然現象であった」を「CO2濃度増の揺らぎは自然現象であった」ならまだしも(無論、上で書いたように、合ってる時期だけを選んで「合ってる」と言われても…という問題はある)。
 サブタイトルが「その原因は気温高である」となっているが、問題はなぜ「気温高」になっているのか、である。そこへの回答はこの論文には(著者らの思いとは裏腹に)ないのである。