シミュレーションと「程度問題」
kikulogで温暖化懐疑論が色々出されてて、その中で気候変化シミュレーションについてのコメントがあったのだが、(気候とか気象ではないしごくごく簡単なものだけど)シミュレーションをやったことのある者としてちょっとだけ。もちろん実際の気候変化シミュレーションが何をやっているかは知らないので、一般論でしかないのですが。
流体系で、しかも一種類の理想流体だけではなくて様々な物理プロセス(雲だとかエーロゾルだとか)が入っているようなシミュレーションは、そりゃ「きれいな」系の計算に比べれば不確定要素が大きく、信頼性に欠けるのは間違いない。雲やらなんやらをモデル化する際には不定なパラメータが入らざるを得ないし、流体それ自身を解くのにだって山岳だとか微妙な境界条件が効きそうではある。そもそも完全な連続体として解けるわけではなく、グリッドに切って解くのであるから、グリッドサイズ以下の小スケールからの影響がグリッドサイズ以上の大スケールに与える影響がないと言い切れなければ、当然に計算全体の信頼性、特に長期的な傾向についてはどんどん精度が落ちる。
じゃあいまの計算に意味がないかと言えば、当然そんなことはない。「不確定要素がたくさん入っているから信頼すべきではない」というのは、実は(大袈裟に言えば)物理のなんたるかをわかっていないと言っても過言ではない。いや結構専門家でも言っちゃうのだけれども、その意味は後述するようにおそらく二つあって、あまり真剣に受け取るべきではない。
政策決定のことを一旦忘れて、純粋な科学研究の側面だけを考えよう。その場合、シミュレーションを用いた研究で重要なことはなんだろうか?それは、不確定要素がどれくらい不確定なのかを見極めることである。たとえば、メッシュサイズを変えたらどれくらい結果が変わるのか、境界条件にどれくらい依存するのか、突っ込んだ物理プロセスに含まれるパラメータをどれくらい変えたら結果がどれくらい変わるのか。こういったことを定量的に把握するのが最も重要であると言ってもいいだろう。それ抜きに、「計算しました、こういう結果が出ました、以上」などとやられても、その結果を信頼するわけにはいかないのである。
困ったことに、おそらくどの業界でもそうであろうが、そういう類の研究報告はいくらでもある。でまあ当然ながらツッコまれるわけだが、分野全体としては、それでもお互い批判しながら進んでいって、色々な人の結果を見比べながら、こういうプロセスにはあまり依存しないからテキトーに扱ってもいいな、これはちょっと変えただけでも結果が大きく変わるから、もっと慎重に調べないといけないな、ということが徐々に見えてくるものだ。
もちろん、そういう相互批判が機能しない困った業界もあるのかもしれない。ただ、地球温暖化のような世界的に注目され人がどんどん集まっているような分野でそれがなされていないとはとても思えない。他人と違う結果を出して注目されたいのが普通なのだから。
では、専門家が「あまり信頼できない」というのはどういう意味なのだろうか。一つは、計算全体ではなく個別の点(たとえば雲のモデルだとか)を見て言う場合があるだろう。不完全なモデルに対してはツッコミを入れたくなるものだ。その分野の専門家同士ならばどんどん批判しあうべきだ。そうやってより良い計算になっていくだろう。注意しなければならないのは、それはあくまでも「まだ行われていないより良い」計算に対しては「より悪い」ということでしかない、ということだ。出てきた結果にどれくらい意味があるのかという検討ではない。
私が見聞きした範囲ではまったく別の理由が存在する。それはシミュレーションでブイブイ言わせている人々へのやっかみであったり、自分の手法(シミュレーションに限らず、たとえばシミュレーションの中では簡単化したモデルを使っているが、そのモデル化されているそのものを研究対象にしている人、とか)の方がより上等だと思いたい/思わせたいという心理だ。研究者といえども人間なのだから、それは仕方のないことだし、そう思うからこそ頑張るということもあるだろう。ただ、そういう立場で出た発言は真に受けるべきではない。まあこれは私が経験した範囲での話なので、気候変化シミュレーションの周辺でどうなのかはわかりませんが。
話を元に戻すと、不確定要素が含まれるから信頼できない、というのは、突き詰めれば、物理なんで所詮自然の近似なのだから信頼できない、というのと同じであろう。重要なのは、どれくらい信頼できるのか/どれくらい信頼できないのか、と「程度問題」として把握する、ということだ。そうではなくて、「こういう問題があるからシミュレーションなんて信頼できない」などという発言は、専門家同士の議論であるならばともかく、基本的には考慮する必要のないものだと言って良いのではないだろうか。
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ちょっとまた忙しくてあちこちフォローできてないのですが、気になったので書き殴ってみた。ちょっと私情が入っているかも。(^^;;
流体系で、しかも一種類の理想流体だけではなくて様々な物理プロセス(雲だとかエーロゾルだとか)が入っているようなシミュレーションは、そりゃ「きれいな」系の計算に比べれば不確定要素が大きく、信頼性に欠けるのは間違いない。雲やらなんやらをモデル化する際には不定なパラメータが入らざるを得ないし、流体それ自身を解くのにだって山岳だとか微妙な境界条件が効きそうではある。そもそも完全な連続体として解けるわけではなく、グリッドに切って解くのであるから、グリッドサイズ以下の小スケールからの影響がグリッドサイズ以上の大スケールに与える影響がないと言い切れなければ、当然に計算全体の信頼性、特に長期的な傾向についてはどんどん精度が落ちる。
じゃあいまの計算に意味がないかと言えば、当然そんなことはない。「不確定要素がたくさん入っているから信頼すべきではない」というのは、実は(大袈裟に言えば)物理のなんたるかをわかっていないと言っても過言ではない。いや結構専門家でも言っちゃうのだけれども、その意味は後述するようにおそらく二つあって、あまり真剣に受け取るべきではない。
政策決定のことを一旦忘れて、純粋な科学研究の側面だけを考えよう。その場合、シミュレーションを用いた研究で重要なことはなんだろうか?それは、不確定要素がどれくらい不確定なのかを見極めることである。たとえば、メッシュサイズを変えたらどれくらい結果が変わるのか、境界条件にどれくらい依存するのか、突っ込んだ物理プロセスに含まれるパラメータをどれくらい変えたら結果がどれくらい変わるのか。こういったことを定量的に把握するのが最も重要であると言ってもいいだろう。それ抜きに、「計算しました、こういう結果が出ました、以上」などとやられても、その結果を信頼するわけにはいかないのである。
困ったことに、おそらくどの業界でもそうであろうが、そういう類の研究報告はいくらでもある。でまあ当然ながらツッコまれるわけだが、分野全体としては、それでもお互い批判しながら進んでいって、色々な人の結果を見比べながら、こういうプロセスにはあまり依存しないからテキトーに扱ってもいいな、これはちょっと変えただけでも結果が大きく変わるから、もっと慎重に調べないといけないな、ということが徐々に見えてくるものだ。
もちろん、そういう相互批判が機能しない困った業界もあるのかもしれない。ただ、地球温暖化のような世界的に注目され人がどんどん集まっているような分野でそれがなされていないとはとても思えない。他人と違う結果を出して注目されたいのが普通なのだから。
では、専門家が「あまり信頼できない」というのはどういう意味なのだろうか。一つは、計算全体ではなく個別の点(たとえば雲のモデルだとか)を見て言う場合があるだろう。不完全なモデルに対してはツッコミを入れたくなるものだ。その分野の専門家同士ならばどんどん批判しあうべきだ。そうやってより良い計算になっていくだろう。注意しなければならないのは、それはあくまでも「まだ行われていないより良い」計算に対しては「より悪い」ということでしかない、ということだ。出てきた結果にどれくらい意味があるのかという検討ではない。
私が見聞きした範囲ではまったく別の理由が存在する。それはシミュレーションでブイブイ言わせている人々へのやっかみであったり、自分の手法(シミュレーションに限らず、たとえばシミュレーションの中では簡単化したモデルを使っているが、そのモデル化されているそのものを研究対象にしている人、とか)の方がより上等だと思いたい/思わせたいという心理だ。研究者といえども人間なのだから、それは仕方のないことだし、そう思うからこそ頑張るということもあるだろう。ただ、そういう立場で出た発言は真に受けるべきではない。まあこれは私が経験した範囲での話なので、気候変化シミュレーションの周辺でどうなのかはわかりませんが。
話を元に戻すと、不確定要素が含まれるから信頼できない、というのは、突き詰めれば、物理なんで所詮自然の近似なのだから信頼できない、というのと同じであろう。重要なのは、どれくらい信頼できるのか/どれくらい信頼できないのか、と「程度問題」として把握する、ということだ。そうではなくて、「こういう問題があるからシミュレーションなんて信頼できない」などという発言は、専門家同士の議論であるならばともかく、基本的には考慮する必要のないものだと言って良いのではないだろうか。
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ちょっとまた忙しくてあちこちフォローできてないのですが、気になったので書き殴ってみた。ちょっと私情が入っているかも。(^^;;