松下電工技報から | ほたるいかの書きつけ

松下電工技報から

 原典シリーズというわけではないけれども、以前、某Yahoo掲示板でも松下の技報を一部解説したことがあったので、イキオイに乗ってそれもここに転載しておこう。その掲示板でのやり取りの一部は、サイドバーの「マイナスイオン」のところをクリックしていただければ転載しているエントリもあるのだが、肝心の技報の中身については向こうに書きっぱなしだったので、こちらにも転載しておく(まあ自分用にということなのだが)。それと、パナソニックに社名変更したことに伴い、技報のPDFのURLが変わってしまったので、そのメモも兼ねて。

 だいたい一年近く前の話でもあるし、その後、きちんとフォローしていないので、nanoeについてはなにか進展があるかもしれないのだが、もし御存知の方がいらっしゃれば、教えていただけると有り難いです。

 発端は私がこのブログでSSFSさん(ssfs2007さん…最近はssfs2009さんになられているようで)に対する批判を載せたこと。で、具体例として、No.1297 にて以下の二つの「技報」を挙げた。

リンク先はどちらもPDFなので注意。
マイナスイオンの毛髪への影響 」高野弘之他、松下電工技報 No.79, pp.110 (Nov. 2002)
帯電微粒子水の毛髪および頭皮への改善効果 」松井康訓他、同vol.56, No.1, pp.39 (2008)
なお、上記PDFへのリンクがあるHTMLのページは、それぞれ
http://panasonic-denko.co.jp/corp/tech/report/79j/main02.html
http://panasonic-denko.co.jp/corp/tech/report/561j/main02.html
である。

 以下の文章は、No.1330 , No.1332 からの転載である。長くて限界を越えていたので掲示板では二つにわけた。間が一つ飛んでいるのは、たしか一回なにかミスって欠番にしたのだと思う。文中のリンクはそのままにしておきます。必要な時は上のリンクを辿ってください。

▼▼▼以下、Yahoo掲示板より転載▼▼▼

こんばんは。

>従来のドライヤーにはなかった効果を何がもたらしたか。いまのところ、マイナスイオンの効果を否定する材料を持ち合わせていないので、とりあえずメーカーが言うようなマイナスイオン(おそらく広義には帯電微粒子水)の効果があるのだろうと考えています。放電による帯電微粒子水の放出は、物理的・化学的にみても興味深い現象です。
>
>帯電微粒子水は関与しないという材料が出てくればさらに検証を進め、もしもマイナスイオンの効果が否定されるのであれば、思う存分ニセ科学扱いしてやるだけの話です。これは過去にも書いていること。否定する材料も探していますが、なかなか見つかりません。どなたか見つけてみてください。

一消費者ということであればそれでいいのだと思います。「このドライヤー、性能いいなあ。マイナスイオンのおかげだって?ふうん」という反応が普通ですよね。
 でも、「検証」ということになると、それでいいのでしょうか?やはりヌル仮説として(1)以前のドライヤーとの性能差はない、(2)(性能差があるとして)その性能差は「マイナスイオン」のせいではない、を設定し、議論を進めるのが通常の方法だと思います。
 で、下の「技報」やあちこちで見られる「性能が良い」というクチコミ的報告から、私を含め多くの人は「定量的には、あるいは厳密にはともかく、どうやら仮説(1)は棄却してもよいのではないか(つまり、ドライヤーの性能は良くなっている)」という意見に傾きつつあるのではと思います(少なくとも私はそうです)。
 問題は仮説(2)の方です。少なくとも私は、下に示してある技報からは、仮説(2)を棄却するに足るデータが出ているとは読み取れませんでした。また、同じくそのデータから、仮説(2)を検証(あるいは棄却)するためには、もっと定量的な調査が必要であり、体験談で検証できる精度よりももっと詳細な検証が必要だと考えています。

>ドライヤーは医薬品ではないので、ダブルブラインド評価は必要条件ではありません。他人が見ても髪質が変わったことが分かるときがありますから。いったんニセ科学とみなしたものについて、高いハードルを課すのは不健全なニセ科学批判者のやり口です。ご注意ください。

医薬品でなければダブルブラインド評価をする必要がないのはなぜでしょうか?「他人から見ても髪質が変わったことが分か」ったとしても、それがドライヤーのせいなのか、シャンプー・リンスを変えたからなのか、栄養状態が最近はいいのか、睡眠をしっかり取れているのか、など考慮すべき要因が多々あり、それらを一つ一つ排除していかなければ本当の効果がなにによってもたらされたのかは分からないと思います。
 「利き酒」なんてのもありますよね。これも一種のブラインドテストです。「味」は飲めばわかりますけど、プロでも様々な思い込みに左右され、このような評価方法を採らないと本当の味の違いはわからない、と言うことなんだと思います。
 上で示した仮設(1)については、各種の体験談で大体おおまかには判定して良さそうな気がしますが、仮設(2)の検証となると、実験のデザインをきちんと考えた検査をしないとわからない、というのが、今のところの私の結論です。

> 技報はこれでしょうか?
> http://www.mew.co.jp/tecrepo/561j/pdfs/561_06.pdf
>松下は有意な差と言い、yokoyamahotchillipeppersさん(主語はこれでいいでしょうか?)は誤差の範囲と言う。それについて、私はなんとも申せません。効果が実際にあるのに、それがメーカーの言うナノイーの効果ではない、とみるならば、効果をもたらした原因を何か示さないと次の議論が始まりません。

その「技報」の2.1.2から引用します:「毛髪のしなやかさを向上させる効果は、『nanoe』イオンがマイナスイオンよりも水分量が多いため、毛髪水分率が増加するという仮説を立てて検証する」つまり、ヌル仮説としては、「毛髪水分率は増加しない」です(勿論、これをクリアしても、次には「毛髪水分率の増加は『nanoe』イオンのせいではない」というヌル仮説を棄却する必要がありますが)。
 ちょっとややこしくなりましたが、要するに、「nanoe」のおかげであるというための必要条件(十分条件ではありません)として、毛髪水分率が増加しているかどうか検証しましょう、ということですね。
 この節の終わりのほうにはこう書いてあります:「その結果を図5に示す。この図から、時間経過に関係なく毛髪水分率は『nanoe』イオンが一番高く、次いでマイナスイオンが高いことがわかる。」では次のページの図5を見てみましょう。横軸に経過時間、縦軸に水分率が取ってあります(それぞれの定義はすみませんが当該『技報』をご覧ください>皆様)。これを見ると、処理直後は nanoeが一番水分率が高く、次いでマイナスイオン、イオンなし、となっています。マイナスイオンとイオンなしは平均値の順番はその通りですが、エラーバーが平均値の違いを大きく上回っているため、マイナスイオンとイオンなしの順番について語ってはいけません(これは統計のルールです)。nanoeとマイナスイオンについては、両者のエラーバーは若干重なっているものの、それぞれの平均値にまではのびてはいません。なので、通常の感覚としては、nanoeの場合は若干水分率が高いね、と読むと思います。
 問題の一つ目はその後です。例えば4時間後は、3者とも、それぞれのエラーバーが互いの平均値のズレを上回っています。つまり、3者に違いはない(正確には「違いがあるとはいえない」)ということになります。2時間後、8時間後もそうです。要するに、ヌル仮説を棄却できない、ということです。
 問題の二つ目は、例えば経過時間とともにどれだけ水分が抜けるかを考えると、むしろnanoeの方が急速に水分率が下がっている、ということです。グラフの縦軸を「水分率」ではなく、処理直後の値に対する相対的な水分率にする(つまり、処理直後を1とし、時間ともに処理直後の水分率に対してどれだけの水分率を保持しているか)と、nanoeの「悪さ」はよりはっきりするように思われます。もちろんグラフの縦軸になにを取るかは何を見たいかによりますから、絶対的な水分率を取るか相対的な水分率を取るかは議論の分かれるところだと思います。私の印象としては、時間変化を調べるのであれば、処理直後の条件は揃えたほうがいいのでは、と思っています。

 もしこの『技報』が査読誌に投稿されて、私がレフェリー(査読者)になったとしたら、この部分については次のようなコメントをつけるでしょう:「図5を見る限り、nanoeが毛髪水分率が一番高いとは言えない。それにもかかわらず本文で一番高いと主張するのは強すぎである。このコメントを削除し、有意な差を検出できなかったと書くか、せめて、有意な差は検出できなかったが過去の我々の研究から違いがある可能性があるため今後はサンプルを増やしより良い精度で検証を行いたい、程度に主張を弱めて書くべきである」。
 ちなみに私は本業で査読誌に論文を投稿しますしレフェリーがまわってくることもあります。このようなやり取りはしょっちゅうあります。やっぱり、みんな自分のデータがかわいいのですよね。だから、ついついデータから読み取れる以上のことを主張してしまう(私もやっちゃうときがあります)。なので、他人が冷静に「それだけの主張ができるデータか?」という目で検証する必要があるのです。
(すいません、だいぶ長くなってしまいました)

▲▲▲以上転載終わり▲▲▲

で、これに対するssfs2007さんのレスがこれ。No.1339

yokoyamahotchillipeppersさんもfsm_fireflysquidさんも、長文だけれどインスパイアがまったく感じられない返信でがっかりしました。そのあたりの主張はもうおなかいっぱいなんで、「イオンドライヤーの効果はこれこれ。それをもたらすのはマイナスイオン(帯電微粒子水でも何でもいいです)ではなくてこれこれ」という切れ味のいい主張を見せてくれませんか。ほかの方でもいいです。

それなりに苦労して書いたら「おなかいっぱい」でしたからね。この衝撃は大きかったですね。なんか批判してくるかと思ったら、「おなかいっぱい」だもんね。

 そして、技報がユーザーの報告の調査もしているのに、それは完全無視。で、挙句の果てに、
帰無仮説に逃げないこと
という迷言をお吐きになられましたでございますよ(No.1491 )。

 最近あちこちのコメント欄に元気にお出ましになられてるようですが、ボロクソに批判されてるブログまで、まるで自分を応援しているかのように他所のブログで引用するあたり、なんだかスゴイなあ…と思っていたのでした。