浮力 | ほたるいかの書きつけ

浮力

(テキトーな物言いをしていたところを微妙に修正しました)

 閑話(って何が本題だろう^^;;)。
 先日 kikulog のコメント欄 でちょっとだけ出た話題について、若干違和感があったので。

 浮力をどう教えるか?という話なのだけれども、まあ元の話の文脈はここではちょっと忘れましょう。
 説明が二種類ある。一つは、kikulogでYMNさんという方がリンクしている先 に書いてあり、またきくちさんも述べていることだが、簡単に言うと、水中の「水」の重さをばねばかりで測るとゼロになるから、水中に物体を入れると、おしのけた水の分だけ空気中より軽くなる(ばねばかりの示す値が変化する)というもの(ガモフの説明)。もう一つは、圧力差で説明する、というもの。で、高校では直方体の上下の圧力差で説明しているが、浮力は形に依らないので、いかがなもんでしょう、と。
 たしかにそれはそれで問題としてあるのだけれども、ガモフの説明で事足りるかというと、それはどうも納得がいかない。というのは、ガモフの説明では、何がどのように水中に沈めた物体に力を及ぼしているのかがまったく理解できないからだ。

 直方体を使った説明の何が問題かといえば、物体の大きさが有限(微小量でない)ということにある。では、きちんと圧力差で説明しようとするとどうなるか。本質的には静水圧平衡(静力学平衡)の概念が必要になる。

 まず、水の密度をρ0とし、深さ水槽の底からの高さhでの圧力をP(h)とする。そこからΔhだけ上昇した点での圧力をP(h+Δh)≒P(h)+ΔPとしておく。当然、ΔP<0である(水面に近いほど圧力は減るので)。深さ高さhにおける流体素片の体積をΔV=SΔhとおくと、圧力差と重力が釣り合っているなら全体の力は(上向きを正にとる)、
 F = P(h)S-P(h+Δh)S-mg = -SΔP-ρ0 ΔV g = -S ( ΔP + ρ0 g Δh ) = 0
となって、
 ΔP = - ρ0 g Δh
が成り立つ。Δh→0 にとれば、
 dP/dh = - ρ0 g
となる。平衡状態ではこうなっている。

 さて、水中に沈める物体の質量をΔm、密度をρ、体積をΔVとしよう。ここで微小体積を問題にするので、水の場合の流体素片と同様に、物体を微小な高さ方向に対称な形状とし、底面積をS、高さをΔhとする。
 この物体についての運動方程式をたてると、
 Δm a = P(h)S - P(h+Δh)S - Δm g = -SΔP - ρSgΔh = -S ( ΔP + ρgΔh )
     = -S ( -ρ0 g Δh + ρgΔh ) = SgΔh ( ρ0 - ρ)
となって、水の密度との差だけ軽くなることがわかる(密度が水より大きいと加速度が負、つまり沈もうとする)。
 あるいは、同じ体積の水の質量を上で書いたように m と置いておくと、
 Δm a = mg - Δmg = -(Δm-m)g
となって、まさに物体が押しのけた水の質量 m だけ軽くなっていることが示される。

 というわけで、直方体での説明は、力を及ぼす実体のイメージを持たせつつ、微分が使えない高校物理での苦肉の説明だと思う。直方体の大きさを微小としさえすれば水中での圧力を深さの関数として表すことが可能となり、一旦それを認めてしまえば、あとは「物体が押しのけた水の量だけ軽くなる」というのを示すのは容易であるし、なにより水が力を及ぼすことで(上からも下からも、あと今回は省略したけど横からも)浮力が働くというイメージを持ちやすいのではないだろうか。

 もちろん、話の入口としてのガモフの説明は大いに結構であると思う。それは、「だってそうじゃなかったら色々矛盾しておかしいじゃん」という、今まで学んできたこと同士の整合性を取り、論理的に非自明なことを導くという良い訓練になっていると思うから。でも、そこで留まるのはどうかなあ、と思うのであった。

 あ、notation が妙なのはすんません(mとΔmが並ぶのはキモチ悪いよなあ。でもHTMLだと添字をつけるの面倒だもんで…)。

 あともう一つ、kikulogでもリンク先の方も、当然「どっちが悪い」という議論はしておりませんので、念のため。どちらも大切だけど、ガモフ的な考え方が軽視されているのでは、という趣旨です(と私は読みました)。それには賛成です。
 ではなんでわざわざこんなエントリあげたかというと、極限操作の厳密性を抜きにすれば、この程度できちんと理解できるから、ということを示したかったわけです。まあ高校ではつらいかもしれんけど。でもさ、静水圧平衡を理解していれば、大気の構造とかも理解できちゃうわけで、コストパフォーマンスの良い教養だと思います。

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追記。全然関係ないけど、平衡で思い出した。某福岡氏の「動的平衡」ってやつですが、最初見たとき、これって「非平衡定常じゃん」と思った。が、分野によっては「動的」でも「平衡」と言うんですかね。