Excelで学んじゃう「マイナスイオン」
『Hado』の方もあと少しご紹介したい記事があるのですが、その前に、一部で話題になっているうちに関連する話を。
マイクロソフトの Excel をお使いの方も多いだろう。私は少し前まではほとんど使ってなかったのだが、今の職場に移ってきてから大量の書類がExcelで来るものだから、やむを得ず使っている(基本はLinuxなのだ)。で、去年、あろうことか Excel の使い方講座みたいなのをヤレと言われ、慌てて Excel 本を数冊買い求めたのであった。そのうちの一冊が、『Excelで学ぶ理工系シミュレーション入門』(臼田昭司、伊藤敏、井上祥史)である。
ちなみに対象は理工系とはまったく関係ない人々なのであるが、なにかネタがないと使い方を教えてもつまらんだろう、ということで、買ったのであった(結局使わなかったけど。Excel上で乱数ふらして、たまたま特定の血液型に偏る少数の集団が出る確率とかをビジュアルに示すとか、そんな講座にした)。
で、結局使わなかったのでちゃんと読んでないのだけれども、そのうちの第5章はこうなっている:「マイナスイオン、コロナ放電式、電子放射式、紫色LEDと光触媒 不平等電界の解析に挑戦」。きました、マイナスイオン!1年以上も引っ張っているのは、単にちゃんと中身を検討していないから(せめて書いてあることのオーダー評価ぐらいはしたかった)のだが、いま一部で大学教員でありながらマイナスイオンを推進しているような人々についての話題が出ているので、紹介する次第。
やってることは、ざっと見る限り、電極まわりの電場の解析。ラプラス方程式を解いているようだ(解法自体は前の第4章に記載されているらしい)。
詳細は措いとくとして、問題は「マイナスイオン」にどういうアプローチをとっているかだ。
最初のページの脚注にはこうある。
その次には「マイナスイオン」についての解説が載っている。これも詳細は省くが、大気イオンの解説になっているようだ。ただし、「マイナスイオン」「プラスイオン」という用語が出てくるのだが。
で、こんな記述に出っくわすのだ。
さらに、「マイナスイオンの効果」にも話は及ぶ。
最初にこう来る。
ついでに効能をまとめた表も二つ書いておこう。
この後は、コロナ放電などのメカニズムの話や、「マイナスイオンの測定」の話、光触媒との関係などの話が続き、「マイナスイオン」という言葉が出ること、測定の具体的な話が欠如していることを除けば、割とマトモな話に見える。タバコの煙を重イオン化して煙を消す実験の写真なども載せられている。
まあ後半のこういった「効果」は、たぶん本当なんだろう。そこまで疑うとキリがないので、実験は真摯に行われているとみなしておく。
それにしても、である。まるでバイブル商法のバイブルを書いているようなものだ。わざわざ「マイナスイオン」という手垢のついたニセ科学用語を出さなくても、また健康に関わる主張をしなくても、十分意味のある内容に仕上げることができたはずなのに。あまりに安易過ぎる。
「著者略歴」によると、問題の章を執筆した臼田氏は、現在大阪府立工業高等専門学校システム制御工学科教授だそうである。1975年に北大工学部でドクター取って、その後20年近く東芝で研究開発に従事されていたそうだ。他の二人は、伊藤氏は79年にドクター取得、現在愛知工科大学工学部教授、井上氏は80年にドクターを取って現在岩手大学教育学部技術科教授。ただし出身大学もその後の経歴でも、この3人に接点がなさそうなので、どういうご関係なのかはわからない。3人ともソフトウェア関係の著書は多いので、そのあたりでつながったのかもしれない。
「効果はあってもニセ科学」というマイナスイオン問題の特質がよくわかる本だ。
マイクロソフトの Excel をお使いの方も多いだろう。私は少し前まではほとんど使ってなかったのだが、今の職場に移ってきてから大量の書類がExcelで来るものだから、やむを得ず使っている(基本はLinuxなのだ)。で、去年、あろうことか Excel の使い方講座みたいなのをヤレと言われ、慌てて Excel 本を数冊買い求めたのであった。そのうちの一冊が、『Excelで学ぶ理工系シミュレーション入門』(臼田昭司、伊藤敏、井上祥史)である。
ちなみに対象は理工系とはまったく関係ない人々なのであるが、なにかネタがないと使い方を教えてもつまらんだろう、ということで、買ったのであった(結局使わなかったけど。Excel上で乱数ふらして、たまたま特定の血液型に偏る少数の集団が出る確率とかをビジュアルに示すとか、そんな講座にした)。
で、結局使わなかったのでちゃんと読んでないのだけれども、そのうちの第5章はこうなっている:「マイナスイオン、コロナ放電式、電子放射式、紫色LEDと光触媒 不平等電界の解析に挑戦」。きました、マイナスイオン!1年以上も引っ張っているのは、単にちゃんと中身を検討していないから(せめて書いてあることのオーダー評価ぐらいはしたかった)のだが、いま一部で大学教員でありながらマイナスイオンを推進しているような人々についての話題が出ているので、紹介する次第。
やってることは、ざっと見る限り、電極まわりの電場の解析。ラプラス方程式を解いているようだ(解法自体は前の第4章に記載されているらしい)。
詳細は措いとくとして、問題は「マイナスイオン」にどういうアプローチをとっているかだ。
最初のページの脚注にはこうある。
本章執筆時において、マイナスイオンについては諸説いろいろであり、その実体はわかっていない。本章は、マイナスイオン発生器の試作や実験結果、オゾン測定などを通してこれまで得てきた知見をもとに、筆者の1人である臼田がまとめたものである。というわけで、実体がわかっていないものを計算しようというのだから恐れ入る。さすがに他の著者からも文句が出たのか、この章を執筆している臼田氏が自分の責任で書くということにしたようだ。
その次には「マイナスイオン」についての解説が載っている。これも詳細は省くが、大気イオンの解説になっているようだ。ただし、「マイナスイオン」「プラスイオン」という用語が出てくるのだが。
で、こんな記述に出っくわすのだ。
空気中にはマイナスイオンだけでなく、プラスイオンも多く存在します。プラスイオンの実態はプラスの電気を持った分子や粒子です。大気が澄みわたり湿度が低めで清々しく感じる時にはマイナスイオンの比率が高く、大気が汚れて高湿度のときはプラスイオンの比率が高くなります。なんというか、教科書的な、というか、絵に描いたようなニセ科学の記述である。
滝、噴水、森や森林などの大自然ではマイナスイオンが多く発生します。排気ガスやばい煙などが多いところではプラスイオンが多くなります。
さらに、「マイナスイオンの効果」にも話は及ぶ。
最初にこう来る。
マイナスイオンは除菌とリフレッシュ、健康促進に対して効果があります。大断言!さらに、
人体の皮膚の細胞膜は外側がプラス、内側がマイナスに保たれています。マイナスイオンが皮膚表面に付着するとイオン交換が行われ、膜の内外に電流が流れ、内から老廃物が、外から栄養分が行き交い、新陳代謝が活発になります。新陳代謝の機能をつかさどる自律神経も活発になり、内分泌腺の機能をよくします。さらに、中枢神経や末梢神経にも好影響を与え、造血機能も増進します。出た~、「空気のビタミン」!!
このようにマイナスイオンは細胞の生理機能を向上させる効果を担っています。結果的に、身体機能が向上し、呼吸が楽になり、血液が弱アルカリ性になるなど、疲労回復に繋がり、気分が爽快になります。また、気分が落ち着くなどリフレッシュ効果も相乗します。この意味からマイナスイオンはまさに”空気のビタミン”と言えます。
ついでに効能をまとめた表も二つ書いておこう。
表5.2◆マイナスイオンの効果と作用
効果 作用 除菌 細菌とウィルスの両方に対して除菌する 除菌補助 オゾンと共存することで除菌作用を促進する マイナスイオン化 空中の浮遊粒子をマイナスイオン化して無害化する 集塵 空中の浮遊粒子をマイナスイオン化して、集塵用のプラス電極に吸着して取り除く リフレッシュ、健康促進 マイナスイオンを多く含んだ空間は気分を落ち着かせ、健康を促進する
表5.3◆マイナスイオンの健康促進まるで「イオントレーディング 」のようだ(ここの「マイナスイオンを学ぶ」を参照)。
プラスイオンが多い場合
マイナスイオンが多い場合
不快感、イライラ
爽快感、精神安定
不眠
快眠
血圧上昇
血圧降下
頭痛、肩こり、めまい、吐き気
身体機能・呼吸器機能の向上
アレルギ症
免疫力向上
動脈硬化、老化 新陳代謝が活発、老廃物の排出 体の疲れ 疲労回復、気分がリラックス
この後は、コロナ放電などのメカニズムの話や、「マイナスイオンの測定」の話、光触媒との関係などの話が続き、「マイナスイオン」という言葉が出ること、測定の具体的な話が欠如していることを除けば、割とマトモな話に見える。タバコの煙を重イオン化して煙を消す実験の写真なども載せられている。
まあ後半のこういった「効果」は、たぶん本当なんだろう。そこまで疑うとキリがないので、実験は真摯に行われているとみなしておく。
それにしても、である。まるでバイブル商法のバイブルを書いているようなものだ。わざわざ「マイナスイオン」という手垢のついたニセ科学用語を出さなくても、また健康に関わる主張をしなくても、十分意味のある内容に仕上げることができたはずなのに。あまりに安易過ぎる。
「著者略歴」によると、問題の章を執筆した臼田氏は、現在大阪府立工業高等専門学校システム制御工学科教授だそうである。1975年に北大工学部でドクター取って、その後20年近く東芝で研究開発に従事されていたそうだ。他の二人は、伊藤氏は79年にドクター取得、現在愛知工科大学工学部教授、井上氏は80年にドクターを取って現在岩手大学教育学部技術科教授。ただし出身大学もその後の経歴でも、この3人に接点がなさそうなので、どういうご関係なのかはわからない。3人ともソフトウェア関係の著書は多いので、そのあたりでつながったのかもしれない。
「効果はあってもニセ科学」というマイナスイオン問題の特質がよくわかる本だ。
- Excelで学ぶ理工系シミュレーション入門―表計算ソフトを使った分析・解析の実践テクニック/臼田 昭司
- ¥2,625
- Amazon.co.jp