建築業界の「マイナスイオン」(訂正あり)
訂正(6/8 23:41)「トクホ住宅」ですが、コメント欄で指摘されているように、所管は厚生労働省ではなく、国土交通省とのことです。訂正を入れておきました。リンクも追加しておきました。
前回のエントリのコメント欄 にて、OSATOさんから興味深い問題を教えていただいた(どうもありがとうございました)。建築業界でも、「マイナスイオン」が蔓延しているというのだ。
amebloではコメント欄でタグが使えないので、せっかくURLを教えていただいても、クリック一つで飛ぶことができず不便だ。なので、このエントリから飛べるようにしておく。
まず、加藤建築さんのページ、「こんな壁紙ほしかった! 」。ここで、他の各種壁紙と並んで「マイナスイオン壁紙」の解説があるのだが、その内容はもはや懐かしいと言ってもいいぐらい、「マイナスイオンは体にいい」のオンパレードだ。未だにこの手の宣伝が正面からなされているのは盲点であった。
なお、マイナスイオンの効果としてタバコの煙を消す機械のムービーが載せられている。あまりちゃんと調べていないのだが、放電によってタバコの煙を消す効果はどうやらあるようなので、いわゆる「マイナスイオン製品」の中ではこれは最も効果のある製品の一つではないかと思っている。しかし、だからと言ってマイナスイオンが体にいいという証明にはまったくならない。むしろ、こういう場面で登場することからもわかるように、「マイナスイオン」という言葉を登場させることが、漠然と「体にいい」効果をもたらすと消費者に思わせ、その製品に付加価値を与えていることになるのだ。
上のページでは、どういうメカニズムで「マイナスイオン」が放出されているのか不明であるが、OSATOさんが次に挙げておられたページでは、ほんの少しばかり触れられている。大野建設さんの「遠赤外線を放出するマイナスイオン壁紙と珪藻土 」。住宅事業部の方のコメント、前半を引用する。
ちなみに6.27ミクロンだとすると、Wienの変位則λT=0.3 [K cm]より(λは波長、Tは絶対温度)、6.27ミクロンの波長の電磁波はT=0.3[K cm]/6.27*10^{-4}[cm]=478[K]で、およそ摂氏200度の黒体輻射に相当する。ちょっと温度が高すぎると思う。なので、6.27ミクロンではないか、熱的ではない別のメカニズムであると思われる。
もう一つ気になる点は、「遠赤外線の低い波長」というのが何を意味するのかがさっぱりわからないということだ。
次に放出源であるが、珪藻土にサンゴなどを混ぜたものであるようだ。空気中の水分が壊されるというのだが、その意味がまたさっぱりわからない。水蒸気なのか、微小な水滴なのか。
風が強いときはマイナスイオンが多く出る、ということだが、だったら台風の時はみんな健康になるのか。
ちょっとトルマリンと似た感じなので、どうもなあ、という気がするのだが、このあたり、詳しいことがわかる方がいらっしゃったら教えていただけると有難い(私ももう少し調べてみるつもりですが)。
さて、次は大手のサンゲツさん。このページ に、「マイナスイオン」壁紙についての簡単な解説が載っている。曰く、
なお、別のページではロハスが云々とも語られていて、「天然」も売りにしているようにも見える。
そして最近設立されたという「日本建築医学協会 」。設立趣旨を読むと、特に変ではないように見える(地磁気の健康への影響とか、疑問符がつくところはあるのだけれども)。しかし。会長は帯津良一氏。「日本ホメオパシー医学会」の理事長もされている人物だ。他にも顧問に名を連ねている人々の中には、 河野貴美子・国際生命情報科学会副会長や 堀田忠弘・意識波動医学研究会会長といった人々がいる。ついでに言うなら、愛知和男、 末松義規、 田村耕太郎など国会議員も顧問に名を連ねている。なお事務局長は井上祐宏・日本エネルギー医学協会専務理事であるが、日本エネルギー医学協会というのは旧称は日本波動医学協会というらしい。
さらに、OSATOさんが示してくれたURLの先には、2008年春の大会講演会の案内があり、テーマは「予防医学としての住環境 」となっている。ここがまたスゴくて、協賛団体として、あの「サトルエネルギー学会」が名を連ねているのだ。ちなみに『買ってはいけない』の船瀬俊介氏の講演もあったりする。
さて、この動きの背景にあるのはなんだろうか。OSATOさんが示してくれた、もう一つのURLにそのカギがあるような気がする。
現在、建築業界では、「トクホ」が話題 らしいのだ。トクホというと健康食品、というイメージだが、厚生労働省国土交通省は、トクホ住宅の認定制度を検討しているらしい。これがどのようなものになるのか、現段階では(私には)ちょっとよくわからないのだが、もしその制度がスタートするならば、公式に認定された付加価値として多くの業者が参入することになるだろう。そして、マイナスイオンや波動を売り文句にした「トクホ住宅」を目指して、彼らが動くことはほぼ間違いないだろう。
誰が認定することになるのかわからないが、もし万が一にも「波動」や「マイナスイオン」をうたう「トクホ住宅」が公認されてしまえば、これはちょっとかなり恐ろしいことになる。
壁紙は、日本ではそうそう買うものではないだけに、普段は宣伝文句を見ることはなく、ここまで「マイナスイオン」が蔓延しているとはまったく思っていなかった。しかし、放っておけば、「マイナスイオン」問題だけではなく、「波動」「ホメオパシー」絡みの問題を、建築業界に導入してしまうことになる。これは監視しておく必要がありそうだ。
(追記)国土交通省の関連ページはこちら:健康維持増進住宅研究委員会の開催について およびその資料(PDF)
前回のエントリのコメント欄 にて、OSATOさんから興味深い問題を教えていただいた(どうもありがとうございました)。建築業界でも、「マイナスイオン」が蔓延しているというのだ。
amebloではコメント欄でタグが使えないので、せっかくURLを教えていただいても、クリック一つで飛ぶことができず不便だ。なので、このエントリから飛べるようにしておく。
まず、加藤建築さんのページ、「こんな壁紙ほしかった! 」。ここで、他の各種壁紙と並んで「マイナスイオン壁紙」の解説があるのだが、その内容はもはや懐かしいと言ってもいいぐらい、「マイナスイオンは体にいい」のオンパレードだ。未だにこの手の宣伝が正面からなされているのは盲点であった。
なお、マイナスイオンの効果としてタバコの煙を消す機械のムービーが載せられている。あまりちゃんと調べていないのだが、放電によってタバコの煙を消す効果はどうやらあるようなので、いわゆる「マイナスイオン製品」の中ではこれは最も効果のある製品の一つではないかと思っている。しかし、だからと言ってマイナスイオンが体にいいという証明にはまったくならない。むしろ、こういう場面で登場することからもわかるように、「マイナスイオン」という言葉を登場させることが、漠然と「体にいい」効果をもたらすと消費者に思わせ、その製品に付加価値を与えていることになるのだ。
上のページでは、どういうメカニズムで「マイナスイオン」が放出されているのか不明であるが、OSATOさんが次に挙げておられたページでは、ほんの少しばかり触れられている。大野建設さんの「遠赤外線を放出するマイナスイオン壁紙と珪藻土 」。住宅事業部の方のコメント、前半を引用する。
マイナスイオンの6.27波長は遠赤外線の低い波長です。この波長は水と共振し、水を壊し、その結果、小さいクラスター(マイナスイオン)と大きいクラスター(プラスイオン)ができるのです。まず、「6.27波長」というのがわからない。普通、物理でこういう言い方をする場合は、波長の6.27倍、という意味で使うと思うのだが、文脈から(と言っても文脈があるほど長文でもないし、唐突に出てくるのだが)、おそらく6.27ミクロンだと思われる。赤外線と言っているし。
たとえば、部屋の中の壁紙もしくは漆喰壁などに、珪藻土にサンゴ、ホタテ、微粉炭、遠赤外線鉱石粉末などを混ぜたもの(すべて6.27波長を出す)を塗装しておくと、空気中の水分が壊されて、マイナスイオンが出来ます。水分が部屋の中で少ないときは水分を供給し、多いときは吸い込みます。
風によっても水が小さくちぎられ、マイナスイオンが作られます。したがって風が強いときはマイナスイオンが多く出ます。
ちなみに6.27ミクロンだとすると、Wienの変位則λT=0.3 [K cm]より(λは波長、Tは絶対温度)、6.27ミクロンの波長の電磁波はT=0.3[K cm]/6.27*10^{-4}[cm]=478[K]で、およそ摂氏200度の黒体輻射に相当する。ちょっと温度が高すぎると思う。なので、6.27ミクロンではないか、熱的ではない別のメカニズムであると思われる。
もう一つ気になる点は、「遠赤外線の低い波長」というのが何を意味するのかがさっぱりわからないということだ。
次に放出源であるが、珪藻土にサンゴなどを混ぜたものであるようだ。空気中の水分が壊されるというのだが、その意味がまたさっぱりわからない。水蒸気なのか、微小な水滴なのか。
風が強いときはマイナスイオンが多く出る、ということだが、だったら台風の時はみんな健康になるのか。
ちょっとトルマリンと似た感じなので、どうもなあ、という気がするのだが、このあたり、詳しいことがわかる方がいらっしゃったら教えていただけると有難い(私ももう少し調べてみるつもりですが)。
さて、次は大手のサンゲツさん。このページ に、「マイナスイオン」壁紙についての簡単な解説が載っている。曰く、
マイナスイオン壁紙には天然のミネラル鉱石が含まれています。ということで、「天然の」「ミネラル鉱石」が発生源ということのようだ。こちらはやはりトルマリンですかね?ミネラル鉱石とだけではよくわからないが。
この鉱石がお部屋の空気をマイナスイオン化し、森林浴と同じようなリフレッシュ効果があるのです。さらに、空気中の水分と反応して自然に発生させるものなので、リラックス効果が、なが~く続いてくれるのです。
なお、別のページではロハスが云々とも語られていて、「天然」も売りにしているようにも見える。
そして最近設立されたという「日本建築医学協会 」。設立趣旨を読むと、特に変ではないように見える(地磁気の健康への影響とか、疑問符がつくところはあるのだけれども)。しかし。会長は帯津良一氏。「日本ホメオパシー医学会」の理事長もされている人物だ。他にも顧問に名を連ねている人々の中には、 河野貴美子・国際生命情報科学会副会長や 堀田忠弘・意識波動医学研究会会長といった人々がいる。ついでに言うなら、愛知和男、 末松義規、 田村耕太郎など国会議員も顧問に名を連ねている。なお事務局長は井上祐宏・日本エネルギー医学協会専務理事であるが、日本エネルギー医学協会というのは旧称は日本波動医学協会というらしい。
さらに、OSATOさんが示してくれたURLの先には、2008年春の大会講演会の案内があり、テーマは「予防医学としての住環境 」となっている。ここがまたスゴくて、協賛団体として、あの「サトルエネルギー学会」が名を連ねているのだ。ちなみに『買ってはいけない』の船瀬俊介氏の講演もあったりする。
さて、この動きの背景にあるのはなんだろうか。OSATOさんが示してくれた、もう一つのURLにそのカギがあるような気がする。
現在、建築業界では、「トクホ」が話題 らしいのだ。トクホというと健康食品、というイメージだが、厚生労働省国土交通省は、トクホ住宅の認定制度を検討しているらしい。これがどのようなものになるのか、現段階では(私には)ちょっとよくわからないのだが、もしその制度がスタートするならば、公式に認定された付加価値として多くの業者が参入することになるだろう。そして、マイナスイオンや波動を売り文句にした「トクホ住宅」を目指して、彼らが動くことはほぼ間違いないだろう。
誰が認定することになるのかわからないが、もし万が一にも「波動」や「マイナスイオン」をうたう「トクホ住宅」が公認されてしまえば、これはちょっとかなり恐ろしいことになる。
壁紙は、日本ではそうそう買うものではないだけに、普段は宣伝文句を見ることはなく、ここまで「マイナスイオン」が蔓延しているとはまったく思っていなかった。しかし、放っておけば、「マイナスイオン」問題だけではなく、「波動」「ホメオパシー」絡みの問題を、建築業界に導入してしまうことになる。これは監視しておく必要がありそうだ。
(追記)国土交通省の関連ページはこちら:健康維持増進住宅研究委員会の開催について およびその資料(PDF)