「子供は理系にせよ!」 | ほたるいかの書きつけ

「子供は理系にせよ!」

 前回のエントリ で触れた大槻義彦の「江原スピリチュアルの大嘘を暴く」と一緒に購入したもの。
子供は理系にせよ! (生活人新書 251)/大槻 義彦
¥735
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 この本、第一義的には、自分の子どもを理系に進めたい親のために書かれている。だから、どうやったら子ども(自分の子どもでなくてもよい、理科離れを食い止めるにはどうしたらいいか、などの問題意識があれば)を理系に進められるかと言う問題意識のない人は、端的に言って、読むべきではない。読めば怒りだすだろう。なぜなら、これはプロパガンダ本であり、アジ演説の詰まった本であり、公平とは対極にある本だからだ。そして、それは著者がわざと狙ったものである。
 随所に、「さあ、あなたも早く理系に進もう」という文章が(少しアレンジされながら)挟み込まれている。ほとんどサブリミナルだ。

 前書きから引用する。
 なお、はじめにお断りしておかなければならないことがある。それは、本書は文系をこき下ろし、徹底的に理系礼賛、科学至上主義で貫かれている、ということである。
 読者の中には、このような思想に反感を持ったり、違和感を感じたりする方々も多いかもしれない。しかし、このような本書の態度は、ある理由があってのことなのである。それについては「あとがき」に釈明めいた説明を付け加えた。
 「あとがき」は気になる人だけ見てもらえばよいと思うが、「申し訳ありません」を二度も書いている、とだけ言っておこう。

 さて、それを踏まえたうえで、基本的に理系の人間である私にとって有益な部分を探してみる。
 後半に、大槻氏が学生から集めた膨大なアンケートに基づく「なぜ理系に進んだのか?」というテーマは、考える材料になるだろう。大槻氏による分析自体はそのままでは受け取れないものの、色々示唆するものはある。
 私はなるほどと思ったのは、理系に進んだ人は、家族なり親しい親戚、あるいは中学校の理科教師や家庭教師などから、継続して理系の雰囲気にさらされていた場合が多い、ということであった。逆に、単発で科学館や科学イベントに子どもを連れ出しても、その場でどれだけ面白がっても、それだけでは理系を志望する理由にはならなかったそうである。

 で、家庭での話はおいといて。問題は学校教育。
 大槻氏は、理工系学部の学生にも中学校教師の免許を出しやすくするよう変えるべきだと述べている。私は教育学部での理科教育が現状のままでよいとは全然思わないが、しかし理工系学部の卒業生が、わずかの教職科目(教育原論とか教育心理学とか)で中学校教師になるのはどうかと思う(初等ではなおさらである)。なぜなら、この段階では、まだ人格形成の重要性がとても高いからだ。
 自分(とその周囲)を振り返ってみて、残念ながら普通の理工系学部の学生に適性があるとは思えないのだ(もちろん、少数ながらやっていけそうな人は当然いますが)。

 ただ、いずれにしても、小中学校での理科、あるいは様々な授業や授業外で語られる言葉の中での自然の奥深さ、理解することの喜び、また技術の論理性やものつくりの楽しさなどが、教師自身が楽しんで語れるようになることが重要なのだと思う。
 しかし、学校現場を取り巻く状況は、なかなかそれを許さないだろう。他に対応しなければならないことが山積しているからだ。
 教育を改革するというならば、教師自身がじっくり物事を考え、学ぶ喜びを自ら再発見しながら子どもに伝えられる状態を保障するべきだ。単に理科の授業時間を増やせばいいというものではない(現状ではむしろ準備がますますおろそかになって薄い授業にしかならないのではないか)。
 とにもかくにも人を増やす、人を大事にする。そういう施策を国には望みたい。