「夏の残像」
- 夏の残像―ナガサキの八月九日/西岡 由香
- ¥1,155
- Amazon.co.jp
マンガ的な観点から言えば、「夕凪の街~」がその表現方法について画期的だったのに対し、こちらはかなりオーソドックスな少女マンガ的方法論に基づいていると言えるだろう。ただ、主人公が現代の東京の女子高生であり、被爆者の祖母を持つという点を除けばごく普通であるという点が、共感を呼びやすいかもしれない。
巻末の解説から、おそらく作者が一番(かどうかわからないけど)言いたかったことを引用する。
郵便配達員だった男性にはモデルがいます。その方が被爆以降の話よりも、赤い自転車で配達に回った被爆前の美しい町並みや人々の暮らしをいきいきと語ってくれたとき、私は今さらのように気づいたのです。「その瞬間」まで、今と同じように人々がささやかな日常を生きていたのだと。1話が20~30ページ程度の短編であるためこの観点が活かされきっているわけではないが、現実に生きている(た)人々の個別性に着目しているという点では「夕凪の街~」に通ずるかもしれない。いずれにしても、広く読まれて欲しいと思う。
なお、長崎の原爆資料館や平和公園に行くのであれば、ほんの少しだけ足を伸ばして白山墓地へ行くのがオススメ。それぞれの墓石の裏、誰が、いつ亡くなったかを見て欲しい。1945年8月9日に一つの家族から何人も亡くなっているが、9日だけではなく、10日、11日と続き、また2,3ヶ月後に亡くなっている人もいて、原爆というものが「その時」だけの被害ではない、ということがリアルに感じられる。核兵器というものの特殊性として、被爆者の苦しみは「後遺症」ではなく、現在も身体を蝕まれ続けているのだということが挙げられるが、その一旦を見て取れよう。
白山墓地については「長崎さるく」 のコースマップから「アンゼラスの鐘の丘を訪ねて」(pdf) を見ると地図の右のほうに載っている。
「夕凪の街~」が出たのでついでに。太田洋子の「屍の街」は読むべきでしょう。ちょっと手に入りにくいかもしれないが、学生時代に読んで衝撃を受けた。
- 夕凪の街桜の国/こうの 史代
- ¥840
- Amazon.co.jp