樹村みのりの新刊
- 見送りの後で (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)/樹村 みのり
- ¥609
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この人のマンガの魅力はおそらくその繊細さでしょう。繊細なマンガを描く人は何人もいますが、この人にしか描けない繊細さが、今回も満載です。生きていれば誰もが経験するような日常と非日常の出来事を通して、人の心の奥底まで降りていき、悩みもだえつつ、しかし時は容赦なく過ぎてゆく。しかしそれすらもいとおしく受け入れ、自分はどう生きるべきか、どう行動すべきか、考えつつも一歩を踏み出していく。この人ほど物事を奥深くとらえる人は、なかなかいないのではないでしょうか。
もう一つこの人に特徴的なのは、個々の人生と大きな社会とのつながりを感じさせてくれることでしょう。小さなコミュニティではなく、日本や世界という大きな社会。それは具体的に描かれるのではありませんが、社会とどうつながるべきか、どう関わっていくべきなのか、という問題意識が、日常を精一杯生きるごく普通の人々を通して浮かび上がってきます。
人生の厳しさを見せつけられつつ、それでも人を信頼し、精一杯生きることの喜びと美しさを感じさせてくれます。読み終わった後に、ほんの少し優しくなれるような…というと陳腐な表現ですが、そんな気になります。多くの人に読んで欲しいマンガです。
ところで初出は「朝日ソノラマ」が多いのですが、昨年秋に会社は吸収合併され消滅していたのですね。それで発行元が朝日新聞社になっている、と。なんだか複雑な気持ちです。
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こういう作品を読んでいると、死後の世界だの生まれ変わりだの本当にバカバカしくなりますね。そんなことを考えるより、今の人生に注力するほうがどれだけ素晴らしいか。「銀河鉄道999」(の第一部、と今となっては言うべきでしょうかね)のテーマでもありますが、限りある命だからこそ輝く、ということを忘れないようにしたいものです。