その反応は、間違っていなかった
朝の静かな空気を切り裂くように、突然響いた家族の声。
「……ない!」
それは会社のIDパスだった。
出勤直前になって、いつも首から下げているはずのパスが消えていたのだ。
家の空気が一瞬で変わる。
昨日使っていた鞄をひっくり返し、洋服のポケットを探り、机の上や玄関まで確認する。
しかし――どこにもない。
焦りだけが積み重なっていく。
時計を見るたびに、出発のタイムリミットが迫ってくる。
「このままじゃ間に合わない……」
そんな緊迫した空気の中、私はある方法を試すことにした。
――リーディング。
半信半疑ではあったけれど、今は少しの可能性にも賭けたかった。
家族が1階を探している間、私は2階へ向かった。
リーディングの問いに対して反応があった。
「前……次は右……いや、左?」
導かれるように進んでいく。
まるで見えない何かが、「こっちだ」と囁いているようだった。
そして、ある地点でピタリと反応が止まった。
「ここだ……!」
胸が高鳴る。
しかし――そこには何もない。
床にも棚にも、IDパスらしきものは存在しなかった。
ただの空間。
静まり返った空気だけがそこにあった。
結局、どれだけ探しても見つからず、家族は少し遅れて出勤することになった。
私はずっと気になっていた。
「あの反応は何だったんだろう……?」
そしてその日の夜。
帰宅した家族から、ついに報告があった。
「見つかったよ!」
なんとIDパスは、鞄の“普段使わないポケット”に入っていたという。
思わず力が抜けた。
見つかって本当に良かった。
……だが、その瞬間、私はあることに気づいてしまった。
リーディングの反応が消えた場所。
そこは、ちょうど真下――1階に、IDパスの入った鞄が置かれていた位置だったのだ。
私は2階ばかりに意識を向け、「下」を確認していなかった。
思い込みで視野が狭くなっていたのである。
つまり――
リーディングは間違っていなかった。
私が、“正しく受け取れていなかった”だけだったのだ。

あの日の静かな反応停止の瞬間を思い出すたび、今でも少しゾクッとする。
見えないものは、本当に存在するのかもしれない。