海岸のベンチで、夜空を流れる雲を眺めていた。
地上の光を反射した雲は、意外な速さで風に流されていた。
目を閉じると、絶え間ない波と、まだ少し冷たい海風の音だけが聞こえる。
目を開くと、明るい夜空を相変わらず雲が流れていた。
また、ぼんやりと眺める。
何も考えずに、ただ眺める。
僕はいつでも、あの夜の海に戻る事ができる。
目を閉じて、ゆっくり深呼吸して、一つ一つ思い出せばいい。
潮の匂い、波の音、風の感触……。
そうして目を開ければ、目の前にはまた、あの夜空が広がっている。
あの雲が流れている。
それから、視界のやや左側に目を向ける。
そして僕は、少しだけ微笑む。