指名打者(Designated Hitter)とは何か?

 

今回は「指名打者」に関するお話です。

 

 

●指名打者制とは何か?

 

NPB(日本プロ野球)では、パ・リーグが採用。セ・リーグは不採用。

MLB(メジャーリーグ)では、ア・リーグが採用。ナ・リーグは不採用。

WBCなどの国際試合では採用。

高校野球では不採用。

 

投手の代わりに打席に立つ指名打者制のルール詳細は調べればわかる事なので、ココでは省略する。

 

 

●DH制の有無による特徴

 

DH制が有る場合と無い場合とで特徴を挙げてみると、それぞれにおいて一長一短(メリット・デメリット)がある事が分かってる。

 

(1)DH制有りの特徴

 

<投手>

・「投手専門」で食っていける。(打撃が苦手でもOK)

・自軍が攻撃中に、休めたり、次イニングの準備に専念できたりする。

・先発投手は、攻撃時の都合によって交代される事がないので、長いイニングを持ちやすく育ちやすい。

・打撃や走塁等による怪我のリスクを回避できたり疲労を軽減できたりする。

・切れ目のない攻撃的打線を相手にする事になるので、気を抜きにくい。

 →たとえ9番打者でも出塁すれば足があり、盗塁で揺さぶられる機会が増える。

 

<指名打者>

・「打撃専門」で食っていける。(守備が下手でもOK)

・自軍が守備中に、休めたり、次打席の準備に専念できたりする。

・野手の出場選手枠が一つ増える。

・代打を送られる場面が少ないので、控え選手の出場機会が少なくなる。

・指名打者枠を上手く活用してローテーションをする事で、野手の選手寿命が伸びやすくなる。

 

DH制有りの場合は、システム面でのメリットがあるが、控え選手の出場機会が少なくなるなどのデメリットもある。

 

 

(2)DH制無しの特徴

 

<ベンチ>

・中盤終盤の得点機会で先発投手に打席が回ってきた時の「駆け引きの妙味」が生まれる。

・監督の判断力や采配センスが試され、その力量やベンチワークによって勝敗が決まる事も多い。

・ベンチ入り選手の消化ペースが投手・野手共に速い。

 

<投手>

・中盤終盤の得点機会で先発投手に打席が回ってきた時、代打を送られやすい。

 →完投や完封の芽を摘まれる事になり、投手として育ちにくくなる。

・タイムリーヒットやホームランで勝利打点をあげるロマン。

 (例1)江夏の延長ノーヒットノーラン(自身のサヨナラホームランで達成)

 (例2)工藤の通算200勝目(自身のホームランが勝利打点)

・打撃や走塁等による怪我のリスクや疲労が生じる。

・打席が回ってくるイニングになると、次イニングの準備があまりできなくなる。

・デッドボール等のアクシデントや報復を恐れるあまり、打つ気のない投手の打席を見せられる弊害がある。

 

<野手>

・中盤終盤の得点機会で先発投手に打席が回ってきた時、代打での出場機会を得やすい。

→それ以降も中継ぎ投手に打席が回るたびに、代打によって、より多くの控え野手が出場機会を得やすくなる。

・「代打の切り札」「代打の神様」の土壌が生まれる。

 

主に「野球の醍醐味」を重要視しているものが多い。

 

 

このようにして、DH制には有り無しそれぞれにおいて一長一短がある。

 

そして、DH制の有無によって、パ・リーグの野球とセ・リーグの野球に大きな違いが生じてきた。

 

DH制の有るパ・リーグは、雑で豪快で大味な「剛の野球」になりやすい。

 →フルカウントになったら、ストライクで勝負する。

 

DH制の無いセ・リーグは、丁寧で繊細で緻密な「柔の野球」になりやすい。

 →フルカウントになったら、ボール球を振らせる。

 

 

更に、DH制の有無は、完投・完封・無四球試合・ノーヒットノーラン・完全試合に対しても各々で独特の付加価値を与えている。

 

DH制の無いセ・リーグでは、試合展開によって代打を送られるかもしれない中でやり遂げた事に価値がある。

DH制の有るパ・リーグでは、切れ目のない打線を相手にやり遂げた事に価値がある。

 

DH制の有無や特徴が、各リーグそのものの特徴を作り上げる要因になったのは間違いない。これらは優劣をつけられるものではなく、それぞれにおいてそれぞれの良さがあるという事だ。

 

 

●日本シリーズの成績

 

日本シリーズの初DH採用は1985年。

 

1985年と2020年は全試合DH制有り。

1986年はDH制無し。

1987年からは、パ・リーグ本拠地試合のみDH制有り。

 

日本シリーズの成績を、シーズンのDH制や交流戦の導入前後で区切って見てみると、面白い発見がある。

 

(1)パ・リーグDH制導入前(1950~1974年)の日本シリーズ

セ・リーグ…17勝、パ・リーグ…8勝

 

この頃は、セパ関係なく人気実力ともにジャイアンツが圧倒的に強い「巨人一強」の時代であった。伝説のV9(1965~1973年)もあった。

 

 

(2)パ・リーグDH制導入後~プロ野球再編問題(1975~2004年)の日本シリーズ

セ・リーグ…15勝、パ・リーグ…15勝

 

ジャイアンツが低迷し始め、1980年代のライオンズ黄金時代、1990年代のスワローズ黄金時代などもあり、実力差は拮抗していた。

とは言え、1980年代のパ・リーグは「ライオンズ一強」で他パ球団が強かったわけではない。

 

 

(3)交流戦開始以降(2005~2020年)の日本シリーズ

セ・リーグ…3勝、パ・リーグ…13勝

 

2005年から始まった「交流戦」(インターリーグ)。

セ・リーグ主催試合ではDH制無し。

パ・リーグ主催試合ではDH制有り。

※但し、2014年シーズンは逆パターンだった。

 

2019年までの成績は、

パ・リーグ…1098勝で、14回勝ち越し

セ・リーグ…966勝で、1回勝ち越し

(2020年は交流戦中止)

 

パ・リーグがセ・リーグよりも強いのは、交流戦の成績を見ても明らかであり、全ては結果が証明している。

 

 

●かつては「DH制はセ・リーグに有利」という論調だった

 

かつてセ・リーグが強かった頃は、「セ・リーグは公式戦で投手も打席に立つから、日本シリーズではセ・リーグの方が有利」という論調もよく聞かれた。

 

(1)DH制無しの場合

 

<セ・リーグ>

・普段通りの野球をすればよい。

 

<パ・リーグ>

・普段は打席に立たない投手が打席に立つので、攻撃力が下がる。(バンドすらできない)

・普段はDHをやっている選手の起用法はどうするのか?

 →出場させる場合、慣れない守備に付くため、守備力が下がる。

 →出場させない場合、代打でしか使い道がなくなり、攻撃力は確実に下がる。

 

パ・リーグは事前準備を求められるために不利になりやすい。

 

ただし、セ・リーグにもバンドや進塁打すらできない投手はたくさんいるので、DH無しのメリットを生かし切れていないのが現実である。

 

 

(2)DH制有りの場合

 

<パ・リーグ>

普段通りの野球をすればよい。

 

<セ・リーグ>

投手の変わりに野手をDHで置けるので、普段の野球よりも攻撃力が上がる。

 →ベテランや守備の下手な野手をDHに置く事で上手く選手を活用できる。

 →投手は「投手」に専念でき、攻撃時の都合によって交代される事がなくなる。

 

ゆえに、セ・リーグが有利になりやすい。

 

ただし、普段は控え選手でもある「9人目の野手」のレベルによっては攻撃力があまり上がらない事もある。

 

 

と、このようにして、DH制は寧ろパ・リーグに不利、セ・リーグには有利になるとさえ言われていた。しかし、セ・リーグがDH制有りを理解して上手く活用できなければほとんど意味は無く、そこまで有利不利が生じるとも思えない。

 

また、セ・リーグはDH制無しの事も理解していないように思えてならない。「投手は打てなくて当たり前」では、いつまで経っても進歩がない。

 

 

 

●パ・リーグが生まれ変わったのは2004年のプロ野球再編問題から

 

2004年にプロ野球再編問題が起こった。

 

・「近鉄バファローズ」と「オリックスブルーウェーブ」の合併

・1リーグ構想(他パ球団にも合併構想が浮上)

・ナベツネ独裁の顕在化(コミッショナーは置物)

 

これにパ・リーグは強い危機感を覚えた!

 

その後、

・合併球団「オリックスバファローズ」の発足

・新規球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」の発足

・中内ダイエーがホークス球団を孫ソフトバンクへ売却

・栄養費問題でナベツネ追放w

 

 

プロ野球再編問題以降、パ・リーグは「脱セ・リーグ」に舵を切り、独自の改革を推し進めていった。

 

・地域密着型のチーム作り(地元選手の獲得)

・ファンサービスの充実(収益の増加)

・ネットTVの充実(ファン獲得)

 

球団を持つ企業としてマーケティング戦略を練って実行していく事で、市場を広げ、地道な積み重ねによってファンが増えていき、収益も増えていき、着々とレベルアップしていった。今では特定球団のチカラに頼らなくてもよくなった。

 

 

その間、セ・リーグはどうだったか。

ジャイアンツは相変わらず「球界の盟主」を自称し、人気にアグラをかいていただけ。

他セ球団は、ジャイアンツ戦放映権料にあぐらをかいていただけ。

 

だが、そんなジャイアンツ戦も地上波で放送されなくなったために、ジャイアンツ戦放映権料に頼れなくなってしまった。更に栄養費問題をキッカケにナベツネを叩き出し、以前のようなジャイアンツ一辺倒のプロ野球界ではなくなっていった。

 

せいぜい、クライマックスシリーズ(CS)という名の敗者復活戦をマネして取り入れたくらいですかね。だが、特徴的な改革や企業努力は無かったに等しい。

 

 

セ・リーグは、旧態依然体質で保守的。

だから、いまだに新聞社や電鉄が球団経営をしている。(読売新聞社、中日新聞社、阪神電鉄)

 

パ・リーグは、斬新な改革を推し進めるリベラル派。

だから、今時のIT企業が球団経営をするようになった。(ソフトバンク、楽天)

 

この差は大きい。

 

 

●「人気のセ、実力のパ」は昔の話

 

かつてのパ・リーグは、球場は閑古鳥が鳴き、不人気・無名とバカにされ、雑な野球とバカにされ、パからセに移籍したFA選手はセでは通用しないなどとバカにされてきた。

 

だがもうそんなものは見る影もない。

 

「人気のセ、実力のパ」と謳われてきた事もあったが、それも昔の話。今では人気も実力もパ・リーグのほうが上回っている。もはやセ・リーグはプロ野球界の二軍に成り下がったと言ってもいいのではないか。

 

 

●パ・リーグとセ・リーグの実力差の原因はDH制に非ず!

 

パ・リーグはホークスだけが強いように感じるが、他パ球団は強いホークスに引っ張られるように全体的にレベルアップしていったのは間違いない。

 

ホークスの圧倒的強さや日本シリーズ4連覇ばかりが目立ってしまうが、その4年間で、ライオンズがリーグ優勝を2度しているし、マリーンズがホークスに勝ち越すシーズンが2度あった。決してホークス一強というわけではない。

 

これほどまでの実力差にするのに、パ・リーグは相当の努力をしてきた。この実力差の原因にDH制の有無など一切関係ない、これっぽっちもない、ほんの些細な一因ですらない。そう断言していい。

 

「問題をすり替えるなよ!」と言いたいし、たかだかDH制のせいにするなんて情けないと思わないのか?w

 

 

特にジャイアンツの言い訳は情けないしダサいとしか言いようがないw

 

2020年の日本シリーズ「ホークスvsジャイアンツ」では、ジャイアンツが2019年に続いて2年連続の同一カード4タテを食らってしまい、更に大変不名誉な記録まで作ってしまったw

 

 

そんなジャイアンツがオーナー名義で「DH制暫定導入検討のお願い」という文書をセ・リーグ各位に発表した。

 

 

結果から言えば、来季からのDH制導入はあっさりと却下された。これは既に来季の編成が一段落したからだと思うが、たとえ来年や再来年からセ・リーグにDH制を導入したところで、根本的には何も解決しない。

 

ジャイアンツからしたら、2年連続でホークスにコテンパンにされたわけで、それをDH制の有無やコロナ禍のせいにしたいのだろうが、単に短期決戦で勝てるだけの実力がなかっただけの話である。セ・リーグでは強くても、ホークス相手には全く歯が立たなかった。まさに「井の中の蛙」なのだ。

 

曲がりなりにも「球界の盟主」を自称するセ・リーグの王者が、あまりにも見苦しい聞き苦しいダサい言い訳すんなって!

 

老舗球団としてのプライドあるんか?

 
 
●DH制は現状維持が良い

 

個人的には、DH制には現状維持派である。

 

セ・リーグにはセ・リーグの、パ・リーグにはパ・リーグの特徴がそれぞれあってよいと思うからね。DH制の有無はその象徴とも言える。

 

雑で豪快で大味な「剛の野球」が面白いと思う人は、パ・リーグの野球を見ればよい。

丁寧で繊細で緻密な「柔の野球」が面白いと思う人は、セ・リーグの野球を見ればよい。

 

こうした住み分けは絶対に必要である!

 

ついでに、

打席に立ちたい投手は、セ・リーグに行けばよい。

打席に立ちたくない投手は、パ・リーグに行けばよい。

 

 

前述の通り、セ・リーグに試験的にDH制を導入する議論もあるわけだが、それだったら交流戦は何のために存在するのか?と。

 

交流戦は、セ・リーグ主催試合ではDH無し、パ・リーグ主催試合ではDH有りなのだから、交流戦18試合の中でDH制の有無それぞれの戦い方や考え方を学んで経験を積んでいけばよいのである。

 

DH制試験導入とか寝言ばっかり言ってないで、どうしたら勝てるか研究して実践するべきである。