日本プロ野球の「クライマックスシリーズ」(以下、CS)とは何なのか?
CS=Climax Series(クライマックスシリーズ)
このように表現すると、非常に聞こえが良いようにも思うけど、実態を知れば知るほど『敗者復活戦』でしかない事がよくわかる。
なお、筆者はどの球団のファンでもない。
普段は、金融・経済・政治ネタが主だが、今回はプロ野球のCSについて斬り込んでみた。
●CS導入のメリットとデメリット
メリット
・消化試合が減る
・収益増
デメリット
・ペナントレースの価値観が薄れる。
・天王山から終盤にかけての「何が何でもリーグ優勝」という白熱した試合が観られなくなる。
・「とりあえず3位以内に入っておけばOK!」という空気が蔓延する。
・リーグ優勝チームにとっては「罰ゲーム」以外の何モノでもない。
・勝率5割未満のチームによるCS進出があり得る。
・ペナントレース3位チームや勝率5割未満のチームによる日本選手権シリーズ出場があり得る。
●CSは敗者復活戦そのもの
日本プロ野球におけるCSの実態は『敗者復活戦』そのものであり、球団の親会社の都合によるものとしか考えられない。
せっかく、ブッチギリのゲーム差でリーグ優勝しても、その後のCSで負ける可能性は十分にあるわけで、そうなると、リーグ優勝するのがバカらしくなるのではないか。
私が、CSを全否定する理由の根底には、
・1988年の「10.19ダブルヘッダー」(オリオンズvsバファローズ)
・1989年の「パ・リーグ三つ巴」
・1994年の「10.8決戦」(ドラゴンズvsジャイアンツ)
・1996年の「メークドラマ」がある。
これらの存在がある。
CSの導入によって、ペナントレースにおいて、ああいう試合展開はもう二度と観られない! 断言してもいい!
●1988年の「10.19ダブルヘッダー」とは何だったのか?
ナゼ、1988年の「10.19」ダブルヘッダーがあんなにも白熱したのか。
1988年のパ・リーグは、夏場までライオンズが首位独走だったが、バファローズが驚異的な追い上げを見せた。
10月18日終了時点で、首位のライオンズは全日程終了。2位のバファローズは2試合を残し、ゲーム差0.5でマジック2が点灯していた。
バファローズの残り2試合のオリオンズ戦で、2勝すればバファローズの逆転優勝。それ以外はライオンズの優勝という状況になった。
優勝するためには何が何でも連勝しなければならないバファローズに対し、ダントツの最下位で消化試合だったオリオンズ。
だが、そういう時に限って、なぜか滅法強く、牙を剥いてくるのがオリオンズ(や、後のマリーンズ)の不思議なところである。
・(Youtube動画)
プロ野球 1988年 10.19 優勝を賭けた近鉄の死闘7時間33分 最終戦 川崎球場 ロッテ 対 近鉄 ダブルヘッダー
試合内容の詳細は、Youtubeなどにたくさん転がっているので省略するが、もしもこの時にCSがあったら、ペナントレースでこんな死闘を観る事なんてできなかったのは間違いない。
なぜなら、「このダブルヘッダーに負けてもCSで勝てばいいじゃんw」というふうになっていたに決まってるから。
このダブルヘッダーこそ、この試合の実況にもあった「This is プロ野球!!」に相応しい。
●1989年のパ・リーグ三つ巴
このシーズンのパ・リーグは球史に残る三つ巴大混戦となった。
1989年のパ・リーグは、6月終了時点でブレーブスが独走していた。2位バファローズとは8.5ゲーム差も離れており、もはや「優勝はブレーブス!」という空気も蔓延していた。しかし、7月途中から徐々に失速。そうしている間に、前年の雪辱に燃えるバファローズとV5を狙うライオンズが追い上げを見せ、8月12日にバファローズが首位となった。それ以降はシーズン終了まで大混戦が続く事となった。
10月12日のバファローズとライオンズのダブルヘッダーではブライアントが4連発を放つなどして打点を荒稼ぎしてライオンズを粉砕。同日、ブレーブスはオリオンズとのダブルヘッダーを制して首の皮一枚繋いだが、10月13日に敗戦。10月14日にバファローズが優勝した。
・(Youtube動画)
天王山の試合内容の詳細は、Youtubeなどにたくさん転がっているので省略するが、もしもこの時にCSがあったら、ペナントレースでこんな大混戦を観る事なんてできなかったのは間違いない。
なぜなら、「別に負けてもCSで勝てばいいじゃんw」というふうになっていたに決まってるから。
なお、このシーズンの日本シリーズでバファローズが3連勝した時にお立ち台に上がった加藤哲郎が言った「シーズンのほうがよっぽどしんどかった」というのは、この三つ巴大混戦の事を指している。決して「最下位ロッテより弱い」とは言っていない。とは言え、所々でジャイアンツを見下す事は言っていたとは思うけどねw
●1994年の「10.8決戦」とは何だったのか?
ナゼ、1994年の「10.8」が国民的行事になったのか。
1994年のセ・リーグは、夏場までジャイアンツが首位を独走していたが、8月下旬から9月上旬にかけて失速。対するドラゴンズは、来季の契約をしない旨を内示されていた高木守道監督の最後の花道を優勝で飾る事を目標にして驚異的な追い上げを見せていた。
本来なら、このシーズンのドラゴンズ対ジャイアンツのカードは9月27日・28日の2連戦が最終だったが、27日は台風の影響で中止、28日は試合が行われたが、27日の予備日だった29日も台風の影響で中止となり、10月8日に最終戦が組まれる事となった。
10月7日終了時点で、ジャイアンツとドラゴンズが共に129試合を消化して69勝60敗と並び、残り1試合となった直接対決で勝利したチームが優勝という状況になった。(マジックは点灯していない)
そして、運命の10月8日。名古屋に乗り込んだジャイアンツの長嶋茂雄監督は、この試合を『国民的行事』と呼んだ。
ホームチームで「追いついた側」のドラゴンズは、ジャイアンツキラーの今中慎二を先発に立てて、普段通りの姿勢で試合に臨んだ。
ビジターチームで「追いつかれた側」のジャイアンツは、投手三本柱(槙原寛己→斎藤雅樹→桑田真澄)を投入して勝利への執念を見せ付けた。
試合はジャイアンツが勝利して優勝した。ドラゴンズは2位に終わり、高木監督は来季続投となった。
試合内容の詳細は、Youtubeなどにたくさん転がっているので省略するが、もしもこの時にCSがあったら、ペナントレースでこんな死闘を観る事なんてできなかったのは間違いない。
なぜなら、「この最終戦に負けてもCSで勝てばいいじゃんw」というふうになっていたに決まってるから。
この試合こそ、長嶋監督が呼んだ『国民的行事』に相応しい。
●1996年の「メークドラマ」
1996年のセ・リーグは、6月まではカープが独走していた。7月6日の時点で、ジャイアンツは3位で首位カープとは11.5ゲーム差も離されており、もはやリーグ優勝は絶望的だった。「優勝はカープで決まり!」という空気も蔓延していた。
7月9日の札幌円山球場のデーゲームが行われるまでは。
その日のジャイアンツ対カープで、ジャイアンツは9打者連続安打というプロ野球タイ記録を樹立して勝利。
これを機に覚醒したジャイアンツは、夏場に驚異的な追い上げを見せて、ついにジャイアンツが首位に躍り出た。カープは一時は首位を奪い返すものの最後まで踏ん張り切れず、ジャイアンツに優勝をさらわれた。
このシーズンの劇的優勝を長嶋監督は「メークドラマ」と名付けた。
●ペナントレース中の大逆転劇
1996年の「メークドラマ」以外にも実例はある。
<CS導入前>
1963年のパ・リーグでは、ホークスがライオンズに14.5ゲーム差を逆転された。
1998年のパ・リーグでは、ファイターズがライオンズに10.0ゲーム差を逆転された。
<CS導入後>
2008年のセ・リーグでは、タイガースがジャイアンツに13.0ゲーム差を逆転された。
2011年のセ・リーグでは、スワローズがドラゴンズに11.5ゲーム差を逆転された。
2016年のパ・リーグでは、ホークスがファイターズに11.5ゲーム差を逆転された。
CS導入前までは、何が何でも「リーグ優勝」を目指していたはずだ。2位なんて6位と同じなんだ、と。
しかし、CSが導入されると、2位や3位でも事実上の「敗者復活」が与えられる事になり、首位に独走されても無理に追いかけなくてもよくなった。親会社も3位以内に入れば万々歳なのだろう。
CS導入後も、無理に追いかけて大逆転してリーグ優勝したのが上記の3例だが、「10.19ダブルヘッダー」や「10.8決戦」や「メークドラマ」のような緊迫感があったわけではない。
なぜか? それは「負けてもCSがある」という安心感が心の片隅にあるからだ。
そして、例え独走してリーグ優勝しても、その後のCSというたった数試合の短期決戦で、日本シリーズ進出の権利を失う可能性も大いにある。
●CSの名場面?
CSの名場面として、ファンの間でよく挙げられるのが、以下の2試合だと思う。
・2006年10月7日のパ・リーグCS第1ステージ「西武vsソフトバンク」
・2006年10月12日のパ・リーグCS第2ステージ「日本ハムvsソフトバンク」
いずれも2006年のパ・リーグのCSで、このあたりが語り継がれている名勝負と言われている。
しかし、私からすれば、そういうゲームをペナントレースや日本シリーズで見たいのですよ。敗者復活戦の要素が強すぎるCSで見ても何の意味もない。
懐古主義と言われようと、「10.19」や「10.8」のような劇的な試合には遠く及ばない。
選手たちには大変申し訳ないが、これは厳然たる事実。
●メジャーリーグ(MLB)のプレーオフ
一方、メジャーリーグはどうなっているのか。
メジャーリーグでは、1994年より各リーグ東・中・西の3地区制になった事で、その数合わせのために「ワイルドカード」が導入された。
各リーグにおいて各地区の2位チームの中から、最も勝率の高い1チームがワイルドカードを獲得するシステムだった。
2011年シーズンでいえば、レイズ(ア・リーグ東地区2位)とカージナルス(ナ・リーグ中地区2位)がワイルドカードを獲得している。
「消化試合の減少」や「収益増」といったメリットもあったが、地区優勝争いがイマイチ盛り上がらなくなり、ワイルドカードが見込めれば、無理に地区優勝を狙わなくなった。
そうした弊害を解消するために、2012年より「ワイルドカードゲーム」が導入された。
各リーグにおいて各地区の2位チームの中から、最も勝率の高い2チームがワイルドカードを獲得し、そのチーム同士で1発勝負のワイルドカードゲームを行い、勝利したチームがディビジョンシリーズに進出できる。
2012年シーズンでいえば、ア・リーグは、レンジャースとオリオールズでワイルドカードゲームを行い、ナ・リーグは、ブレーブスとカージナルスでワイルドカードゲームを行う。
「ワイルドカードゲーム」は、地区シリーズに出場するための予選みたいなもので、「1発勝負」で行われ、勝利したチームがディビジョンシリーズに進出できるシステムにした事で緊張感が増し、地区優勝の価値を取り戻した。
しかも、ディビジョンシリーズで待ち受けているのは、各リーグの勝利数1位チームなので、かなり厳しい戦いとなる。一発勝負のワイルドカードゲームでエースをつぎ込んでいた場合は、相当不利な試合となる。
全ての矛盾点を解消できたわけではないが、メジャーリーグは何だかんだで工夫が見られるようになった。
しかし、日本プロ野球は、両リーグでCS導入となった2007年以降、何も変わっていない。
CS賛成派の連中は、些細なメリットばかり強調して、こうしたペナントレース軽視のCSによる弊害を一切指摘しない。OB連中も口を閉ざしたままで全くの役立たず。
●落合博満氏の譲歩案
・ベースボールチャンネル(2016.09.29)
落合氏は、クライマックスシリーズ反対派だが、ここにある落合氏の提案する「たすき掛け日本一決定戦」は、落合氏なりの最大の譲歩案・妥協案だと思う。
●王貞治氏が提唱する16球団構想
王貞治氏は、16球団構想を掲げている。
・西日本スポーツ(2020.01.11)
「野球界のためにはできるものなら16、あと4つ球団が誕生してほしい。」
「16チームならCSもあれこれ言われなくてすむ。12だから変なやり方になっていると言われる。」
私は大賛成ですね。しかも、こういう提案を、プロ野球界で最も影響力のある人が言った事は非常に大きい。本当は若い現役選手やOB連中にドンドン提案してほしいんだろうけど、誰も言わないから自分が言ったのかもしれないが。
具体例までは言っていなかったようだが、おそらくは、「セ・リーグ西地区」「セ・リーグ東地区」「パ・リーグ西地区」「パ・リーグ東地区」の4地区を作り、それぞれに4チームずつ振り分けて計16チームにして、そこから勝率1位チームの計4チームでプレーオフを戦う…という構想なのだろうと推測する。
2004年のプロ野球再編問題で球団数やリーグ数が減らされるかもしれない危機から脱却し、巨人一辺倒のナベツネプロ野球に別れを告げ、各チームが地域密着に根付かせる事に成功した。
16球団にするには、あと4チーム作らねばならず、名乗りを挙げる大企業がいるかどうかはわからないが、日本の野球レベルを上げていくには、球団数を増やして受け皿を広げて競争を煽ったほうが絶対にいい。
そうすれば、CSなどという「敗者復活戦」など必要なくなるでしょう。各地区1位チーム同士でプレーオフを争ったほうが盛り上がるに決まっている。
地方創生の観点からも、地方で新球団が誕生してくれたらと思う。